10、 白く、長い指先が肌の上の滑る。 薬品のビンを掴むときの、形のいい爪や節だった関節を思い出して、ビクンビクンと体が跳ねた。 「は…!あ、あ…や…!」 尖った乳首を口に含まれ、唾液を絡ませてちゅくちゅくと音を立てて吸われる。 「んぅ…――――っ!」 その音に耳まで犯されているような気分になる。 後ろの入り口の撫でられ、指を増やされ広げられる。 挿入されるときはぴりりと痛んだが、肉を割って入ってくるカカシ先生のそれに、甘い声を隠すのに必死だった。 「声、我慢しないで、ね?もっと聞かせて」 ぶんぶんと首を横に振っても、快楽に慣らされた体は従順に反応して、カカシ先生の言われるままの甲高い声をあげてしまう。 涙で濡れた目をうっすらと開くと、半開きの唇かすかに恍惚の笑みを浮かべ、絡みつくような、熱を孕んだカカシ先生の目に捕らえられた。 知らない、知らない。 こんな声、こんなカカシ先生…! 濡れたカカシ先生の口元や、初めて見るカカシ先生の裸の肉の隆起に内心見とれてしまう。 が、それよりも、月明かりの中、かすかに浮かんだカカシ先生の体が自分の上でゆっくりと上下に動いているのがたまらなかった。その影の動きに合わせて、自分の中でも動く肉の感触が、予想していたものをはるかに大きく上回ってリアルで、なにもかもがもうどうでも良くなる。 「っ…イルカさん、ココ、すごい…」 締めつけないで、もう出てしまう、と、そう言いながら、その動きが止まることはない。 それどころか、恥ずかしいポーズをとらせられ、俺が感じるように緩急をつけて出し入れして、一旦間を置き、なにか、探るように角度を変えて攻めてくる。 それにすら強く感じてしまい、もう駄目、止めてほしいと叫ぼうとすると絶妙のタイミングで唇をふさがれ、熱い肉棒で一気に最奥まで穿たれ、そこに隠れていた一番弱い部分を見つけだし強く突いてきた。 「あァっ!」 肩にしがみついて、思わずあげてしまう悲鳴に、カカシ先生の声は荒い。 「痛い?ごめんなさい、初めてなのに。でも、もう優しくできそうもない」 俺の尻たぶを両手で掴むと「許してください」と苦しそうに言って、激しい律動を始めた。 謝っておいてそれはないだろう、というほど、がつがつと強く攻め立てられて、俺の口からひっきりなしに女々しい悲鳴があがる。 イルカさん、可愛い、可愛い。 と、誉めてるのか誉めてないのかよくわからない言葉を吐きながら、俺は何度も真っ白な世界を見させられて、はらはらととめどなく涙を流す。 そのくせカカシ先生は、俺が五回昇天してようやく一回精を吐き、何度出しても足りないといわんばかりの喰らい尽くすような抱き方で、明け方、空が白むまでその行為は続いた。 翌日は休むより他なかった。 一日置いて職場にでてきた俺を、港の仲間が心配したが、まさか本当のことをいうわけにもいかない。 持病があることをいいことに、それを理由に休んでしまった…。 後ろめたい気持ちがあったが、明け方、すまなそうに謝るカカシ先生の顔を思い出すと、なにも言えなかった。 そろそろ祭りだなあ、船の上の同僚の口からもその話題が飛び出してくる。 「今年もその季節か…キツイなぁ」 海の真っ只中、甲板で船べりに腰をかけて、頭からタオルをかけて昼飯を喰っている俺の耳に、そんな声が届いた。 「アレはなあ、ひいひいひい爺さんのころからずっとやってるから、避けられない道だがなぁ、俺の家は」 「でも、そのお陰で今でも安泰なんだろう、お前の家は。だったらいいじゃあないか」 その隣にいたおじさんがそう話し掛けて「犠牲者も出ずにな」と、不穏な言葉を口にした。 「あの…なんの話ですか?」 俺が箸を置いて背後から話し掛けると、なんだ、知らなかったのか、という顔をされた。 「禊と断食だよ。俺の家では祭りが近づくと毎年やってる」 「断食…?」 「封印されている鬼の為に、身を清め祭りに参加するんだ。 そうすることで、鬼に食われることもなく一年をまた始めることが出来る」 「喰われる…?でもあれはただの伝説でしょう?」 俺がそう言うと、二人の男は目を見合わせてしまったという顔をした。 そして二人して立ち上がると、そのうちの1人が「わるいな海野。そろそろ移動の時間だろう。持ち場に着いたほうがいいぞ」と言ってそそくさと船の中に入ってしまった。 気になる話途中で逃げられて、いてもたってもいられず、漁が終わると早々に島長の家に向かった。 家を尋ねると、シズネが出てきて「すいません、今日、綱手様はご来客があってお会いできません」と済まなさそうに言った。 それからは、島の老人を捕まえては話を聞いた。 老人は、古臭いことばかり言うだけで全然埒があかない。 仕事を終えたばかりのライドウの自宅尋ねて、今日あった話をすると、彼は、洗濯物を干す手を止めて、さっと顔色を変えた。 「…すまないな、それについて俺はなにも語れない」 「どうしてだ。島の掟か?まさか、本当に、鬼が」 「いるわけないだろ!イルカ、目を覚ませ」 突然大声で否定されて、ぎょっとして固まった。 「ああ…御免。そんなに強く言うつもりはなかったんだ。 ただ、お前が、その、なにか思いつめてるみたいだったし…本当に、鬼なんかいるわけないし…」 「すまん。俺…どうかしてるな。帰って大人しく風呂にでも入って反省するよ」 くるり、ときびすを返した俺に、ライドウは「待て」と声をかけてきた。 「神隠しだよ」 「え?」 「この島では…何年かに一度、神隠しがあるんだ。 昨日まで元気で、普段となにも変わらなかった人間が、家族や友達になにも語らずぱったり姿を消してしまう。 それも、若い女ばかりが。 年寄りは鬼の仕業と言っているが、俺たち若衆はそんなこと信じちゃいない。ただ、この島は見てのとおり、孤島だ。 船のひとつでも消えてれば、この島に嫌気をさして家出でもしたといえるだろうが、ここは本土から沖合い90k。 …なにが原因か分からない。 信心深い家の奴らは、そうやって、自分の家族に犠牲がでないようにと身を清める風習を守っている。 おかしなことに、そうしている家は本当に犠牲がでていないみたいで…偶然なんだろうけどな。 ただ、神隠しが起こるのが、祭りの前後に多いっていうのも、不思議だなっ…て、俺たち若手の間でも囁かれてるけどな…」 そう言って、ライドウは洗濯篭を引っつかんでアパートの玄関に入っていってしまった。 1人取り残された俺は、ばたんと、ドアが閉まる音を聞きながら、その場に立ち尽くしていた。 (2005/9/10:) NEXT |
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