9、 寝台の上で、お互いに体をまさぐりあいながら、もうすぐ祭りですね、という話になった。 祭りの話も、鬼の話題に触れなければ、カカシ先生の機嫌は悪くなることはなかった。 その日の夜は、俺の家で飲むことになった。 診察時間間際、またしてもあの少女がやってきたのだ。 カカシ先生が裏口からでてきたところ、俺と出くわした。 こういうことがあろうかと、酒をのむためだけにカカシ先生の診療所を訪れる日は、裏口から来るように、と言われていたのだ。 俺の家の近くの集会所から、子供たちの笛の練習が聞こえる。 風情があるなあ、と思いながら、部屋の明りをつけようと壁のスイッチに手を伸ばすと、背後から、そっと手を重ねられて 「このままで」 と耳元で囁かれた。 カカシ先生が来ると前々から知っていたらなにか用意できたのだが、なにぶん突然のことだったので、酒も、おつまみも、ほとんど用意できなかった。 なにか外で買ってこれればよかったが、あいにくとこの島に24時間営業のコンビニなんていうものはなかった。 畳に、二人で寄り添って、ビールで乾杯して、灯りのない窓ぎわで、満月を見上げる。 満月は、いつも見るより、心なしか大きい。 「綺麗ですね…」 「中秋の名月は過ぎてしまいましたけど…良く澄んでる」 「カカシ先生は月を見るのがお好きですか?」 「ええ、落ち着くじゃないですか、この静かな光が。 イルカさんと出会う前は、こうやって月を見上げながら、1人で、診察室で、酒を呷っていたものですよ」 今はもう、貴方がいるからしませんけどね。 カカシ先生はうっそりと囁いた。 「診療所は丘の上にあるから、月もよく見えるでしょうね。 俺の家は、木陰になってるから、角度が良くないと…今日はいいんですけどね。 それに、カカシ先生には、月が良く似合うから…」 「オレ、月に似合ってますか?どうして?」 「なんていうか…こう、自分で目立とうとしなくても、輝いているところとか…き、」 綺麗で、と言おうとして迷った。 男の人に綺麗なんて言ったら失礼だろうか… 「き?」 「き…黄色い色が暖かくていいですよね、月って!」 「は…、アハハ…それ、答えになってませんよ、イルカさん」 カカシ先生は真っ赤になっている俺を傍目に、酒を片手にひとしきに笑って、涙目のまま肩に顎を乗せてきた。 もう、「綺麗だ」と言いたかったことなんて、すでにお見通しで、とっくの昔にバレバレなんだろう。 恥かしくてたまらなかったが、それを非難するわけでもなく、甘えた仕草してくるカカシ先生に胸が高鳴る。 甘いマスクに、少し俗っぽい笑みを浮かべて、ただ、黙って見つめてくる。 「なんですか…」 「オレの顔が好きですか?」 「なっ…」 「その反応、大変素直でよろしいですよ。イルカさん。 俺はね…イルカさんだったらどこも好きですよ。 髪も、鼻も目も口も、足の爪の先から頭のてっぺんまで… 貴方がどんな姿になろうとも…それこそ、魂だけの姿になっても」 「魂だけの姿って…ただの煙みたいなものでも…?」 「ええ、それだけでも」 「なんにも触れられないんですよ?触れようとしてもすり抜けるだけで」 「でも、それが貴方だったら愛せます」 「え…」 「…愛してます。イルカさん」 そう言って、カカシ先生にすばやく唇を奪われる。 いけない手がシャツのボタンを外してゆく。 指の動きが、いつもと違う。 明確に快感を引き出そうと、胸の敏感なところを何度も、爪先が行き来する。 「――――っ!」 思わず、変な声が漏れそうになって、ぐっと我慢した。 そんな俺の努力を無駄にするように、いつもだったら五つ目で止まるはずのボタンをすべて外しきって、胸を撫でられながら耳朶を噛まれて、口がわなないた。 唇以外のところを唇で愛撫されたのは初めてだった。 今日のカカシ先生はいつもと違う。 この先に予想される展開を思って、眩暈がした。 いつか来る来るとは思っていたが、今日まさか、こういうことになろうとは―― 「か、カカシ先生!」 「なんですか、ここまで来て止めろっていうのだけは勘弁してくださいね」 「違います!こ、今度の…お祭り」 「ええ」 「一緒に、行ってくれませんか…?俺、漁があるんで、その後になると思うんですが…」 「…」 カカシ先生は、少し間を置いてから、頷いた。 「いいですよ、じゃあ、もう黙って」 そんなこと、言われずとも。 自分の心の抱えている疚しい部分を気づかれたくなくて、裸の胸に吸いついてくるカカシ先生の頭を抱きこむと、流されるままにカカシ先生に身をゆだねる。 そして、必死に喘ぎを我慢していた唇から、その声が漏れるまでにはそう遠くなかった。 (2005/9/10:) NEXT |
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