Terrorist VS Sluts Vol.3

 贅をこらしたホテルの寝室。仄昏い明りの下、褐色の膚をした少年が、仰向けのままベッドに縛り付けられていた。大きく割り裂かれた両脚の間には、二人の娼婦が顔を埋め、舌と指を使って性器を弄んでいる。だが奉仕されている方の表情には興奮の兆しもなく、ほっそりした四肢は蝋細工の様に冷たいままだ。

 奇妙な光景であった。まだ初心な年頃の童児が、遊び慣れた大人の男でも気をやらずにはいられないような濃厚な愛撫を受けながら、あたかも木石の如く固まって、微動だにしない。

「ぷはっ…だめみたい。姉様、この子インポなんじゃない?」

「んっ…前立腺も、弄ったんだけど…利かねぇ…」

 とうとう雌達が音を上げ、部屋の隅へ助けを求めるような視線を注いだ。壁と壁とが交差し、影が蟠る辺りに、花鳥模様の傘をつけた室内灯が置かれている。傍らには背の高い女が一人立って、腕を組んだまま、ベッドの様子を見守っていた。僅かな黄金製の装身具を除けば、一糸も纏わず、釣鐘型の乳房や、肉置き豊かな腰を惜しげもなく曝している。至極落着いた佇まい、ただ微かな苛立ちを示すように、手入れの行き届いた眉を山形に寄せていた。

「薬を追加しなさい」

「もう持って来た分、全部打ったよ…死んでもおかしくない量だぜ」

「そう…」

 溜息を吐くと、女はちらっと腕の時計を見た。既に予定を大幅に遅れている。本来はもう撮影に入っている時間だった。今まで色々な男を堕として来たが、これほど頑丈な相手は初めてお目にかかる。

「…自己暗示かしら…それとも、予め鎮静剤を?」

 彼女は囚われの少年に近付くと、瞳孔の奥を覗き込んだ。すると玉猿轡を嵌められた口が動き、何かを語りかける。聞き取れよう筈もないが、およそ降参とは程遠い調子だった。無駄だ、そう言ったのだろうか。漆黒の双眸は、新月の夜を思わせ、見詰めていると、深い沼の底へ引きずり込まれていくような錯覚に囚われる。

 気の遠くなるような長い苦難の末、凝り、塊り、結晶した、感情の化石。どれほどの怒り、憎しみ、悲しみが、瞳に斯様な色を醸すのだろうか。余りにも多くを喪い、しかも尚、絶望に呑まれなかった者だけが持つ、凍てついた魂の色だった。

 淫毒に満ちた娼婦の手管を持ってしても、聖職者の心臓を守る、理性の氷を溶かすは能わなかった。彼にとって肉の歓楽など酒や麻薬と同じ、不信心者が罪を忘れるために溺れる虚偽に過ぎず、何の誘惑も感じなかったのだ。

 調教師にとっては、酷い屈辱だった。過去失敗を知らずにいた彼女は、見掛け以上に追い詰められていた。弟や妹には告げていないが、まだ他にも薬を用意してある。いざという時、仕事に失敗しても後腐れがないよう、どんな頑丈な者でも廃人に変える代物だ。しかし使った相手はもう、如何なる形の性交も不能な状態に陥る。己の技量が、たかが子供一人に敗れたと認めるしかなくなるのだ。

「…くっ」

 しなやかな指先が躊躇うように、鞣革を張った鞄の面を行きつ戻りする。時の砂時計からは、秒という貴重な砂粒が、刻々と零れ落ちていく。迷うだけの暇は最早残されていない。

「姉様、冬人にもさせてみたらどう?」

 秋音が明るい笑顔で、提案した。すぐに夏樹が賛成する。

「そうそう、あいつなら巧くやるよ」

「何を言ってるの。貴女達に無理で、あの子にやれる道理があって?」

 春香は腹立たしげに首を振った。馬鹿馬鹿しいと断じる態度とは裏腹に、胃の底に穴の開くような不安が生まれる。冬人にさせる。駄目、駄目。絶対に。切羽詰った状況で、まだ未完成なあの子を使うなんて。

