空也と瀬芦里姉さんが突然海外漫遊に出て行って一ヶ月。
要芽姉様が海外に行ってしまってから半月。
柊家では残ったみんなの生活が少しだけ変わった。
海は相変わらず何らかの手段を使って空也と連絡を取ってるらしい。
「でも瀬芦里お姉ちゃんが連絡の邪魔するらしいの〜。私としては遺憾の意を表明しちゃうよ〜。」
とぼやいていた。
雛姉さんの生活にあまり変化があるようには見えない。
むしろ前よりも少し元気になったらしく、
「うむ、我も昼間、寝てばかりいてはなんなのでな、”ばいと”を探しているのだ。」
と張り切っていた。
一番の変化があったのは・・・
「あぅ、またご飯、七人分作っちゃった。」
巴姉さんだ。
「えーっ、またなの!?アタシはもう二人前も食べられないって昨日言ったからね!」
「うぅ・・・。ご、ごめんよ。」
「巴お姉ちゃん、最近量をよく間違えるよね〜。なんなら明日からはあたしが作ろうか〜?」
「高嶺、海よ。そうぼやくでない。世界には食べたくても食べられない子供たちがいるというではないか。それに何より、巴の作ったご飯はおいしい。食べきれないなら、明日の学校での弁当にすればよかろう。」
「それもそうね。でも、巴姉さんはたくさん食べてよね。明日の夕飯も同じメニューなんてゴメンだから。」
「私は巴お姉ちゃんに感謝してるよ。作ってくれてるだけでもありがたいんだから〜。」
「あは。海、ありがとう。」
「自分だけ良い子ぶりやがって〜。」
「(・ε・)」
と、言うような事が頻繁に起こるようになった。
ご飯のことだけじゃなく、雛姉さんは、
「前にも増して、巴の部屋から聞こえる独り言の数が多くなった。」
と言うし、今まで寝坊なんてしなかった巴姉さんが朝になって飛び起きてくることもあった。
そして何より、どうやら来るべきものが来てないらしい。
その日がくると巴姉さんは一日中お腹を押さえて苦しそうにしているのに、最近それを見ていない。


次の日の午後、大学から帰ると、雛姉さんが
「高嶺、荷物を置いたら我の部屋まで来い。」
「いいけど、何で?」
「ちと、巴のことでな。」
荷物を二階の部屋に置いてから雛姉さんの部屋に行くと、海もいた。
巴姉さんはまだ家に帰ってきていないようだ。
「で、雛姉さん、巴姉さんのことで話って、何よ?」
「うむ。二人とも気が付いているとは思うが、最近の巴は様子が変であろ?」
「確かにね〜。この間も洗濯機がぐるぐる回るのをボーっと三十九分十二秒も見てたんだよ〜。」
「ア、アンタ、その間ずーっと時間計ってたの?」
「ま〜ね〜。証拠写真もあるよ〜。」
「ゴホン!兎に角、こうなると巴には何らかの悩みがあるのでは?と我は思うのだが。」
「多分その見解に間違いは無いわね。」
「だが、巴はあれで悩みとかは一人で抱えてしまう奴だ。そこで二人に相談なのだが、何か巴から悩みの種がなんであるかを聞きだす方法は無いか?」
「なんだ〜。そんなことなら簡単だよ〜。」
「アンタ、なんか良い方法でもあるの?」
「自白剤さえあれば、誰でもこの問題は解決できるよ〜。用意しようか?」
「ア、アンタ何言ってるの!?そんなのダメに決まってるじゃない!ねぇ?雛姉さん。」
「ふむぅ・・・。自白剤、か。」
納得してるし・・・。
「ダメダメダメ!自白剤は絶っっ対ダメ!」
「ふむ、高嶺がそこまで言うなら、ほかの方法を考えざるを得ないな。」
「じゃあ、高嶺お姉ちゃんは何かほかに考えがあるの〜?」
「うぅ・・・催眠術、とか?」
「結局同じじゃない〜。それだったら自白剤のほうが・・・。」
・・・


