空に愛を。あなたに、手向けの花を。(仮題)










オリキャラ 風切アカネの絡むお話です。






―――――:ACT1:




「駄目です!ずぇったい駄目!イルカ先生が結婚なんてしたら俺、生きていけない!」

そう言って膝を折り、両手で顔を覆ってわっと泣き出したカカシ。

「…オレも、カカシせんせーほどじゃないけど、イルカ先生が結婚したら寂しいってば…」

そんな自分の上司の情けない姿に半ばあきれつつも、ナルトもカカシの言葉に重ねるように自分の気持ちを口にする。

「まぁ…、オレも、今回のお見合いの話は断ろうと思っているんですけれどね」

イルカはちゃぶ台に肘をついて、コップの水滴でくるくると渦巻きを描きながらそう告げる。

「…ホントですか?」

さめざめと泣いていたカカシが顔を上げた。
目元が涙でぐしゃぐしゃになっていて、いい男が台無しだな、とイルカは思った。

「本当ですよ。今の生活は楽しいですし、まだ結婚なんてする気はありません」

イルカは困ったような笑みを浮かべて、そう答えた。

「…イルカ先生」

カカシがため息混じりに名前を呼んで、イルカの両手を取る。

「よかったなってば、カカシ先生。イルカ先生まだ独身続けるって」

にししし、と笑いながら、ナルトは両腕を上げて頭を抱えるようにして、そう言った。







空に愛を。あなたに、手向けの花を。(仮題)






六月。


霧雨が降っている…

ここ数日、木の葉の里は雨が振りっぱなしだった。

空にはどんよりとした雲が垂れ下がり、軒下に水溜りがあちこちできている。


イルカの家の郵便受けに、白い封筒が届くようになったのはこのごろのことだった。
三十センチほどはあろうかという大きな封筒は金箔で縁取られ、 恐ろしく丁寧な字で「うみのイルカ様」へ、とかかれている。

中に入っているのはお見合い写真だ。

それが一通づつ、連日送られてくる。

最初は送り先の人に悪いと思って一応取っておいたイルカだったが、こう何枚も送られてきては困るというもの。


ビニールテープで束にした封筒をきつく縛ってゴミ箱のそばに積み上げると、辞書を何冊も重ねたみたいに分厚くなってイルカは呆れた。



お見合いの写真が来るたびに

"その気はないから、もう送ってこないでほしい”

と返事の手紙を書いた。

先方はそれどうとったのか、いまだ送られてくるお見合い写真はなんのメッセージも添えられておらず、そっけない。


―――――ふとなんの気なしに見合い写真を開いてみた。
今まで一度たりとも開いて見る気もなかったのだが、どうせ断る相手だからと魔が差した。

写真を開いてイルカは驚いた。

…ものすごい美人だったからだ。

どうせ自分のような中忍にあてがわれるのは、自分に見合った、それ相応の同業者のくのいちだろうと思っていたのに、そこに写っていた女はどう考えても忍には見えないお嬢様風の気品のある一般人だった。プロフィールを読んでさらに驚く。女は里でも名の知れた名門道場の一人娘だった。


気になって、他のお見合い写真も見てみた。
どれもこれも、自分には不釣合いとしか思えないいいとこのお嬢様ばかりだった。

変だな。

これほどの相手がどうしてオレなんかのところに…。

イルカは、ゴミ箱に捨ててあった封筒を拾いあげると、ひっくりかえして宛名を見る。


そこには三代目の名前と火影宅の住所、さらに火影直属の秘書課の住所が記されていた。








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受付業務は依頼が増えるにつれてハードになっていった。
木の葉の里の外、里の中、どこを向いても、戦だの暗殺だのと物騒な話題が絶えない。
依頼は、世間が物騒になればなるほど増える。
忍は戦乱の世に必要とされる因果な商売だ。

「イルカぁ…疲れたな。そろそろ休憩しようぜ」

同僚の一人がついに根をあげて椅子にふんぞりかえって隣に座ったイルカに話し掛けた。

「まだ終了のベル鳴ってないだろ?」

「今日は忙しかったからな。くるだけきただろう。もー誰もこんだろうよ。
5時30分回ったら今度は夜勤の暗部らの連中の受付が始まるから忙しくなる前にメシ食っておこうぜ」

がたっと椅子から立ち上がる気配につられて、イルカは書類を整える暇もなく腰をあげた。
食堂は残業組の連中を残して誰もいない。
暗い照明のなか、男二人でのびかけたうどんをすすってイルカは物悲しい気分になった。