 長女は扉の側に縮こまる幼い末弟を眺めやる。調教師にとって手ずから仕込んだ血族は有用な道具であり、本来使うのを躊躇う理由は無い。増して冬人は、男女を問わず抱いた相手を欲情させずには置かない素質がある。しかし彼女としては、経験不足や年齢の低さが孕む性奴としての危うさを、仕事に持ち込みたくなかったのだが、今は選択の余地が無い。

「そう、試してみてもいいわね。冬人…来なさい」

 低い声で呼ばれると、冬人は喜色を浮かべて姉の側へ駆け寄った。春香はちょっと唇を噛んでから、ゆっくりと指で獲物を指し示す。

「やるべきことは解っているわね?この老人、ではなくて坊やを勃起させなさい。いいえ、それだけでは充分じゃないわね。私達が欲しくて欲しくてたまらなくなるようにしなさい」

 少年はベッドの方へ向き直り、自分と変わらぬ年恰好のテロリストの姿を観察すると、ちょっと辛そうな顔つきになった。不要の憐憫だ。女調教師は、背後から鋭い声を浴びせる。

「言うことが聞けないの?」

「い、いえ!あっ…頑張り…ます」

 少年は寝台の端から上に乗ると、シーツに膝小僧を埋め、すと縛られた相手の頬へ触れた。

「ごめんね…」

 卑怯を承知の上で、形ばかりの謝罪を済ませると、身を寄せて肌を重ねる。次に冬人が取った行動は、夏樹や秋音とまるで違った。すぐには性感帯へ触れず、ただ僅かに膨らんだ胸を、相手の胸に押し当てたのだ。

 華奢な肋の奥で、テロリストの心臓が穏やかに、規則正しく打っているのが解る。冬人はじっと全身を耳にして音を聞き取ると、ゆっくり、自らの鼓動をそれに合わせていった。兄と姉は離れた所で見守りながら、互いにひそひそと囁き交わしあう。

「冬人ったら、なにしてるのかしら?」

「しっ、あいつ、猫とか犬を抱いて宥める時、ああすんだよ」

 虜囚の顔に初めて動揺が現れた。丸まっこい足の親指と人差指がシーツの端を抓み、強く曲がる。玉のような汗が噴き出し始め、幼茎がびくりと反応する。散々梃子摺った他の三人にすれば、唖然とする豹変ぶりだった。

「…すご…」

「ほんと…あいつ、淫売の才能なら、一番あるぜ…」

「お黙りなさい二人とも。今になってやっと、薬が効いてきただけだわ」

 春香は、白々しい嘘で二人を遮った。勿論あれは冬人の力だ。どんな牡でも、どんな牝でも、容易く狂わせる魔性。己の手で作り上げてながら、敢えて正視しまいとしてきた少年。こうして効果を目の当りにすればする程、不安は増していく、私にはもう、あの子を制御できない。

 巌のように頑なだったテロリストが、いつのまにやら少年の拙い責めから逃れようと必死で身をくねらせている。いやむしろ、自由になって、相手を押し倒したがってすらいるようだ。

「暴れないで、お願い…気持ち良く、する、から…君が…少しでも…楽に…なれるように…」

 あやすように語り掛けながら、髪の毛を梳り、優しく接吻の雨を降らす。チェアラム教にとって忌むべき男同士の性愛に、聖職者は猛り狂っていた。黒炭の瞳が異様な煌きを帯び、食い縛られた歯の間で玉猿轡がぎしぎしと軋む。

「いっぱい…気持ち良くなって…もう、嫌なこと…忘れて…」

 心の縺れを解いていくような、丁寧な口調と、優しさの篭った手付き。だが、テロリストにはどんな拷問よりも酷い責苦だったろう。唇の端から泡が吹き出し、縛られた手首と足首が皸を起こしながら捻れ、限界まで突っ張る。

 プラスチックの固まりが砕ける、耳障りな響きが起った。ぎくりと、冬人の手が止まる。テロリストは口から鮮血を滴らせながら、粉々になった破片を吐き捨てた。拳と足先が動脈を膨らませ赤黒く変色すると、ゴム製の手械、足枷が、冗談のように伸び、引き千切られた。

「あ…」

 冬人の背が影になっていたため、他の者達は虜囚が身を起こした段階で、ようやく異常を察知した。拘束具が、まさか物理的な力で破壊される筈はないとたかを括っていた性で、咄嗟の反応が遅れる。

