御鬼道




俺の生まれた村には

"東の森には独りの鬼が住んでいるから、近づいてはいけないよ"

古い言い伝えが語り継がれていた。

それは、そして、守らねばならぬ村の掟だった。




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でも可哀想な話だ。
鬼はたった一人で暮らしているのだろう。

そう言うと、目の前の仲間の少年がはじかれた様に答えた。

「ばっかじゃねーの!鬼だから独りっきりなんだ」

それが、罰なんだ、と強い口調で。

「鬼であることがいけないんだよ」

と。

そうだそうだ。輪になった少年たちに囲まれて、俺は動けなくなった。

それでもやはり、鬼は可哀想だと思った。
それは、存在自体が罪であるということであると言われているのと同じことだからだ。


「オイ、イルカってつまんねー奴だぜ!行こうぜ」

そうだ、行こう行こう、とお互い声を掛け合って、少年達はボールを蹴りながら去っていった。

俺は、うっそりと鬼が住んでいるという森を振り返った。

東の方角。昼でも日が差し込むことのない暗い森の空には、大きなタカが空を舞っていた。




ものごころついたころから、親はいなかった。
父親は狩りにでたまま、帰ってこなかった。
母親は、そんなこともあって労咳をわずらって早く逝ってしまった。
鼻についた傷は野犬に襲われた母を救おうとしてついた傷だった。
…結局、母を助けたのは村の若人だったが。

自分のこの腕はまだ小さく、頼りない。それが十分に分かっていた。

―――鬼が棲むという森を、草を掻き分けながら歩んでゆくと、村で交わした少年達との会話を思いだす。

"大体、鬼なんて、本当にいるもんか"

"『迷信』だよ。め、い、し、ん。お前、まだそんなこと信じているのかよ。"

"イルカは子供だな"

"ガキなんだよ、まだ"

やあい、やあい。

囃し立てられて、こぶしに涙を隠す少年。
迷信なんて知らなかった。本当に鬼がいるものだと信じていた。
困ったときに助けてくれる知識も、処世術も、それを教えてくれる大人(家族)がいなかった。

一人ぼっち。

鬼と、同じだな。

―――おい、鬼!いるもんならでてこい!俺だって独りだ!お前もか!

ザッ!ザッ!けわしい森の道を駆けながら、心の中で叫んだ。

"呼んだか"

はっとして立ち止まる。

声がする。

"お前の心に語りかけている。"

落ち着いた声色だった。

"お前の探しているものはそこからもっと森の奥にいる"

日陰になっている木立の間を見やると、手招きをする男の姿が見えた。

それは、近くなったり、遠くなったり…幻だった。

"―――こい"


(2007/9/22書)続く




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