|
御鬼道 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ しばし走ってゆくと、息が切れて足ががくがくになる頃、洞窟を見つけた。 ぽっかりと暗い口を明けている洞窟を覗き込むと、 「ァァー…ォォ――…」と男のものとも女のものとも区別つかない悲鳴めいた風音が聞こえる。 思わずぶるり、と身を震わせた。 洞窟の前で、空を仰ぎ見る。 雲ひとつない晴天は西の方から赤く、赤く染まって、空のタカが"早く帰れよ"というかのように旋回していた。 しかし、ここまで来て、なんの成果もなく帰れるものか。 俺は洞窟に足を踏み入れた。 中は薄暗く、いくつもの石が天井からつらら状に垂れ下がっている。鍾乳洞だった。 "そうだ、早くこちらへ来い。お前の見たかったものが見れる" その深い、落ち着いた声が闇へと俺をいざなう。 村で、立ち入ることを許されなかった東の森。 鍾乳洞の奥まったところ、振り返ると入り口が点にしか見えなくなった頃… 「…よく来た、ここまで」 目の前に現れたのは、白い着物を着た若い男だった。 「オレの名はカカシ。お前は…?」 「お、俺は、イルカ。海野イルカっていうんだ」 見たこともない銀髪をしている、男は薄く微笑んでいる。 暗い洞窟に、白いろうそくを右手に持っている。 炎に照らされた、女みたいな白っぽい顔には血の気がないみたいだ。 イルカはおそるおそる近づいて、問うた。 「お前が、鬼か」 男の眉が吊り上る。 「そうだといったら?」 薄い唇の端が三日月のように持ち上がる。 壮絶な笑み。 「―――帰る!」 「…おやおや、来たばかりだというのにもう帰るの、つれないねぇ…」 ぱし! きびすを返した俺の腕をカカシがつかんだ。ものすごい力だ。 腕を、ぎりぎりと骨のきしむ音が聞こえるくらいひねりあげられると、体が宙に浮かんだ。「―――ゥアッ!」 「帰さないよ。取って食っちまうまではね」 クスクス…楽しそうな笑い声が耳元のすぐそばで聞こえる。 どさり、としりもちをつく。腕を放されたからだ。 「帰れ―――お遊びならどこか他でやんな」 見上げると、氷のような男の目と目が合った。 (2007/9/22書)続く NEXT |