 テロリストは獣のような唸りを放つと、冬人に襲い掛かった。春香は瞬きすると、制止する所か、得たりとばかり素早くカメラのスイッチを入れる。

「いいわ、上出来よ冬人…よくやったわ」

 秋音と夏樹は心配そうに顔を見合わせた。確かに獲物を興奮させるのには成功した。つまり裏を返せば、愛する弟の生が脅かされる状況になったのだ。だが奴隷にとっては、調教師の意志こそが絶対である。姉の命令があるまで、介入は許されない。

 冬人は、恐怖の頂点に居た。テロリストは多量の薬品投与にも係らず、未だ強固な自我を手放していないようだった。

「…聞け」

 狂気の聖職者は、奴隷少年以外には聞き取れぬ、烏のような嗄れ声で言葉を紡いだ。口内を紅く染めながらも、依然清明な発音を保っている。

「こんなことを続けていれば、いずれ君の姉や兄は、心を病んで壊れるぞ」

「ひっ…う…ぁ…」

「愚かな振りをするな。君には、あの者達の胸に開いた傷口が見えるはずだ。膿み爛れ、壊疽を起し、感覚を麻痺させている、醜い傷口がな」

 語句の意味が全て解った訳ではないが、一言一言は短剣のように深々と、冬人の胸へ突き刺さった。だが涙は出せなかった。テロリストの炎に包まれたような顔は、彼に泣くのを許さなかったのだ。傍目には睦言を呟くようにして、聖職者は尚も呪詛を重ねる。

「傷が、あの者達を浅ましい行為に駆り立て、また自ら傷口を広げている。そうして、傷に触れられるのを怖れる余り、周りを同じように傷つけるのだ。君にそうしたように、違うか?」

「ち、違う…皆、僕を愛し…だけ、だか…あなたも…お願い…気持ち良く、なっ…そうすれば…」

「本当にそう信じているのか、ずっとこんな真似をしていきたいのか?君は、流れに逆らうのが恐ろしいだけではないのか?」

 断罪は徐々に早口になっていく。頬に生暖かい雫を受けて、冬人が思わず見上げると、幼いチェアラム教徒は開いた唇端かから、血の混じった唾液を溢していた。両目の焦点も左右へずれている。冬人を洗脳する為に、薬の効果と戦う力さえ使い尽しつつあるのだ。

「愛とは、傷を見て見ぬふりするという意味ではない。真底から相手を想うなら、争いを覚悟をしても治療を試みねばならぬ。もう一度だけ聞く。君はこんな真似を続けたいのか?続けさせたいのか?」

 奴隷少年は悲鳴を上げた。テロリストの不気味な詠唱は、閉ざした胸の扉を抉開け、縮こまった魂を無理矢理外へ引き摺り出そうとしていた。彼が最も厭う考え、つまり、現実に対して受身であるのをやめ、自分から立ち向うという概念は、快楽によって甘やかされた脳を凍りつかせ、肌寒さと心細さを齎した。

 冬人は拒否した。身を丸め、喚きながら、姉の名を呼んだ。

「姉様!姉様!いやだぁ…気持悪い…この子が喋るの止めさせて…」

 長女はビデオカメラを回しながら無言を保った。だが、弟を案じる秋音と夏樹は、もはや我慢ならず、矢のように相手ヘ掴みかかる。

 気配を読み取った褐色の少年は、矮躯に似合わぬ咆哮を上げ、両手の一振りだけで二人を跳ね飛ばした。子供離れした腕力に加え、敵の重心を利用する熟練した武術の動きが、驚異の業を為さしめたのだ。

「弟が心配なら、何故恥ずべき行いを続ける!この子の肉と魂を貶めたのは、おまえ達自身の賎しさだぞ!!」

 怒鳴り散らすテロリストを余所に、春香はカメラに添えた片手を離すと、黒のマニキュアを塗った爪でそっと鞄の留め金を弾いた。逸る気を抑えて、ゆっくり蓋を開き、中からアンプルを仕込んだ短針銃を取り出す。

 相手の血走った眼が広がり、女調教師をねめつける。決して怯んではならない。今この瞬間でさえまだ、相手は自分達を八つ裂きにできるだけの膂力を備えている。春香はとっておきの笑みを作ると、いきり立つ少年の股間に視線を落とし、阿りを投げ返した。