「おお!我に名案が、いや、ここまでの策なら妙案、と言っても過言では無いな。」
「何何?どんな方法なの?」
「ふふふ、聞いて驚け、みて驚け。いや、このままだと我は歴史上に『伝説の策士』として名を残してしまうかも知れぬな。ま、そうなった時でも安心せい。我はお前らを見捨てはせぬぞ。」
「「・・・」」
「で、早速我の妙案が聞きたいであろ?二人ともちこう寄れ。」

雛姉さんの思いついた妙案と言うのは・・・
一、前に瀬芦里姉さんが『まるっち』の販売用に作ったあの着ぐるみを私が着て、巴姉さんの部屋で待機。
二、巴姉さんが帰ってきて、部屋に入ったところでアタシがぬいぐるみの妖精として話しかける。
三、ぬいぐるみと心が通じたと思わせておいて、悩みを聞いてあげる。

「すご〜い!流石雛乃お姉ちゃん!それなら絶対うまく行くよ〜。」
海は手をパチパチと叩いて喜んでいる。
「ふふふ、完璧、であろ?」
「ちょ、ちょっと海!」
「何?」
雛乃姉さんには聞こえないように海に問いかける。
「アンタ、本当にそれでうまくいくと思ってるの?」
「当たり前じゃない〜(・ε・)。巴お姉ちゃん、あれで結構抜けてるところあるから、ばれないよ〜。」
「巴姉さんだって、そこまで馬鹿じゃないわよ!」
「誰も馬鹿だなんていって無いよ。巴お姉ちゃんは純粋なのー。早くデジカメの準備しなくちゃ!」
「高嶺、早くしなくては巴が帰ってきてしまうぞ。」
「ぬうぅ・・・分かったわ。」

アタシがまたこの間抜けなぬいぐるみを着るなんて・・・。
大量のぬいぐるみに囲まれて、巴姉さんが帰ってくるのを待っている。
こんなところにいるとアタシまでおかしくなっちゃいそうだわ。
雛姉さんは怪しまれないように巴姉さんを普通に部屋まで誘導する役。
海は瀬芦里姉さんが残した天井裏ルートからアタシと巴姉さんを”見守る”役。
あいつ、絶対この計画を利用して私を笑いものにする気だわ。


「高嶺、聞こえるか?今巴が帰ってきたぞ。」
連絡用にと海が持ってきたトランシーバー(イヤホンつき)を通して、雛姉さんの声が聞こえる。
「がんばってね。高嶺お姉ちゃん。私は見守ることしか出来ないけど。あ〜、いい表情〜(パシャ、パシャ」
・・・なんか踊らされてる気がする。
廊下からトントンと足音がする。
巴姉さんだ。
こんな馬鹿らしい(とは口が裂けてもいえない)計画でもなんだか緊張するわね。
部屋の前で足音が止まって、巴姉さんのシルエットが障子戸に手をかける。
ガラッ
「たっ、高嶺!何やってるんだ?私の部屋で。」
・・・
(カシャッ、カシャッ)
待ってましたとばかりに、イヤホンを通してシャッターを切る音が聞こえる。
早速ばれてるし。
「な、なんでもないわよっ」
すっと立ち上がり部屋から出て行こうとするアタシを、ボーっと見つめる巴姉さん。
「ダメだよ〜、高嶺お姉ちゃん。今回を逃したらもう次は無いよ〜。」
しょっ、しょうがないわね。
くるっと巴姉さんのほうを振り返り
「うぅ〜〜〜。巴姉さんの様子が最近変だから、私が聞いてあげようと思ってこんな格好してるのよ。
ホラ、巴姉さんってこうでもしてほぐさないと、悩み話さないでしょ!」
「高嶺・・・」
ウルウルとした瞳であたしの事を見ている。
もう、早く話しちゃってよね。
一刻でも早くこんな格好・・・
「・・・かわいいな。その格好。ナ、ナデナデしてもいいかな?」
「ダメ!悩みがあるんでしょ!早くそれをぶちまけてっ!」
「あぅ・・・」
「ツインテールは心が狭いなぁ〜(ボソ」
「っ!兎に角、何か悩みがあるんでしょ?せっかくアタシがこんな格好までして聞いてあげようって言うんだから。」


