年が変わろうかというのに、両親は出張先から帰ってこなかった。
ま、その代わりに乙女さんが家にいてくれることになり、大晦日の夜が明けて、新年を迎えた。
外は実にいい天気、初日の出もしっかりと拝むことができた。
俺は乙女さんに起こされることなく起床、そのまま洗面所へと直行する俺。
まだ寝ぼけ眼の俺に、周囲の音とかは全く気にならなかった。
昨日は姫が昼ごろに『誕生日を祝え!』なんて言って、ここでおもいっきり騒いでいた。
そのまま佐藤さんと海外へ旅立って行っちゃったし。
とにかく後片付けで大変だった。
おかげでうっかり風呂に入るのを忘れてしまっていたので、とりあえず今はシャワーでも浴びよう。
「ふぁ〜あ…」
ガチャリと扉を開けると…
「…新年早々、ご挨拶なことだな」
乙女さんがシャワーを浴びていた。
もちろん素っ裸で。当たり前だ、服を着たままでシャワーを浴びるやつなんてそうはいない。
さて、フリーズしていた思考も一気に活動を再開するようなこの事件に、俺はどう対処したらいだろう?
もはや恒例行事になりつつあるが…
ここは精一杯のさわやかな笑顔でいこうか。
「乙女さん、新年明けましておめでとう!それじゃそういうことで…」
「済ませれるわけがないだろうが!」

ボグシャーン!!

着替えが終わってから、スバルとフカヒレとカニが家にやってきた。
「新年明けましておめでとー!」
「おっす。おめでとさん」
「ん?なんでそんなにボロボロなんだよ、お前」
「ま、お約束というやつさ…」
「うん、準備はできているみたいだし、初詣に行くとするか」


電車で俺達は神社へと向かった。
雑誌に『初詣はここでキマリ!』という記事を見て、今年の初詣の場所を決めたのだ。
昔の趣を今に残す町。夏ではここの海を訪れる観光客が結構多いらしい。
「やっと着いたな。で、場所は?」
「ええっと…いけねぇ、地図を忘れちまった」
「何をしているんだ、鮫氷。仕方がない、道を尋ねるとしよう」
話しかけやすそうな人を探したところ、俺達が目に付いたのは180はあろうかという長身の女性だった。
目はきりっとしており、長い髪の毛は見たこともない結わえかたをしている。
飾り気のない服を着ており、誰かを待っているような雰囲気だ。
「レオ、どうし…むぅ、あの女性、かなりの使い手と見た」
「いや、乙女さんそれは違うぜ。きっとあの人は寂しいのさ。男の人を健気に待ち続けているのさ。
 そこへ俺が登場し、彼女の心を癒してやる、と。そういうわけであの人に聞いてみるぜ!」
フカヒレが物怖じせずにその女性の前に歩み寄る。
いい度胸してるぜ、お前。
「なーレオ、ボクはあいつが3秒で撃沈するのに500円賭ける」
「じゃ、俺は10秒に500円」
「いや、そうともかぎらねぇぜ。俺は3分以上に500円だな」
「それはねーだろ、スバル。おっと、話しかけたよ」
フカヒレはいつもの軽い調子で女性に話しかけた。
「ねーそこのお姉さん。道教えてくれませんか。そしてさらに俺の心を潤してくれませんか」
「えっ…あぅ…その…」
なんだか見た目と全然違う。フカヒレに対しておっかなびっくりしてるし、やたら言葉がたどたどしい。
もしかして極度の口下手?西崎さんといい勝負かもしれない。
人は見かけによらないものだ。
「結構ねばるな…」
「賭けは俺の勝ちだな。で、最後は待っていた相手が邪魔をするってとこかな」
そうスバルが言うと、遠くからカニほどの小さな女の子がやってきて声をかけた。
さらに向こうには、女と見間違えそうな男と、メガネをかけた女の子がいる。
長身の女性は女の子に引っ張られてどこかに行ってしまった。
「スゲェ、スバルの言うとおりになったぜ」