「インシュマー様。折角、演説をぶつだけの元気を取り戻して頂いたのですけれど、もう時間が押していますの…三人とも伏せなさい!」

 指が引金をひくと、神経系を破壊する劇薬が、インシュマーの裸の胸に打ち込まれる。テロリストは四肢を痙攣させ、白目を向くと、小水を撒き散らしながらベッドに崩れ落ちた。

 ひゅーひゅーという乱れた呼吸のほか、寝室には音が絶え、代って海凪のような静けさが満ちる。春香は震えながら、床へ視線を落した。

 最初に立ち上がったのは夏樹だった。彼は隣で頭をを抱えている秋音を助け起こすと、二人して、団子虫のように丸くなった冬人の側へすり寄り、優しく抱き締めた。

「冬人、大丈夫か、何言われたんだ…」

「あいつ、姉様がやっつけてくれたから…」

「…っ、あ、も、喋らない…?」

「ええ。テロリストの戯言なんか気にしなくていいの。皆、気違いなんだから」

 兄と妹は、末の弟と巴になって抱き合いながら、恐怖を吸い取っていく。奴隷達の無事を認めた調教師は、短針銃を構えたまま、仕留めた敵の躯へ歩み寄った。

 幼い聖職者はだらんと舌を出したまま、尻餅を突き、弛緩しきった穴という穴から汗や唾液や排泄物を垂れ流していた。どこもかしこも力を失っているのに、割礼済みのペニスだけが天井を指して屹立している。

「大した生命力だわ…神経が壊れても死なないなんて…ふふ、撮影の方、何とかなりそうね」

 春香は無造作に手を伸ばして、固くなった陰茎を握った。インシュマーの引き締まった腰が、機械仕掛けの玩具のように跳ねる。意志によって抑えつけられていた官能は、薬によって完全に解き放たれていた。

「感度良好のようですわね…では、始めましょう。秋音、夏樹」






 二人の娼婦が、左右からインシュマーの肢を抱え、宙に引き上げる。調教師が、芝居がかった手付きで下に一冊の書物を開くと、彼の耳元へ囁いた。

「下に何を敷いたか、お解りになります?チェアラム教徒には命より大切な聖典ですわ。貴方はこれから、たっぷりお腹の中身をぶちまけて頂きます。神の御言葉の上にね」

 自律機能を失った身体には、排泄を堪える方が難しかったろう。夏樹と秋音の指が菊座に入り込んで緩み切った括約筋を押し広げると、糞便が飛び散り、白い紙面を穢した。

「余り量がありませんね…まだ字が読めますわ、"斯くの如くに告げよ。信徒は、主の日を望まぬ者をも赦せ。何故なら現世の所業に応じ、来世で報いるのは主であるから…"」

 耳に快いアルトで読誦しながら、褐色の尻朶を平手打ち、虚ろな表情をカメラに収める。

「どうですか。ご自分の神を汚した気分は」

 汚れた聖典を持ち上げ、鼻先に押し付ける。使い込まれ、擦り切れた表紙。インシュマーが、孤児院の子供や、無料施療院の患者、時には塹壕の戦士達の前で読み聞かせた聖句が、濡れ、滲んで悪臭を放っている。だが開ききった瞳孔は虚無を覗き込んだままだった。

「そうですの。秋音、夏樹、冬人。薄汚い背信者を犯してやりなさい」

「任せて姉様。ねぇ冬人、私のディルドゥ取ってよ。一番太い奴。こいつの尻が締まらないようにしてやるんだから」

「おら、口開けろよ豚!」

 夏樹は無抵抗のインシュマーをあおむけに横たえると、顎を掴んで己の逸物を捻じ込んだ。後ろでは、子供の二の腕ほどはありそうな張型を咥え込んだ秋音が、荒く息をつきながら腰へにじり寄る。姉の手伝いを終えた冬人は、己の後孔を指で広げると、割礼済みの陰茎に腰を落した。

 みちみちと音を立てて、畸形の玩具がテロリストの肛門を壊していく。褐色の肢体が痙攣すると上に跨ったもう一人の少年が切なげに腰をくねらせた。

「秋音様、もうちょっ…ゆっくり…」

「バカ冬人、こんな短小で感じてんじゃ、ねぇぞ。いつも、俺ので犯してやってんだからさ…」

「そうそう。私だって本当は、冬人のお尻がいいんだよ。でも仕事だからね…スイッチ入れまーす♪さ、ズタズタになっちゃえ♪」

 ディルドゥの回転と振動が始まり、接合部から血の混じった泡が噴出す。間を見計らった夏樹は、インシュマーの喉の粘膜を使って、激しい抽送を始めた。冬人は兄と姉の微妙にずれたリズムの間を取りながら、聖職者の陰茎を締め付ける。

「はっ、こいつの喉、細っ、けー、よっ。あんな、ざらざら声してた割に、良くっ、滑るしよ」

「あんっ、お尻は、薬でもう、がばがばっ、だけどぉっ、このディルドゥなら、ぴったり、だね♪冬人、ついてきてる?」

「んっ…ぅあっ、ひゃぅっ…はひぃっ、秋音様ぁっ、夏樹様ぁっ」

 三者は三様に、少年の抜殻を使って快楽を貪った。秋音は男も顔負けの力で腰を使いつつ、片手を冬人の腰に回して、秘具を掴む。末の弟があえかな嬌声を上げて、姉の肩に頭を預けると、兄はまた性懲りも無く嫉妬の色を浮かべて、テロリストの口腔を犯す速度を早めた。

「ちくしょっ、もういく。おら、肺にぶち込んでやる。死ね!」

 憎しみの篭った口調で畳み掛け、精液を流し込んでやる。幾分は本当に気管へ入ったのか、インシュマーの喉は咳き込み、こってりした液体を戻そうとした。だが、夏樹はしっかりと髪を鷲掴みにしてそれを許さず、残さず胃に送ろうとする。耐え切れず、セム系らしい高い鼻から白い雫が滴り、美しい顔を無惨に汚す。

「へっ、もう脳がぷっつんしちまってるのに。お上品なんだな。クソガキ!」

「夏樹お兄ちゃんがっ、下品すぎ、だっよ。でもこいつ、腰も立たないみたいだしっ。冬人を虐めた敵はばっちり取れたね!ねっ冬人♪」

「やぁっ、らめぇっ、秋音様ぁっ。しごかなひでぇっ、うごかなひでぇっ!!」

「すっごい、テンション高いじゃっ、バカ冬人。秋音が動くとっ、衝撃が、伝わっちゃってんの?」

 兄の問いにこくんと切なげな頷きが答える。秋音が背後で嬉しそうに笑った。二人の少年を同時に犯す快感が、膣内を掻き回すディルドゥからじんじんと昇ってくる。一人は最愛の弟、もう一人はどれだけ憎んでも憎み足りないチェアラム教徒の少年。もうあの悟り済ました聖職者の姿は消えた。

 在るのは新しいダッチワイフ。壊れるまで遊ぶだけの人形に過ぎない。

 不意に、冬人が天を仰ぎ、片手を下腹に宛てて吐息した。

「おな、お腹が、あっ、入って来ちゃっ…」

「ダッチワイフの癖にぃ!冬人の中で出すなんて生意気ぃっ」

 訳の解らぬ難癖をつけて、秋音がディルドゥを突き上げる。インシュマーの四肢が力無く揺れて、衝撃を受け止めた。

「あきねさまぁ!とまって、またでちゃ!あああっ!!!」

 薬の効果か、テロリストの勃起は収まらず、少女の一打ちごとに射精を続ける。それを受け止めるのは冬人の体。奇妙な連鎖、夏樹の高笑いが響く。

「冬人、いっぱい入った?」

 悪戯っぽく尋ねる兄に、どう答えていい解らず首を振る少年。夏樹は目を細めると、弟の脇腹へ両手を差し入れ、残忍に微笑みかけた。

「後ろ、こいつのが零れないように、ちゃんと締めてろよ」

「あ、えっ?やっ…」

 抱え上げられ、接合が解ける。だらだらとだらしなく白濁液を滴らせる肛腔に、秋音は仕方ないわねといった風情で眦を下げ、後ろから臀肉を平手打ちしてやる。

「きゃんっ!」

 仔犬のような悲鳴を鳴き声と共に菊蕾を締める冬人。兄は妹の機転にウィンクすると、顎の外れたインシュマーの口から肉刀を引き抜き、弟をその上に導いた。

「こいつに、自分の精液飲ませてやれよ、ほら」

 有無を言わさず腰を落させる。べちゃっと下の口と上の口がぶつかった。冬人は恍惚としながら再び括約筋を開き、腸液と精液が混ざったカクテルを排泄した。黒褐色の唇は、何の意志も持たず、ただ半透明の粘液を満たして、端から零すだけだ。

「まるっきりトイレじゃない?さっきまであんな偉そうに説教してたのにね。姉様、こいつ撮影が終ったら持って帰ろうよ。トイレ代りに飼ってあげればいいよ。それなら、テロリストでもちょっとは社会の役に立つ訳だしぃ?」

 秋音は上擦った声で喋りながら、ディルドゥによる掘削を続ける。インシュマーの腰が二度と使い物にならないほど徹底的にやるつもりらしい。

 全てをカメラ越しに観察していた春香は、スイッチを切ると肩を竦めた。

「それは依頼人次第だわね。さぁもう充分よ。コートを着て、後始末を始めて。ぴったり一時間四十五分。引き上げの時間だわ」

 夏樹が草臥れ果てた冬人を立たせ、秋音が鞄から紙布巾をとって汚れを拭い去る。忙しく働きだす妹や弟を置いて、春香は聖遺物へ拝礼するように、汚され尽くしたインシュマーの身体へと屈みこんだ。

「褐色の肌に白化粧がとても良くお似合いですわインシュマー様。これが世界に公開されたら貴方の権威は地に落ちますわね。といっても、もう何も解りはしないでしょうけど。では、お休みなさい、よい夢を」

 女奴隷が羽織らせてくれたコートへ袖を通しながら、調教師は最後の一瞥を投げる。だが、聖職者は生死すら定かならぬ表情で、虚ろな目付きのまま天井を向いていた。やがて足音が遠ざかり、扉が閉じられても、もう二度と、少年は正気に戻らなかった。






 警視庁の公安部は国際指名手配テロリスト、インシュマーを都内皇国ホテルの一室で逮捕した。饐えた精液の匂いに塗れ、麻薬の急性中毒症状を示す幼い子供。それが匿名の通報で彼等の得た手柄の全てだったが、隠蔽にかけては、他国の秘密警察に引けを取らぬ組織であったので、泰山鳴動して鼠一匹という有様でも実情についても、外部に漏れた情報はごく僅かであった。

 しかし、新聞は挙って狂信者の爛れた性生活を暴き立てた。謹厳実直を持って知られる孤高のチェアラム法学者の正体が、麻薬と買春に現を抜かしていた色気違いだったと。第三世界には何の興味も抱かぬ読者層でさえ、扇情的な記事には読み耽った。

 チェアラム内部に走った衝撃は凄まじかった。規範派と正統派の領袖は、其々ターランとリヤードから稀代の似非信徒を批難した。兼ねてから聖職者内部の腐敗を追及し、幾多の汚職を明るみへ引き出していた、言わば目の上のたんこぶであるインシュマー派に対し、公然たる復讐の切っ掛けを掴んだのだ。

 だが、話はおかしな方へ向った。百歳を超える老僧は、何故か十歳そこそこの容姿をしていたというのだ。果たして彼は不老不死の妖怪なのだろうか。合衆国のさるファイル交換業者がインシュマーの生本番ビデオを流通させ始めるや、新たな議論が噴出した。

 映像では、出演する娼婦達の顔が、高度な信号処理によって掻き消されているのと対照的に、快楽に興じる少年の幼い容貌は、くっきりと際立たせてあった。しかし実際は、インシュマーの素顔を見た者など殆どいないのだ。彼はいついかなる時も、女のように覆布をしていた。

 果たしてこの少年が本人であるかどうか、誰にも証言できなかったし、スキャンダルに巻き込まれてまで偽証したいと望むような、権威ある法学者は居なかった。

 ダマス侵攻が国連で可決される前日に、インシュマーはチェアラム系独立衛星テレビ放送局に姿を顕した。以前と代らぬ嗄れ声と明晰な言葉で、聖戦を呼びかけた。ビデオに関しては、幼い子供を陵辱するのは非道で、其を平然と社会に垂流すマスメディアには良心が欠如していると述べるに留め、自分に挑戦したいのでれば言葉を用いた議論でも、武器を取った戦いでも相手になる、弱者を巻き込んで下劣な真似をするなと結んだ。

 それでも繰り返し繰り返し、件の映像は報道され続け、テロリストを貶めるための宣伝工作は続けられた。だがインシュマー派は最初の宣告を終えると、後はどんなに誹謗にも沈黙を守り、持てる兵力を糾合してダマスに布陣を敷いた。ならず者と呼ばれたチェアラム戦士の群は悪評などには耳も貸さず、覆面の法学者の下に馳せ参じるや、聖句を唱え、カラシニコフを磨き、定められた滅びを待ち受けた。

 彼等の数は一向に減らなかった。沢山の不審船が、核の火の落ちる前にダマス周辺の住民を逃がそうと密航し、多国籍軍の攻撃に遭って沈んだ。陸路から食糧や医薬品を運ぼうとしたトラック隊は無人戦車の砲列を受けて火達磨となり、荷獣を連れて砂漠を横断し様とした難民は無人戦闘機の餌食となった。それでもテロリスト達はしつこく暗躍し、幾ばくかの信徒を、先進国による"兵器の実験場"から逃がしてしまった。テレビの前でショーの始まりを待つ日本人や合衆国人は、多少がっかりせざる得なかった。ゲームの規模が小さくなったからだ。

 しかし、インシュマー側は時間が足りなかった。戦術核が撒き散らす死の塵から、全住民を逃がすのは不可能だったし、そんな権限もなかった。ダマスの政府はならず者への協力を惜しんで、代りに国連へ泣言とやけくその恫喝を交互に述べ続け、先進国の善意に期待したのだ。

 だが、政府に帰ってきたのは、"まな板の上の鯉になって、爆弾が降るまで大人しくしていろ"という安保理の通告だけだった。テロリスト達はいよいよ焦り、各国に散らばった青年は急ぎ殉教の地へ向おうとした。まだ、仲間が集まれば悲劇が防げると信じていたのだ。

 ハシーム・アル・アフマードもその一人だった。彼はかつてインシュマーの従者であり、今も老師の教えの忠実な弟子たらんとしていた。若きテロリストは、シンガポールの港で船出を待っていた。死の待つであろう、ダマス行きの船を。

『どうしても行くのかね』

 港町の支部代表を務める年配の人物が、低く問うた。

『ええ、サイードさん。お世話になりました』

『私は君に、ここへ留まって欲しいのだ。君が、会ったこともない人物の為に命を捨てる必要はないんだよ。インシュマーもそれは望んで居まい』

『ですが、インシュマーはダマスに居られ、皆を元気付けられている。私はインシュマーに会いたい。会って今度こそお守りしたい…』

『インシュマーは守られる必要はない。解っている筈だ。君が彼への罪の意識から死地へ赴くのであれば、私は止めるよ』

 サイードの悩ましげな言葉に、青年は歪な笑みを返した。

『そう確かに…インシュ・マー(主の御心のままに)…は人の名では無いから…私達の信仰の証…名を負う一人が死ねば、別の一人が立つ…最後にまたあの物語をしてくださいサイードさん。僕への手向けに。何故インシュ・マーがインシュ・マーと呼ばれるようになったか』

 中年の男は肩を落すと、力無く頷いた。

『いいだろう。最初にインシュマーと呼ばれたのは、さる朱儒の法学者だった。アフリカで非合法の製薬工場を建て、特許を無視して無料のエイズ治療薬を作り続けた男だ。合衆国の情報部が彼を追跡し、捕えて、惨い拷問を行なって黒幕は誰だと尋ねた。すると彼は答えた。インシュ・マー(主だけがご存知だ)とね』

 過ぎ去った日々を懐かしむが如く、サイードの言葉には湿り気が混じる。

『次にインシュマーになったのは、ユーラシア大陸の回族自治区で、彊の言葉で教育を進めようとした老先生だった。お婆さんで、腰が曲がっていたが、不屈の闘志を持っていた。彼女は沢山の学生を育てたが、多くが技師になり、ある時中央の差別的なやり方に逆らって鉱山に立て篭もった。役人は彼女を捕え教え子に節を曲げるよう強制した。彼女はマイクを前に、血塗れの口を開いてただインシュマー(主の御心に従え)とだけ呟き、事切れた』

 サイレンが鳴る。出航が近付いてくる。

『三番目から、インシュマーは他の名前を持たなくなった。彼は仲間とシベリアにある社会主義連邦のドナーキャンプに潜りこみ、人間牧場の実態を公のものにしようとした。だが四年間の活動の末、結局警備を務めるマフィアに囚われた。自白剤を打たれ、本名を吐くように言われた彼が笑いながら答えたのは…』

『インシュマー、不死なる主の御心』

 ハシームは後を引き取るとゆっくりと瞼を閉じた。涙が、二筋、髯の濃い頬を流れ落ちる。

『ですが僕にとってのインシュマーは、あの人だけでした。愚かで不注意でさえなければ、あの人を守れたのに…』

『危険は承知だったのだよ。私達が新しく二人のインシュマーを選出し、片方がダマスに司令部を整え、もう片方が国際連絡網を引き継ぐ間、古いインシュマーは敵の目をひきつけ、大掛かりな罠を用意させ、自ら其処に飛び込んで役目を果したのだ』

『僕はあの人を愛していました。私の祖父のように、弟のように。せめて…』

『あの子はねハシーム。どの道長くは生きられなかったのだ。十二年前、合衆国軍部と繋がったさる企業が、アブダビのドナーキャンプで五十人の妊婦に特殊な人体実験を行なった。目的は、キャンプの難民が先進国の病人達に、より拒絶反応が少なく、生命力が強く、遺伝子的欠陥のない臓器を提供できるようにする事だった。あの子も、それから新しい二人のインシュマーも、その五十人の中に含まれている』

『なんですって?じゃあ…』

『彼はジェネティックだったんだ。企業は、ジェネティックの子孫がキャンプ内で交雑し、優秀な家畜が繁殖するのを期待していた。我々がキャンプを襲撃した時、連中が焼却処分しようとした書類から見つけた情報だ。ジェネティックは、学習能力が高く、知的成熟も早い。肉体的にも、常人の数倍の耐久性を備える。だが皮肉にも、彼等が期待したような旺盛な生殖能力は持たなかった。ホルモンバランスが壊れやすく、十五歳前後までしか生きられないのだ』

『…彼は知って…』

『そうだ。我々は隠さない。たとえ絶望しか齎さぬ真実でも隠すよりは教える。兎に角彼は己の素性を知ってから、我々の一員となる道を選んだ。六番目のインシュマーとして』

 青年は額に手を当てて呻いた。

『では何故、師は私にだけ教えて下さらなかったのだ…』

『それはな、子供らしい感傷だ…あの子が、己の信念へ背いてまで隠した唯一つの真実を、どうか責めてくれるな…誰しも預言者その人ではないのだ…』

 乗客が桟橋に集まり始め、別れを惜しむ声や晴れやかな挨拶で辺りが喧しくなる中、サイードはハシームを見詰め、ずっと用意していた言葉を、厳かに呟く。

『お前は若く健康だ。あの子達の分まで生きてやってくれ』

『いいえ』

 チェアラムの戦士は、強く頭を振った。

『今の話を聞いて、尚更、ダマスに居られる新しいインシュマーに会わない訳には行かなくなりました。どうしても、お守りしたい』

『そうか…良し。それなら…彼女に、シンガポールのサイードから宜しくと伝えてくれ』

『彼女?女性なのですか?』

『喉は薬で潰しているから、声は変わらんがね。彼女の本名はファティマという。先代インシュマーの幼馴染だ…賢い子だ…きっと君を気に入って、彼の、アディフの話を聞きたがるだろう』

 若者は今度は素直に頷き、タラップを登って行く。中年の男は、誇らしさと悲しみの入り混じった気持で背を見送った。恐らく生きては帰るまい。ファティマも、他の多くの兄弟、姉妹も。放射能に信仰心は無力だ。しかし、それでも、インシュマーだけは生き残る。伝説的なテロリストの名は、何者にも葬りされはしない。受継ぐ者がある限りは。負けはしないのだ。

 だが、サイードは独りごちた。果して彼の名は其処までして生き残らせる意味があるのだろうか。此程多くの犠牲を必要とする大義とは、我々が全てを奉げて戦うに値するのだろうか、と。

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