「彼女欲しいなあ」

イルカの心情を察したかのように目の前に座っている同僚はぽつりとこぼした。

「お前、彼女いたんじゃなかったっけ?」

「…別れたんだよ。先週。あいつ、他に男作って遊んでやがった。
オレが仕事終わって弁当屋であいつの分の天丼買ってアイツの家にいって、ドア明けたら丁度二人がベッドからでてくるところでよぉ」


「…最悪だな」

イルカは苦笑いを浮かべながら答えた。
どう考えてもフォローできない。

「だろう?
その場でソッコー回れ右したよ。
後ろの方でなんかオレの名前呼んでたけど、咲ちゃん。
あ、彼女の名前、咲っていうんだけどな。笑顔が可愛い小柄なコでさ…」

同僚の彼女自慢が始まったところで、イルカも自分の世界に入る。

自分にだって彼女と呼べない存在がいないわけではない。
…いや、彼女というには語弊がある。
正しくは彼氏、いや自分も男だからこの場合…なんといえばいいだろう。
ふと、脳裏に白い封筒が過ぎる。

お見合い写真。自分にはもったいないと思う、美しい女たち。

「そういや、ヤツデ…あいつ、今度結婚するんだって」

「え?あのヤツデが?セクハラばっか言ってて同僚のくのいちにヒンシュク買っていたヤツだろう?」

「そぉ、あんなやつでもしっかりやることやってんだもんなー!
この前の飲み会で幸せそうな顔して婚約のご報告なんかしやがって…ちくしょ〜!
イルカ、今夜は付き合えよ。
オレの気持ちが分かるのは、同じ彼女なし独身同士のオマエしかいない!
よし、今度会ったらどうやって彼女を射止めたか聞いてやんなきゃな!な!イルカ」


彼女に捨てられてやけっぱちになった同僚に肩を掴まれゆさゆさと揺さぶられながら、 イルカは記憶にある懐かしいヤツデのことを思い出していた。





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ヤツデはイルカが中忍になって初任務の時に同じスリーマンセルを組まされた相手だった。
ばさばさとした耳までの微妙な長さの黒髪に、人懐っこい笑顔をする男で性格は異様に明るい。 そしてよくしゃべる。

よくしゃべるといっても、コメディアンのように人を楽しませるような会話よりはむしろ余計なことまで口にしてヒンシュクを買うような男だったが、元来のお調子者の性格が功をなしてか不思議と人に嫌われない男だった。

頑固だけど、おっちょこちょいでどこか抜けたところのあるイルカとは結構ウマがあって任務をそれなりに楽しんだ。


…そっか、あいつも結婚するのか。


下ネタを話しながら異様に興奮しまくっていたヤツデの顔を思い出してふふ、と笑みがもれる。

この歳になれば同僚、友達、従兄弟と始めとする親戚と、同い年の男達がみんな結婚してゆくが不思議とイルカの周りにだけ浮ついた話はよってこなかった。

遊郭で女を買ったり町で女をナンパしたりと派手な遊びはしない主義のイルカだからかと周囲は言ったが、陰で火影が根回ししているという話もあった。


――――悪い虫はそばに寄らせんようにしておくからの。


いつか、老人がそんなことを言ったような記憶があるが、どう答えたらいいのか分からなかった。
そんなイルカがカカシを付き合っていると知ったときの火影の顔といったら…

目を剥き出しにして、「あやつめ…!!」と唸るように言って部屋を飛び出していった。
あのあと、カカシの家まで押しかけていったと知ったが、中でどんな会話がされたのかは知らない。





ほろ酔い気分をもてあましながら、ふらつく足取りで自宅に向かいつつ、今日も自宅に明りが灯っていることを想像する。

――――きっといるんだろうな、あの人。

呼んでなくても勝手に上がりこんで自由にくつろいでいることだろう。

気ままな猫みたいな人。

誰も迎えるはずのない自室に、明りが点いていると思うだけで…

そのうえ、玄関先で、両手を広げて「お帰りなさい」と笑ってくれて。

「…おっと…」

イルカはよろけて転びそうになって電柱にしがみついた。

「カカシ先生…」

――――あの人が、好きだ。

以前は、可愛い奥さんと、子供がいて、キャッチボールなんかしている未来図も想像していたが、今は、結婚する気なんてさらさらなかった。




…カツ…

高いピンヒールの音が近づいてくる。
ヒールの音は、酒によってぼんやりとしたイルカの眼下の前でぴたりと止まった。


電柱に取り付けられた蛍光灯の灯りに照らされて、赤いピンヒールが闇に浮かんで見える。


「…うみのイルカ中忍ね」


顔をあげると、暗がりでもよく分かるほど燃えるように赤い長髪の美人が、腕を組んで立っていた。

整った鼻梁、とがった顎、赤いルージュ。

黒い忍服のスリットから覗く白く長い足がどきりとするほど色っぽくて、恋人がいるにもかかわらず少し動悸がはねあがる。
恋人、それはそれとして、美しい女をみれば、どんな男だろうがトキメいてしまう。
もちろん恋人を裏切るような真似はしないとしても。

