「う〜…ゲホッゲホッ」
「大丈夫ですかレンちゃん!
お姉ちゃんより先に逝ってしまったらだめですー!」
自分の部屋でベッドに横になっている俺。 不覚にも風邪をひいてしまったのだ。
もっとも、原因は庭でナトセさんに水をぶっかけられたことなんだけど。
「ごめんね、レン君。 私のせいで…」
ナトセさんは申し訳なさそうな顔をして言った。
「いいって、ナトセさん。 鳩ねぇもありがとう」
「今日はお姉ちゃんがつきっきりで看病してあげたいところですが、
 ミューちゃんとお買い物に行く約束をしていますし…」
「だったら行ってきなよ、鳩ねぇ。 俺は大丈夫だからさ」
大げさだなぁ、鳩ねぇは。 大したことないのに。
ま、とにかく今日は大佐から一日休んでおけと言われてるし、ゆっくりするとするか。
「ほーれ下男、元気にしとるかー?」
「元気じゃねぇのは見ればわかるだろ」
ベニ公がお粥持って入ってきた。 まだ何も食べてないし、ちょうどいいや。
「まったく、バカのくせに風邪ひくのねぇ、アンタは。 ほれ、体起こしな。 食べさせてやるよ」
「ダメですよー、ベニちゃん。 そんなことをしてレンちゃんをたぶらかそうとするなんて。
 はい、お姉ちゃんがふーふーして食べさせてあげますからねー」
「こんな奴なんか狙うか!」
「あはは、じゃあ私が食べさせてあげるよ」
「いけませんー、弟にお粥を食べさせてあげるのはお姉ちゃんの役目ですー」
みんながワイワイやってるうちに、俺は一人で黙々と食べていましたとさ。


うーむ、昼飯を食ってからすることがない。 暇で暇でしょうがないな。
まぁ、風邪を引いたときって普通はこんなもんだよな。
小さい時は、鳩ねぇが自分も学校を休んで看病してくれたっけなぁ…

コンコン

「どなたー?」
「レン兄、僕ですよ」
ドアを開けて、手に換えのタオル数枚と氷の入った袋を持ったハルが部屋に入ってきた。
「よいしょっと…ええと、今日はこれから、僕がつきっきりで看病する事になりました」
「つきっきりって…いいよ、そこまでしなくても。 そんなに酷くないし…」
「いいえ、そういうわけにはいきません。
 僕の今日の仕事は終わりましたし、大佐も『男同士なら退屈もしないだろう』と言ってましたから」
ハルが俺のベッドの横にちょこんと座る。
「おでこのタオル、換えますね」
水の入った洗面器に持ってきた氷を入れ、そこに新しいタオルを浸す。
そして俺の額から、熱でぬるくなったタオルを取り上げた。
十分に冷えたタオルを洗面器から取ろうとすると…
「うわっ、冷たい! …うーん、うーん……」
冷たいのを耐えて、力いっぱいタオルを絞るハル。
何とも細い腕に、精一杯力を込めていた。
「ふぅ…はい、冷たいですよー」
ハルが俺に近づいた時、ふわりといい匂いがした。 綺麗な髪を見て、一瞬ドキッとしてしまう。
…って、ちょっと待て。 こいつは男なんだぞ。 女に見えるけど、れっきとした男なんだぞ。
そんなことも気にせず、ハルはタオルを俺の額に乗せた。 冷たいのが何とも気持ちいい。
「おぉ…」
「どうですか? 大丈夫ですか?」
「あ、ああ。 気持ちいいぜ」
「本当ですか? よかったぁ…」


