空に愛を。あなたに、手向けの花を。(仮題)










オリキャラ 風切アカネの絡むお話です。






―――――:ACT2:




風切アカネとの約束の日は、あれよあれよという間に近づいてきてしまった。
イルカは台所の椅子に腰をかけ、じっとカレンダーを見つめた。

あと三日。

実力も地位もある上忍に"伝家の宝刀"をだされては中忍のイルカに対抗策はない。

この一ヶ月は、ひとりがふたりになってせわしなくなった家事や膨大な仕事をこなしつつ、 さてどうやって断ろうかとそればかりを考えていた。

じっとしていると、寝室の方からかすかに気配がする。


見えなくとも、カカシは任務から帰ってきたばかりでぐったりとベッドに沈んでいるはずだ。
血に染まった包帯が洗濯籠の底でひからびてゆく。
早く洗ってやらないと…そんなことを考えていると、不意に玄関のチャイムが鳴った。

「はい」

がちゃりとノブを回すと、半分開きかけた扉の向こうに、たった今まで頭を悩ませていた当の本人がいた。

「お久しぶり…元気かしら」

白々しい挨拶。

「風切さん。どうして…?まだ約束の日は」

「心配で、きちゃった」

イルカはそれに答えずドアを思いっきり閉めた。
手を挟むかもしれないと思ったが上忍相手にそんな心配はいらないだろう。

「待ちなさい!」

がしゃんと音を立てて、玄関のドアが引き戻される。
ものすごい力だ。イルカが渾身の力をこめてドアを閉めようをしても、ぐ、ぐ、ぐ、ぐ、と引き戻された。
この白く細い腕のどこにこんな力があるというのだろう。

「どうして追い出そうとするの……?うみの中忍。
さてはなにかやましいことでもあるんでしょう…。
たとえば、そう、まだお見合い相手を選んでないとか」

「!」

「図星みたいね。そんなことだろうと思っていたわ。
ね、あげて頂戴。今日はあなたに大切な話があるの」

「困ります。いきなり来るなんてしりませんでしたから、なんのおもてなしもできませんし…」

「―――うみのイルカ中忍!」

ばたん!

ドアが大きく開かれ、アカネのものすごい剣幕におされ、イルカは玄関に押し戻された。

―――――ダンっ!

かかとの高いヒールで玄関のコンクリートが大きく鳴る。
目を釣り上がらせた踏み込んできた女にイルカはひきつりつつ後ずさった。

だん、だん、だん、と、ヒールのままあがってくるが、イルカは抗議もできず、追われるまま部屋に押し戻される。

廊下を過ぎ台所に出たところで、シンクの隅に追い詰められ、逃げ場を失ったイルカは足を滑らせて尻餅をついた。

上忍の気迫がチャクラになって滲み出している。

すらりと長くキレイな足も今では鋭利な刃物にすら見える。

今にも殺されかれない勢いに、さすがに怯えながら、イルカはアカネを見上げた。

「うみの中忍。あなたが今までどれほどのぬるま湯で育ってきたかおのずとわかるわね。
真面目さは頑固、優しさは優柔不断、物分りのいいのは諦め、こういう環境で育つとこういう人間ができあがるものね」

「なんでそこまで貴女にいわれなきゃいけないんですか…」

さすがのイルカもこれには怒った。

「約束を忘れてなにをしてたの?
あなた自分がどれだけ恵まれた環境にいると思っているの?」

そう言って、アカネはおもむろにベストから四つ折りになった白い紙を取り出した。

「?」

「これはね。
三代目火影様が残した遺言よ。
膨大な財産分与の話で、いくつか事務的な遺言の他にあなたのこともかかれていたの。

うみのイルカ中忍が結婚するまで資金面で世話をするということとね。
自分が死に次第うみの中忍に火影の名義で見合いをさせて、一年以内に結婚させて子供を生ませること、とある」

「!」

中忍に昇格して自分のアパートで棲むようになってからすっかり自立していて忘れていたが、昔、火影に面倒を見てもらった記憶を思い出した。歳をとってすっかり記憶を忘れていたが、まだイルカを目をかけていてくれていたという事実に驚いた。

「どうしてそんなこと…」

「火影さまはきっと心配だったのよ。


身近にいた私だからわかる。

あなたがちゃんと一人前の大人になれるかどうか死ぬまで気にしてたのね。
だからこんな遺書を残したんだわ。
貴方には早く男として、里を守り、繁栄させてゆく忍として一人前の大人になってほしかったのよ。
結婚して子供を生むってことはそういうことでしょう」

――――嬉しい。けれど、素直に喜べない。

子供のころから面倒を見ていた自分を最後まで見届けたいという気持ちは分からなくないが、結婚という考えようによっては人生においてもっともナーバスな問題に干渉してくるような、火影様がこんな遺書を残したなんて信じられなかった。

「うみの中忍、あなた火影様の恩義をわすれたわけじゃないでしょう。
遺言にしたがって手に入りもしない彼女のことなんて諦めて、火影さまの言うとおりの相手と結婚なさいよ」

「――――」

それは…

「なんてここでしぶるのかしら…
お金持ちの美女と結婚できてその上子供まで遺産で面倒を見てくれるっていうのよ、夢みたいに幸せな話じゃない。 それともなに、まだ不満があるっていうの?」

幸せ。

キレイな奥さんがいて、子供が笑っていて…

そんな光景が頭を過ぎって、イルカは青ざめて、俯くとぶんぶんと頭を横に振った。

「―――ーちが…――違うんです…俺――――す、好」


「…あのさ…」


二人は、突然声のした方をはっと振り返った。


台所の入り口。

そこには、上半身裸のままいかにも寝起きといった風情のカカシが立っていて…

「あなた…はたけカカシ」

アカネが信じられないものでも見たかのような顔をして、

「カカシ先生…」

イルカは床に腰をつけながら、低い声でその名を呼ぶ。

「…なにやってんの?」




三人の間を、気まずい空気が流れた。









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カカシ登場まで。ACT2は短く終わる。

(2007/3/20書)続く




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