フカヒレのナンパ大作戦はいつものように失敗で終了。
それにもめげないところがこいつらしいと言うかなんと言うか。
別の人から道を聞き、俺達は神社へと向かった。
「露店も沢山出してるみたいだね」
「今日のような日は稼ぎ時だからだろう。店を回るのもいいが、まずは御参りをしてからだな」
賽銭を入れて御参りをし、そのままおみくじのところへと足を運ぶ。
おみくじの受け答えをしているのは、さっきの女の子よりもさらに小さい女の子だった。
「おみくじは1回300円であるぞ」
「ど、どうも」
やたらと尊大な話し方をする女の子だった。
フカヒレがその女の子を見てハァハァしていたが、スバルとカニの見事なツッコミであえなく終了。
「さて、それじゃ店を見回ってみるとするか」
「そうだね」
「さんせー!」
はぐれないように、みんなで固まって行動することにした。
しばらくしていきなりすごい人ごみを発見。
金髪の女性とツインテールの女性がくじ引き屋をやっていたんだけど…
「さぁさぁ次はどなたかな?
 この中から特賞を出したお客さんには、もれなくこのツインテールがチャームな女の子と一日デートができるよー!」
「うおぉぉ!俺やります!つーかやらせてくれ!」
フカヒレが早速名乗りを上げた。
すぐ飛びつくんだから、こいつは…
「聞きたいんだけど…デートってどこまでやっていいの?」
「もちろん!ZまでOKだー!」
「何ィィ!?Zってなんだァァァ!?」
「ちょっと待ってよ瀬芦理姉さん!アタシこんなやつとなんて嫌よ!」
「あれー?賭けに負けて何でも言うこと聞くって言ったのはどこの誰だっけー?」
「とにかくとにかく!くじ引きさせてくれー!」
「まいど。1000円になりまーす」
「高ッ!」


ガラガラガラ…
「出た…よっしゃー!金色の球!略して金た…」
「それ以上言うんじゃねぇ!(ゲシッ)」
「いたた…とにかく、間違いなく特賞ッスよね!?
 いやー、生きててよかった…」
「あ、ソレは特賞じゃないよ」
「へ?」
「特賞は金色の球で、さらに『特』って文字が書いてあるんだよーん。それは敢闘賞だね」
「そんな敢闘賞なんざ聞いたことねぇ!闘ってねぇし!」
「でもレアなものをあげるよ。ほら、近所で有名な『雛乃印の飴』をプレゼント。
 いいことをしないとある人からもらえないレアアイテムだよ」
「ううううう…こうなったら特賞が出るまで頑張ってやるぜ!あと10回!」
「にゃはは、まいどー」
フカヒレはよっぽど悔しかったのか、もう意地になっちまったみたいだった。
こりゃ諦めるのを待つしかなさそうだが…
「おい、レオ。止めてやらないのか?」
「うーん、さすがにかわいそうだから止めてやるか。スバル、協力頼む」
「あいよ」
1万円札を出そうかというフカヒレをとっ捕まえて、そのままズルズルと引っ張っていった。
いくらなんでもありゃインチキに決まってるだろうが。
ほんとに進歩しないやつだ…
「さ、気をとりなおして別のところに行ってみようぜ」
「ちくしょー!今年こそ絶対幸せになってやるー!」

「ちぇー、せっかく大儲けできると思ったのに」
「いくらなんでもマズイわよ。そろそろ撤収したほうがいいんじゃない?」
「うーん、仕方ないかー」
「片付けてから雛姉さんのところに行きましょ」


さらに歩いていくと、今度は『占い』と非常にわかりやすく書いている看板を発見した。
「占いなんかもやってるんだな」
すると、何やらカニがおもいがけないものを発見したようだ
「ん…?ねーレオ、あれって祈ちゃんじゃねーの?」
「どれどれ…あー!ホントだ!祈先生!」
祈先生を見つけた俺達は、先生の前にぞろぞろと集まった。
「あらあらあら、明けましておめでとうございます、みなさん。
 こんなところで会うとは、何かのご縁でしょうか」
「そりゃ俺との、ですか?」
「フカヒレさんとの縁は早々に断ち切ってしまいたいところですわ」
「うわ、ストレートに拒絶されたよ」
のんきな顔をして椅子に腰掛けているのは、間違いなく担任の祈先生だった。
超めんどくさがりの祈先生が商売してるなんて、どういう風の吹き回しなんだ?
「何をやっているんですか、こんなところで」
「私も元旦に働きたくはありませんわ。それもアルバイト同然のような行為を。
 しかし、我が家の財政がそれはそれは恐ろしいことになっておりますので…」
なるほど、こうやって金を稼いでいるのか。
それにしても、こんなところで会うなんてすごい偶然だな。
「ありゃ、そういえば土永さんがいねーぞ」
カニがそう言うと、祈先生はちょっと不機嫌な顔になった。
「あの鳥公は私のお気に入りの服を破いてしまいましたから、今は絶交状態です。
 3学期が始まるまで帰ってくるなと言っておきましたわ」
「そ、そうですか」
多分原因を作ったのはこの人のような気がするんだけどなぁ…
土永さんが必死こいてエサを探している光景が目に浮かぶぜ。