「ふー、ふー…はい、どうぞ」
「お、おお」
晩飯もハルがつきっきりだった。
現在の状況は、ハルがお粥を息で冷まして俺に食べさせているところ。
ちくしょう、どうしてこいつはこんなに女っぽいんだ。
本当に女だったら、間違いなく誰も放っておかないだろうなぁ。
いっそのこと…
「うがー!!」
「ど、どうしたんですか?」
「い、いや…なんでもない……」
落ち着け、落ち着け上杉錬! お前も知ってるだろ! こいつは限りなく女に近い男なんだぞ!
「もう、レン兄ったら…はい、もう一口どうぞ」
「あむ…ううむ……」
蓮華にお粥をすくい、にっこりと笑って俺の口に運ぶ。
どういうわけかこいつの周りからキラキラという擬音が聞こえてきそうだ。
それぐらい、ハルの笑顔は眩しい。
お、俺は…俺はーーー!!!!!
「レンちゃん、大丈夫ですかー?」
「あ、美鳩さん」
「鳩ねぇ…うん、大丈夫だよ」
危ねぇ…今、マジで危なかった……ありがとう、ナイスタイミングだよ鳩ねぇ。
鳩ねぇは俺に近寄って、ピタリと手を額にあてた。
「うーん、まだもうちょっと熱がありますねー。 今日はお姉ちゃんが一緒に寝てあげますよー」
「い、いいよ。 うつるかもしれないし」
「そうですかー? お姉ちゃんはレンちゃんからの風邪なら、むしろ欲しいぐらいですよー?」
「いや、さすがにそれはちょっと…それよりも鳩ねぇ、ミューさんのほうはいいの?」
鳩ねぇはちらりと部屋の時計を見た。
「あら、そう言えばお風呂の時間でしたね。 それではレンちゃん、早く良くなってくださいねー」
そう言うと、鳩ねぇはそのまま部屋を出て、ミューさんの部屋へと向かった。


「さぁ、それではレン兄、お薬の時間ですよ」
ハルが薬を持ってきてくれた。 しかし、なぜか水は持ってきていない。
「それじゃレン兄、お尻を出してこっちに向けてください」
「は!? ちょっと待て、俺はそんな趣味は…」
「? やだなぁ、薬ですってば。 座薬ですよ、座薬。 まだ熱がありますからね」
ああ、座薬ね。 なんだそういうことか。
「って何イィィィィィィ!!!!!??????」
「ちゃんとやっとかないと、早く治りませんよ?」
「いや、ちょっと待て。 そういうのは自分でやるもんだ。 そうだろ? な? な?」
俺が必死に抵抗しようとすると、ハルは顔を赤らめた。
「いえ…だって僕は、レン兄の看病を任されてますから…それに……」
「そ、それに?」
「レン兄なら、別に構いませんから…」
「何が構わねぇんだーー!!!! うぐ…こ、こんな時に……」
叫んだら頭がふらっとしてきた。 力も出ない。 やべぇ、このままじゃ…
「レン兄…」
「いや、百歩譲ってやってもらうとしよう! でもな、頼むからそんな顔をしないでくれぇぇぇ!!」
そんなハートにズギュンと来る顔を俺に向けて、ハルは…
「大丈夫、痛くはありませんから…」
ゆっくりと俺のズボンを脱がし…
「うううぅぅ…ハ、ハル…」
そしてパンツも脱がして…
「わ、レン兄のって大きい…でも、それよりも今は薬を……」
俺を四つんばいにして…
「いきますよ…」
俺の尻に薬を…
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」

「だー!! うっせーぞ下男!!」
ベニ公が俺の叫びを聞いて怒鳴りにきやがった。
切れた…俺の体の中で何かが切れた…決定的な何かが……


「あ、アンタ達…」
時が止まった。 この部屋の、この空間の時間が完全に凍りついた。
「そうしたのだ、騒々しいぞ」
「何があったのかしら?」
「何々? 今の叫び声?」
「レンちゃん、どうしたんですかー?」
「どうしたの!? 侵入者!?」
ベニ公に続いて、屋敷の女性全員が駆けつけてきた。
さて、今の俺の状態を確認しておこう。

俺が 下半身むき出しで 四つんばいになって ハルに 尻を 向けている
ハルは その俺の尻に 片手を当てている

しかも見事に、皆の視線から薬は見えないようだった。
「……ま、まぁ誰にでも変わった性癖というものはあるものね」
「ゆ、夢は見ちゃだめだよ!」
「ナ、ナトセさんひっぱらないでよぅ!」
「レンちゃん…よりによってお姉ちゃん離れどころか、男に走るなんて……よよよ…」
「ほほう、これは面白いことだなぁ……ま、呑み直すとするか」
「いや、もうアタシは何も言わないから…そんじゃ」
そして時が動き出し、皆はぞろぞろと部屋を後にするのだった…
「ま、待ってくれ! 誤解だ! 誰か、誰か話を聞いてくれぇぇぇぇぇ!!」

一応ではあるが、俺はその後、必死の弁解をして誤解を解くことに成功する。
そこには幾多もの苦難が待ち受けているのだが、それはまた別の話。
ただ、とりあえずこれだけは言わせてくれ。

俺は、ホモじゃねぇーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!


(作者・シンイチ氏[2007/08/18])


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