なっ、悩みなんて無いよ。毎日楽しいし、みんな仲良くやっていけてるし、ただ・・・」
「寂しいのだろう巴?空也がいなくなって。」
いつの間にか雛姉さんが障子戸をあけて会話に参加している。
廊下から巴姉さんに歩み寄りながら雛姉さんが続ける。
「確かに、あれや瀬芦里、要芽達がいなくなって少々静かにはなったが・・・」
「ちっ、違うんだよ。雛乃姉さん。だ、誰がいなくなったのが寂しいとかじゃ、ないんだ。」
「なぬ?違うとな!?ぬぬぬ、我もまだまだのようだな・・・。」
「要芽姉さんや瀬芦里姉さん、空也がいなくなったのは確かにさっ、寂しいけど、
皆目標があって出て行ったわけだし、空也と瀬芦里姉さんは幸せそうだったし・・・」
「確かにそうよな。瀬芦里と旅行に出て行くと我に報告しに来た時のあの空也の顔は、いい顔をしておったなぁ。」
「それに雛乃姉さんも高嶺も、海もいるから、寂しくは無いんだ。
ただ、いつかは皆この家から出て行ってしまう日が来るのかなって、思うと、
ひぐっ、いつか私だけ、とっ、取り残されるかもって、うぐっ、不安で・・・うえぇぇ。」
「何を言っておるか。巴よ。たとえこの先我ら家族がバラバラになろうとも、住む場所が違おうが、
我ら姉妹は一心同体。寂しいことなぞ何も無いし、呼べばすぐに飛んで来ようぞ。
それに何より、お前が取り残されることなど考えられんわ。」
「姉さん・・・」
「ほれ、頭を貸せ。なでてやろう。」
巴姉さんがしゃがんで雛姉さんの前に頭を差し出す。
ナデナデ・・・
「ね、姉さぁん!」
「よしよし、飴をやろう。」
やれやれ、巴姉さんも手間がかかるわね・・・ってさっきからアタシ、全くしゃべってないじゃない!
結局、雛姉さんが全部解決してるし。
それを横でこんな格好でただ見てるだけのアタシ。
(カシャッ、カシャッ)
「流石雛乃お姉ちゃんだね〜。高嶺お姉ちゃん、もうちょっと蚊帳の外感が出せるといい写真になるんだけどな〜。」
「もう写真を撮るなー!」
・・・


「くーやと瀬芦里お姉ちゃんも、もうそろそろ帰ってくるって〜。」
年も明けて正月気分も吹き飛んだころになって、要芽姉様から帰ってくるという連絡があった矢先、海から報告があった。
「おお!これはまた一気に騒がしくなるな。巴よ、家事も忙しくなるが、よろしく頼むぞ。」
「あは、またお帰りパーティーのメニュー考えなきゃな。」
と、巴姉さんはうれしそうに鼻歌を交えて台所に向かって居間を出て行った。
「巴姉さんも単純よね〜。皆帰ってくるって聞いただけで、あんなにうれしそうにしちゃって。」
「そういう高嶺お姉ちゃんもうれしそうじゃない〜。ほほが緩んでるよ。」
「う、うるさいわねっ!」
海が頬をふにふにと突っついてくる。
これからこれ以上騒がしくなるなんて・・・ま、いいか。


(作者・SSD氏[2005/05/31])


※関連 姉しよSS「瀬芦里エンド後(2)


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