「ほら、そこはね。一つくり上がるから……こう」
「う…うんっと…こう?
要芽姉さん」
「そうよ…よく出来たわね…」
そう、空也はやれば出来る子なので教えるのは苦ではないのだ。
どちらかといえば……

「ただいま〜」
「お帰りなさい、海」
「お帰り、うみお姉ちゃん」
「あ〜、要芽お姉ちゃんいいな〜。く〜やに勉強教えてあげてる〜」
「く〜や、算数もできるようになったんだ〜 すごいよ〜」
「わからない所ない? お姉ちゃんが全部解いてあげるからね〜」
苦労はこういう所だと思う。

「海…それじゃあ空也の為にならないでしょう…?」
「ええ〜!?く〜やが困ってるのはイヤだよ〜」
「…後ろで応援ぐらいにしておきなさい」
「しぼむ〜」
「しょうがないね〜 フレッフレッく〜や ガンバレガンバレく〜や〜」
海は空也を甘やかし過ぎだと思う。
いや、甘えてくる空也が可愛いのはすごく解るのだけれど。
このままだと独り立ち出来ない子になってしまうのではと心配だ。
…両方とも。


「お姉様います?」
ひょいと高嶺が顔を出した。
「どうしたの?…高嶺」
「わぁっ、タカねーちゃんっ!?」
「ちょっと聞きた…」
(ゲッ、なんでイカが姉様に勉強教えてもらってるワケ……?)(0.1秒)
(マズイわ、コイツの前で勉強教えてなんて言えるかっ……舐められるじゃないっ)(0.3秒)
(くぅぅ…ムカつくわねぇ……あとでコイツイジメよっと)(0.5秒)
(・ε・)(光の速さで一足お先)
!?
「海、今アンタ私の事バカにしたでしょうっ……!?」
「そんな事無いよ〜 ツインを片方切ったら方向感覚狂うのかな〜とか全然思ってないよ〜」
「思いっきり馬鹿にしてるじゃないのよっ!!」
「あっ……!?コラ!!待ちなさいよっ!!」

高嶺は頭は良いけどバカなのは玉にキズだと思う。
空也へのイジメももう少し軽くするように言うべきだろうか。
でも、イジメられてる時の空也の困り顔は…正直可愛かった。
困った顔も可愛いなんて卑怯だと思う。

「要芽姉さん、空也。お…お茶…飲む?」
巴が麦茶を持ってきてくれた。
「ありがとう、巴。もらうわね…」
「わぁ、ともねぇ ありがとう!」
「あは」
巴はにこにこ笑っている。
そういえばこの子の泣いている顔は見た事がない。
まあ、この前背が急に伸びてきたみたいで落ち込んでいたぐらいか。
心配事をかけられた事が無いのも凄いと思う。

そんな事を考えていたら心配事の固まりの足音が近づいてきた。


どだだだだだだだっ!
「日本代表の瀬芦里選手っ、第四コーナーを曲がったぁぁぁっ!!
おーっと、ここでピットイン!
マシントラブルにつき給水タ〜イムっ!!」
ごくごくごくごくっ!!
「ぷはぁぁ〜生き返るにゃ〜」
「わぁっ、ボクの麦茶が〜」
「瀬芦里…はしたないマネはやめなさい。それに自分の宿題は終わったの?」
「ん〜31日に全部やるから、問題な〜し。
よって今はクーヤを遊び相手として徴収しまーす」
これだから。

「そう言って終わった試しが無いでしょう?今からでも少しでいいからやっておきなさい」
「やだなぁ〜、要芽姉。終わるったら〜。いざとなったら秘密兵器のモエがいるし!」
「えっ…!?」
「さらに切り札のタカもいるから全然OK!!」
「自分の手でやらなければ意味がないでしょう……」
「にゃっ?」
瀬芦里はもう少し落ち着いたほうがいいと思う。
私には無いものを持っている所は憧れるのだけれど。
でも、この子も明るくなったわね。
家に初めて来た時は私自身を見てるようで辛かったし。

「瀬芦里お姉ちゃん、ゴメン。これが終わったら一緒に遊べるから待っててくれるかな?」
くっ…それじゃぁ出来るだけ説明を長引かせて空也と一緒の時間を延ばす計画が台無しじゃない…
「んにゃ。待てないからモエを連行して行くね〜」
がしっ
ず〜る
ず〜る
「あぅっ!?」
「クーヤ!次は絶対わたしに付き合いなさいよーっ!」
巴も災難だと思う。
でも今は巴に感謝。これで空也との時間が延びる事だし。
「あは、今日も元気だね
せろりお姉ちゃん」
「元気すぎるのも…考え物ね…」


算数に頭を捻っている空也を見つめる。
サラサラの髪。
くりくりした瞳。
ぷにぷにの唇。
一件華奢だけど結構しっかりしてる体。
今家に誰も居なかったら抱きしめてると思う。
…姉と弟でなければ。

「……えさん」
「要芽姉さん」
「えっ……?」
「どうしたの?」
「少し、ぼうっとしていたみたい…何…?」
「時計、なってるよー」
しまった。雛乃姉さんの薬の時間をセットしておいたんだった。
「空也、私は雛乃姉さんにお薬を持って行くから…後は一人で出来る?」
「うん、さんすう終わったからボクも一緒におみまい行っていい?」
この年でこういう所に気が回るのも凄いと思う。
「えぇ、その方が姉さんも喜ぶわ」


「姉さん、お薬の時間ですよ」
「おぉ、すまぬなぁ。かなめ」
「ごほっ……こほっ……」
「ひなの姉さん……大丈夫?」
「くうやも来てくれたのか、嬉しく思うぞ」
「だいじょうぶだ…我が弟の顔を見られたのだからな、元気も出るというものよ」
「飴をやろう」
「ありがとー!」
雛乃姉さんは凄いと思う。
顔が歪むぐらいに痛いのに泣かない。
泣き言も一回も聞いた事がない。
一番長女だから甘える事もしないし。
いつも笑顔だ。
その姉さんに、謝られた事がある。
自分の弱さが情けないと。
長姉なのに世話を掛けてばかりだと。
その時少し目が赤かったのを覚えている。

だから、代わりに私がしっかりしようと決めたのだ。

「む……薬が効いてきたな…眠くなってきたぞ…」
「じゃあ、姉さん。夕飯を持ってまた後で来ますね」
「うむ…世話を掛けるな…すまぬ。…」
すぅ…くぅ…
「空也…行きましょう」
「うん…」
ふすまを閉める。
いつのまにか夕方になり、縁側には涼しい風が吹いていた。
「…少し涼みましょうか」
「うん!」


潮風混じりの夕凪が心地良い。
冷房などでは味わえない感覚。
こっくり……こっくり……
空也が船を漕いでいる。
「眠いの?空也」
「うん……」
「ちゃんと横になりなさい。膝枕してあげるから…」
「ありがとう……ねぇさん…」

ああ、もう寝顔が反則的に可愛い。
やっぱり、私は空也が好きなのだ。
姉弟では無く一人の男の子として。
でも、私達は姉弟。
空也に拒絶されたらどうしようと言う考えも浮かぶ。
「空也……もう寝たの……?」
「すー…くー……」
完璧に寝ているみたい。
これはチャンスかもしれない。
辺りを確認。
人の気配は無い。
ごめんね、空也。
やっぱり私はいけない姉みたい。
空也のはじめて…もらうね…
私は、そっと目を閉じ…顔を降ろした。

(作者・愚弟氏[2004/07/06])


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