男とはそういう、悲しい生き物なのだ。

「はじめまして。私は上忍、風切アカネ。
亡くなった三代目の秘書をやっていたんだけど、今日は用事があってあなたに会いにきました。
どう?…私の送った見合いの写真は気に入った?」

「…あれ、貴方が送ってきたんですか。
あの…もう、それこちらで処分しておきましたけど」

「処分ですって?」

アカネの細い眉がつりあがった。
その強い視線を受けて、イルカはうっと言葉につまった。
一瞬で酔いが醒める。

…なんとなくまずい相手の様な気がする。

イルカの勘はよく当たる。

「その…住所が火影さまのところになってたから、てっきりいつもの定期的なヤツかと思って捨ててしまいましたけど…」

「貴方ね…見合い写真はどこかの出会い相談所の広告じゃないんだから、そうほいほい捨てられても困るんだけど」

「す、すいません。でも火影様がご存命のころはそれでもいいってご本人がおっしゃってましたけど」

"おぬしがまだその気がないなら無理にとはいわん。
ただ、目を通してはおけ。気に入った相手がいるかもしれん。"

そんな感じのことは言われたような記憶がある。

「火影さまがご存命のころは、それでもよかったんだけど。…困るのよね。今は」

「今は?」

アカネはイルカから視線を外し、ため息をつきながら煩わしそうに髪を掻きあげた。

「また最初から送りなおすから、今度はしっかり見て頂戴。いいわね、うみの中忍」

「は?…な、なんで。おれ何度も手紙送りましたよね。"もう送らないでくださいって"」

「こちらとしてはそうもいかないのよ。
貴方には、なんとしてでも、お見合いしてもらって、結婚してもわらわないと」

「け、結婚!」

イルカは悲鳴に似た声を上げた。

「私の都合としてはなるべく早く結婚して欲しいんだけどね…見合いじゃなくてもいいわ。
好きな人がいたならその人と結婚してほしいわ。いる?好きな人」

「好きな人…」

そう言いつつ、イルカが、かあっと顔を赤くするのを見てアカネは「あらやだ」と言った。

「なんだ、好きな人いるの。だったらお見合い写真は無駄ね…
その人とは両想いなの?」

「りょ…両思いだと思います、けど」

「けど?だったらさっさと結婚しちゃって頂戴」

「ええ!オレまだ25歳ですよ。まだイロイロやりたいこととかあるし…
それに、その人とは、イロイロその、障害がありまして、とても結婚なんてできないと思うんですが」

そもそも、相手が男なのだから、結婚などできるわけがない。

「なに?いいところのお嬢さんとか?身分違いだとか、遊郭の女に狂って郭抜けさせなきゃならないとか、そういう話?」

「そ、そうじゃないんですが…」

「無理なの?どうしても?」

「ええ…」

無理なんです…と、喉の置くから絞りだした蚊の鳴くような小さな声にアカネは「はぁ〜っ」と盛大にため息をついた。

「…だったらお見合いして頂戴。
とりあえず…してみなさい。
もしかしたら、貴方のそのとんでもなく身分違いな彼女よりもいい相手が見つかるかもしれないから。
手配はこちらが全部しておくから。いいわね?」

「そんな」

強引な、と続けようとして、アカネは上忍のすばやさでイルカの隙を突き、鼻先をびしりと指差す。

「言い訳は聞かないわ。
いい、これは上・忍・命・令・よ。
きっかり一ヵ月後までにお見合い写真の中から相手を決めてお見合いすること。
一ヵ月後、私があなたの自宅まで迎えに行きますからね」

ぴしゃりと言い放ち、ぎらりと睨みつけてきた。

恐い。

…やっぱりまずい相手だった。

鼻先にとがった人差し指をつきつけられ、イルカはホールドしながら、つい

「…はぁ…」


とうなづきつつ、答えてしまっていた。








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火影様の死んだ日が分かりません…どうしよう六月とか言っていますが分からない。

(2007/3/20書)続く





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