御鬼道










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帰りはとぼとぼと歩いて帰った。

鬼は一人ぼっちだった。

自分も一人ぼっちだった。

慰めあえると思ったのだろうか、鬼は。
幼いながら、カカシが俺にしようとしてきたことがどんな意味を持っていたか、分からないわけではなかった。

村の連中は、俺を見つけると、すぐに、今度は堅固な牢屋に連れていった。
そこでまた、鞭打ちの刑を食らった。
治ったばかりの傷口に、新しい傷ができた。白い包帯が赤く染まった。

「お前は村の禁忌を破った。だから、しばらくここにいてもらうぞ」

そう言って、松明を持った男がでてゆくと俺は独り独房に残された。
「森で誰かに会ったか」と聞かれたが、言うものか。
言わないよ、カカシ。

鬼は一人ぼっちだった。

自分も一人ぼっちだった。

独房から覗く月は、不思議と美しかった。


何故、カカシが、もとい鬼が森にいるのかも、どうして鬼になったのかも知らないが、ここをでたら、また東の森へ行きたくて仕方なかった。 鬼は、ただ恐ろしいだけの存在ではなかった。俺の中では。

そして、再び会ったとしても、けしてすぐに頭から食われることはけしてないと、そう思った。





「また来たのか」

鬼は、今度はそう言って、新しい傷の具合を看た。
しかし、俺が来たからといって、けして嫌そうな顔をしていなかった。

「――人肉か?…それは柔らかい、むしゃぶりつきたくなるような味がするよ」

人の肉の味はどんな感じがするの、と聞くと、そう答えが返ってきた。

「引き裂いたばかりの、暖かい、血のしたたる肉が美味い」

そう言いながら、カカシは草や木の実だけの粥を作っている。

「なんで食べなくなったの?」

「…自分で自分に禁止したんだ。それに人間は賢いからね。うかつに手出しをしてここの場所が見つかったらヤバイから」

「じゃあ、また、食べたいとは思わないの?」

幾分、俺はドキドキしていたと思う。カカシが意地の悪い笑みを浮かべて、その細い指先で俺のあごを取った。

「食べたいよ。今すぐにでも」

「何年も食べていないから?」

「ああ、そうだよ。…ね、食べてもいい?」

そう言って、顔を近寄せてくる。
ああ、口付けされる。だからといって、避けなかった。
唇に触れるカカシの其れは最初と同じ、はやり冷たかった。
今度は長い。じっと息を我慢していると唇を舐められて、はぁ、と口を開いてしまった。

ぬるり、と長い舌が口腔に入ってくる。
それは俺の敏感なところをなぞって、ぞくり、と背中があわ立った。そして、口腔内をなぶるだけなぶると外に出て行った。

「…まだ早いかな」

こういうことは、と言い付け加えると、カカシはそっと離れていった。ぺろり、と赤い舌が白い肌にやけに目立つ。

―――俺、変だ。

こういうことは男同士ではやらないことだ。普通は。しかも、大人と子供だ。
ああ、でも相手は鬼なんだから"普通"は当てはまらないか、と自分なりの解釈を当てはめてみた。しかしやはり少し変だが。少し。


「ね、もっと先までしていい?」

わき腹から服の中に手を入れられた。

「ひゃ!くすぐったい、カカシ」

カカシにとっては愛撫の手も、幼い俺にとってはただのくすぐりの刑だ。
あはは、と声を出して笑うとカカシは諦めたように俺の体から離れた。

「オマエがその気があるなら、このままオレの相手になってもらいたいんだけど…」

ま、駄目だよね…そう言って、カカシは立ち上がると、どこかに行ってしまった。
いつものように、お粥を作ってからだが。



駄目だと言われても東の森に通うようになってひと月が経っていた。いつの間にか。
村の人々は、まるでなにか忌まわしいものでも見るかのような目で俺を見るようになっていた。
それはとても辛いことだったが、同じような境遇のカカシに惹かれずにはいられなかった。
それに会えば可愛がってくれる。妙な可愛がり方もするが。

そんなカカシと縁故になってゆく内に、俺は知らなかった―――村人が姦計を図っていたことを。






(2007/9/22書)続く




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