「それよりどうですか?占ってさしあげましょう」
「そんじゃさー、ボクの一年がどうなるか占ってよ!」
「わかりました。それでは…」
「まぁ、品行方正なボクのことだから、いい結果しか出ないのはわかってるけどねー」
「えらいぞ、カニ。『品行方正』なんて言葉、良く知ってたな」
「へへん、意味は知らねーけどね」
ま、カニの頭脳なんて所詮はこんなもんか。
先生の占いは必ず当たるっていつも言ってるけど、果たしてどうなることやら…
「出ました。蟹沢さんは『私にお金を払う』と出ていますわ」
「ちょっと待ってよ。ボクは祈ちゃんにお金なんか借りてねーよ」
「でも、そう出ております。それでは、占ったので代金を支払ってくださいまし」
「うええええ!?なんでさー!?
 タダにしてくれるんじゃねーのかよ!」
「誰もタダにするなんて言っていませんわ。勝手に解釈しないでください」
「あー、確かに言ってねぇな」
それであんな結果が出たのか。ほとんど詐欺じゃねーか。
しぶしぶお金を財布から出したカニは、なんだかしょんぼりとしてしまった。
これじゃ今年の運勢は最悪だろうな…
俺達は祈先生と別れて、別の店を回ることにした。
「仕方ないな…何か食べるとしようか」


腹が減った俺達は、おでんを買ってみんなで食べることに。
カニがあまりにもしょぼくれていたので、ここは乙女さんが負担してくれた。
「うんうん、ボクはいい先輩を持ったねぇ」
とりあえずカニはご機嫌なようだ。
やっぱりバカは立ち直りも早い。
「言っておくが蟹沢、先輩は後輩におごってやったりして面倒を見なくてはならないんだぞ」
「ということは、カニは椰子におごらないといけないってことになるな。俺達もだけど」
「へっ、ココナッツにおごってやるための金なんて、ビタ一文ありゃしねーよ。
 逆なら別にいいけどね」
ダメだ、こいつは…絶対に見本にしてはならない先輩の典型的タイプだ。
まぁ、誰もコイツを見習ったりはしないだろうけど。
「さて、それじゃ帰るか」
「そうだな」
「えー、ボクまだ食べたりない」
「俺も女を漁りたりない」
「フカヒレ、無理なことを言うな」
「無理じゃない!今年こそ、今年こそは…!」
「まぁ、後は帰ってからにすればいいじゃないか。さぁ、駅まで行くぞ」

松笠まで帰ってきた俺達は、そのまま家まで向かった。
帰りにカニが『オアシス』でテンチョーに新年の挨拶をするために寄ったが、
どういうわけかカニとテンチョーが喧嘩を始めたので、そのまま放置して帰ることにした。
「ちゃんと挨拶しに来たんだから給料上げろやバカテンチョー!
 無理だってんならせめてお年玉をよこしやがれ!」
「オー、ツイニ根性ダケジャナクテ脳ミソマデ腐ッテシマイマシタカ、コノファッキンカニ野郎!」
「ボクは淑女だ!野郎じゃねーよ!」


家に入った俺と乙女さんは、とりあえず改めて互いに新年の挨拶をすることにした。
なんせ朝からいきなり風呂場事件があったもんだから、ちゃんと挨拶してなかったもんで。
それにしても二人っきりの元旦なんてなぁ…
なんかオラ、すっげぇワクワクするぞ。
「改めて、明けましておめでとう、乙女さん」
「明けましておめでとう、レオ」
「いやぁ、こうやって一対一で挨拶すると、なんだか照れちゃうな」
「姉弟なんだからいいだろう。さて、それでは早速着替えろ」
「え?もしかして…」
「そう、トレーニングだ」
「いや、今日は元旦なんだし、別にいいんじゃ…」
「何を言っている。元旦だからこそ、気合を入れてやらなくてはならないだろうが。
 『一年の計は元旦にあり』と昔から言うだろう」
「そ、そんなぁ…」
「いいからさっさと着替えてこい!」
「とほほ…」

俺の一年はこうして幕を開けた。
今年も無事に過ごせますように…


(作者・シンイチ氏[2006/01/01])


※関連作 姉しよSS「初詣に行こう・姉しよ編

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル