Perfume Vol.2

学校が始まると、移ってきた初日の出来事は積み重なる昼と夜の下に埋もれていった。文実也はもう、偶さかうなされたとしても、深更ににわめいて飛び起きるような羽目には陥らなかった。

覚悟していたよりずっと波風のない暮らしを送れるようになった。

クラスでは登校してから下校するまで誰とも喋らなくても、あまり問題なかった。教師も生徒もまず成績が第一で、他への関心は薄い。もちろん勉強は難しく、小テストでは周りより低い点しかとれなかったが、赤点にさえはならなければ、放っておいてもらえた。

申し込めば放課後に個別指導も受けられたが、避けても怒られはしなかったので、一度も利用していなかった。図書室も英語、算数、理科、社会の副教材から大人用の難しい科学概説書までそろっていたが、前の学校と違って家庭科の本がなかったので二度と行かなかった。

夕方になると、さっさと一人で帰る。定期を使って下りの電車に乗ると、三駅目で降りる。時計塔のある広場をまたいで、駅ビルと商店街がそう離れずに並んでいて、いつも黄昏には人通りが多く、電飾も賑やかになった。

やかましい音楽に惹かれて見上げると、茜の空を背景にしたディスプレイに、色々な広告が浮かんでいる。新しい電話だったり、飲料だったり、ロボットだったりする。一昨日から流れるようになった映像は、出だしは何を宣伝しているのかはっきりしなかった。

青黒い毛並みの犬が草原を駆けていく。見たこともないほど大きく、すらりとした四肢を動かして、緑の野を矢のように横切っていく。

“野生をあなたに”

画面が切り替わって、放射状に並んだ八枚の葉をあしらった意匠と、ガラス瓶が浮かぶ。男用の香水だと、文実也は分かった。親の勤める会社が出す新製品だ。

こそばゆくなってうつむき、通学鞄を背負い直して交差点を渡ると、門を潜って商店街に向かう。夕方の雑踏をすり抜け、食料雑貨の店に入ると、年寄りの客がじろりと一瞥してくる。制服に学帽といういでたちが、辺りとそぐわないのを感じた。

移ってくる前に買い物をしていた店では顔を知られていたから、あまり咎め立てされはしなかったが、新しい場所は幾分よそよそしい。できるだけ小さくなって、横目に棚の表示を調べながら、茶葉の棚に辿り着く。沢山の紙パックが入ったレモンティーの徳用袋を探し当てて手に取ると、叔母の家に置いているペットボトルと同じ銘柄らしいと見て取れた。

紅茶や烏龍茶の類は紙パックで淹れた方がずっと安いと親に教わっていた。メーカーを確かめようと裏を返すと、また八枚の葉が目に付く。

瞬きしてからレジへ持っていくと、少し背伸びして品物を差し延べ、電話で支払いをして店の外へ出る。ほっと息を吐いてから通りを横切り、今度はスーパーマーケットで鶏肉と野菜を購入する。通学鞄から布袋を出して、買ったものを詰めると、狭い肩にかけてずり落ちないように抑えながら、足を急がせる。

あまり、かさばりそうな場合は叔母に連絡して帰りに買ってきてもらうのだが、今日は大丈夫そうだった。住宅街の坂を上がって、古いマンションの階段を駆け登ると、二階の突き当たりにある扉に、もらった合鍵を挿して回し、冷たい金属の把手を引いた。

中へ入ると、まず籠もった匂いを払うように窓を開ける。手洗いとうがいをして、食材を冷蔵庫に収めたら、着替えをして、薄い白のゴム手袋をはめて朝干した洗濯物を取り込んだ。女物の下着はなるたけ見ないようにしながら、籠にまとめて入れてしまうと、台所に戻ってエプロンをかけ、三角巾をかぶって料理に手を付ける。

馴染みのあるリズムだった。

踏み台に上がって釜に水を入れ、米を磨いで、炊飯器にかけたら、また下りて、行ったり来たり、自然に鼻歌が出てくる。親がよく唄っていた曲で、題名は知らないけれど、明るい旋律だった。

時々、調理台の上に開いた小さなノートをめくる。親が学生時代に勉強に使っていたものを、貸してもらったのだ。古い品だが、防水で頑丈だった。よく理解できない化学記号が付いたメモに混じって、子供が独りでも作りやすいレシピが写真と一緒に載っている。

下拵えが済んで、暇ができると床にワイパーをかけたり、洗濯物にアイロンをかけたりする。本当のところは、面倒で量も多い宿題を先にやった方がよかったが、つい億劫で他の用事を優先してしまう。

しかし一時間もせずに、鶏の肉じゃがと、ほうれん草のおひたしができあがった。衣服はすべてたたんで自分のものは自室に、家主のものはソファに乗る。続けて自室、リビング、台所、トイレ兼風呂場、廊下と清めてしまうと、残るもう一部屋には絶対に入るなと言われているので、勉強にとりかかるよりなかった。

ビスケットをかじり、レモンティーを飲んで、むっつりして宿題を広げる。苦手な算数とやや得意な社会科。社会科の方から手を付ける。一時間も頭をひねっている内に、外でバイクの唸りがし、階段を登る足音に続いて、帰宅を告げる声が響いた。

飛ぶようにして玄関へ迎えに行くと、久美子は唇の端だけ上げて挨拶代わりに腕を伸ばし、文実也の頭を掴んだ。

「これ、とりなよ」

かぶったままだった三角巾を引っぺがすと、くっくと喉を鳴らす。へまを悟った少年は頬を染めると、軽く飛び跳ねて、女の手から布をもぎ取り、胸の前でくしゃくしゃに握りつぶしてから、小さく呟いた。

「お、おかえりなさい。く、久美子叔母さん」

「ただいま、文実也君。ごはん何」

「あ、あの、と、鶏…と、じ、じゃがいも、です」

「よし、食べよう」

そう言って家主が微笑みながら見下ろすと、居候も見上げつつ、釣られてにっこりした。


その晩の夢はあまりに生々しく、無意識に手で口を塞がなければ、耳障りに甲高い金切り声を迸らせていたかもしれなかった。

少年は汗みずくになってベッドから転げ落ちると、這うようにしてトイレに行き、夕餉にとった鶏じゃがと、ほうれん草と、味噌汁と、ご飯とを、皆吐いた。胃が空になってからも、何度か痙攣するように震えて、透明な液をこぼした。

ようやく収まると水を流し、今度は便器にまたがったが、うまくいかなかった。腹の中に粘ついた汁が詰まっている錯覚が拭えない。夢の中で起きた事が、現でも続いているようだった。

「でない…」

半ばべそをかきながら、拳を握りしめ、次いでぼんやりした眼差しを浴室に投げる。立ち上がると、パジャマを脱ぎ捨て、洗い場に踏み込んで、シャワーをとる。ヘッドを外して、菊座に当て、栓をひねった。冷たい水が直腸を刺激し、か細い悲鳴が漏れる。やがて温かくなった。指を入れて中を洗おうとしたが、うまくいかなかった。

寒けとともに便意が訪れた。シャワーを止めると、ふらついて便所へ戻る。はらわたに溜まった汚濁が溢れた。しかしまだ、へどろのような何かが内臓にこびりついている。繰り返し、繰り返し、湯で濯いでいるうちに後孔はゆるみ、指が入るようになった。だが石鹸を付けて擦っても奥までは届かない。

澄んだ水しか出なくなっても、体の内側の気持ちの悪さがとれなかった。啜り泣きながら、またホースを排泄口に当てたところで、いきなりドアが開いた。

「…っ、ちょっと何してんの!」

驚いた久美子の問いかけに、文実也はホースを取り落として縮こまった。青ざめ、うずくまって細い腕で顔を覆ったが、がに股になった脚のあいだからは隠しようもなく注いだ湯が零れていた。

叔母は素早く側へ寄ると甥の肩の当たりを掴んで引きずり起こした。

「こんな事したら病気になるよ!!」

「…めんなさい…」

消え入りそうな謝罪とともに、まぶたを閉ざして首を落とす少年に、女は溜息を一つすると、尖った顎の下に手を入れ、無理矢理面を上げさせた。

「何があったか言って」

「な、何にも…」

「毎晩うなされてる」

家主の台詞に、居候はぎくりと身を強張らせた。最近は夜叫んだりしていないつもりだったのに。心拍が激しくなり、胴の真央に穴が空いたように思えて、またえづきそうになった刹那、幽かな柑橘の匂いが鼻をくすぐって、悪寒を鎮めた。

「あ、あの…」

「ああ、風邪引く。バスタブ入って」

文実也が命じられるまま浴槽の縁をまたいで、しゃがみ込むと、久美子はシャワーのノズルを嵌めて温度を調節し、戸を引くと、湯気の上がる湯を出して、裸の肩にかけた。竦む矮躯に、強い言葉がかかる。

「暖まるまで我慢」

頬が火照り始める頃、ようやく湯の勢いは止まった。少年はうずくまったまま、のぼせた顔で宙を仰いだ。女はしゃがみこんでプラスチックの縁ごしに話しかけた。

「何があったか言いな」

甥は従順に頷いたが、初めは口籠もったままだった。だが叔母が辛抱強く待っていると、おずおずと語句を紡いだ。

「ゆ、夢…見て…」

「うん」

「く、黒い影が…お、お母さんといて…それから…こ、こっち…き、来て…く、口…口と口を…あの…それで、き、気持ち悪くて…ずっと…で、でも夢で…」

説明はやがて曖昧になって途切れる。しばらく沈黙があってから、呼吸を止めていた家主が咳き込むように息を吐くと、確かめるように尋ねた。

「夢で誰かとキスして、とても気持ちが悪かった。それで毎晩うなされてた」

淡々とした口調だが、僅かに語尾が震えている。だが小さな居候は考えるゆとりもなく、肯うそぶりをした。

「は、は…い…」

「本当にキスしたことある?」

「っ…い、いいえ!」

文実也は弾かれたように頭を上げた。その頬を久美子の両掌が挟むと、やおら接吻をした。

柔らかな唇と唇が重なって、香水が薫る。舌がそっと入ってきて、もう一枚の舌と触れ合う。蕩けそうな甘さと熱さとに、少年の目尻が下がり、双眸がいっぱいに開いて、縁から涙の雫がこぼれ落ちる。小鳥の如くかそけき姿態がわななくと、反り返った幼茎が痩せた腹を鼓いた。

大人と子供、二つの容貌が銀の糸を引いて離れる。女は息を整えてから訊いた。

「キス。気持ち悪かった?」

惚けた甥が形ばかり首を左右へ振ると、叔母は照れたようににやっとしてから、ふと視線を落として、未だ蕾のままの秘具の先に透明な露が載っているのを認めた。

「…キスだけで…?」

文実也は茹で蛸のようになって両腕を脚のあいだに入れ、官能の徴を庇った。久美子は愉快そうに瞳を煌めかせたが、すぐに眼差しを上げると、話題を切り替えた。

「で、お尻洗ってたのは何でなの」

少年は凝然とすると、女はいったん口を噤み、幾らか気楽そうな調子で語句を継いだ。

「あのさ。どうしてもお腹が変な時は、薬局で売ってる浣腸使いな。いいね」

「ぁ…」

「恥ずかしければこっちで買っておいてあげるから。分かった?」

居候がどうにか首を縦に振ると、家主は大きく反り返って伸びをしてから、おもむろに立ち上がった。

「私もシャワーもっかい浴びるか」

「っ、ぁ」

「そこにいろ」

釘を刺しておいてから、叔母はさっさとパジャマのボタンを外して前を開き、袖を抜くと、戸を開けて向こうへ放った。下も降ろして、たちまち生まれたままの姿になる。たわわな乳房に続いて、六つに割れた腹筋、引き締まった太腿などを露にすると、シャワーノズルを取ってまた湯を出したまま、甥の後ろから浴槽に入った。

余り広くないバスタブの中では自然と密着せざるを得なくなる。裸の背に当たる肉鞠のふくよかさに、文実也はまたしゃちこばったが、久美子はほとんど力任せに抱き寄せて、足を動かせるだけの隙間を作ると、器用に爪先で浴槽の栓をとって排水溝に嵌めた。

シャワーが段々と浴槽を満たすのを待ちながら、大人が子供の滑らかな膚に身を擦りつける。想像もしていなかった触れ合いに、骨張った四肢は再び硬直したが、疲労のためか華奢な胴はあまり時を置かずぐったりと後ろに凭れた。次第に湯煙が浴室を曇らせる中で、どちらもただじっとしている。

「ふふ」

二の腕まで漬かった湯を揺すらせ、不意に女は少年に頬ずりをした。もう身構えるような反応はない。指でつついてもぴくりともしなかった。様子を窺うと、最前まで張り詰めていた面差しは、赤ん坊めいたあどけなさに取って代わって、細い寝息を立てていた。

家主はまた深く呼吸すると、小さな居候の額に張り付いた黒髪を指で分けてから、左右のまぶたに短く口づけを与えた。悪夢を払う呪いのように。


寝る前のキスは日課になった。

脱衣場の大きな鏡の前で、並んで服を脱いで、一糸まとわぬ姿になる。初め文実也は顔から火が出そうな様子だったが、結局は目上の命令通りにして、向かい合うと精一杯爪先立って唇を上向けた。

久美子はちょっと焦らしてから、覆い被さるように接吻する。舌と舌をからませながら、肉付きの薄い尻からうなじにかけてを愛撫し、官能を呼び起こしていった。尤もそうしなくても、幼い躰はキスだけですぐ軽い絶頂に達してしまった。

やがて甥の腰が立たなくなると、叔母は抱えるようにして浴室へ連れ込み、欲望を処理する術を授けた。包皮を剥き、淡い柑橘の芳香があるジェルを塗して、指でくるんで扱く。初めは惑乱して泣いていた教え子も、指導役の促すままに淫らな行為を学んでいった。

「これっ、まだ一人でやんないでね。ここっ、傷ついて膿むと大変だから」

女が掌に捕えた細幹を擦り立てながら囁くと、少年は弱々しく頷く。先導役はいたずらっぽく笑って、いっそう手を速めながら、耳朶を甘噛みした。

「ぁっ…ゃ…っ…!ぁっ!!」

教え子の方は恍惚の際に達すると、必ず涙ぐみながら、腰を浮かせ、ボーイソプラノの喘ぎとともに、わずかな雫を放った。

久美子が夜ごと躾ける悦びは、文実也にとっては四肢が震えてばらばらになってしまいそうな程激しかったが、それでも解き放たれてから、快い疲れと共にシーツに横たわると、指先から心臓まで全身に谺していた官能の残滓は潮が引くように去り、たちまちまぶたが重くなった。眠りは深くなり、うなされるような夢は遠のいた。

朝起きると、肌に当たる空気がいつもよりくすぐったく、手足は働くのが待ちきれないとばかりに機敏に動いた。いつも通り洗濯を干し、食事の支度をすると、中々起きて来ない年嵩の同居人を、どうにか目覚めさせる。顔を合わせると、つい胸が高鳴ったが、相手の不機嫌そうな態度に遭って、平静になれた。

学校では変わりなく過ごせた。もっとも休み時間や下校中には、おかしな声を上げたり、みっともない格好をした記憶がふと浮かび、貌が鬼灯の色に染まることはあったが。勉強をしたり家事をしたりしていれば、忘れられた。言いつけを守るよう努めるまでもなく、何かするつもりにはならなかった。

けれども宵を迎えて、バイクの排気音がし、仄かな柑橘の香水を嗅いだ途端、昨晩味わった奮えが蘇り、いてもたってもいられなくなる。

小さな居候がお預けを食った仔犬そっくりの切なげな所作で寄ってくると、家主は決まって素知らぬふりをした。だが相手がしょげ返って離れたところで、不意打ちに後ろから指で背筋をなぞり、あるいは鎖骨の辺りに息を吹きかける。

ちょっとしたからかいにも少年は過剰なほど反応し、あっさり果ててしまうのも度々だった。

半ば呆れ笑いをしながら、女は慰めの言葉をかけて未熟な短躯から服を脱がせ、湿った下着を降ろして生まれたままの姿にする。手早く幼茎を拭い、掻き抱いて豊かな乳房に頭を埋めさせると、あらためて桜に色づいた亀頭をさすったり、陰嚢を揺すったりして随喜に啼かせた。

慣れてくると、浴室だけでなく、廊下でも、リビングでも、玄関でさえ戯れの場になる。家主はあまり利用していなかった空調の電源を入れ、過ごしやすい室温と淡いアロマで満たし、居候が裸のままでいられるようにした。

大抵は稚い方だけ着衣を解かせ、時には年嵩の方も肌をさらして、唇と指を使って快楽を奏でる。都度、声変わり前の喉はいっそう高く囀り、ほっそりした腕と脚のすべてが、受け止めきれない官能にわなないた。

瑞々しい皮膚の隅々まで、さまざまな玩弄を試すうち、とりわけつねったり、咬んだり、叩いたりするのに感じやすいと悟ると、叔母は好んで歯や爪による刺激と与えるようになった。幼い甥は、浅く色づいた胸飾りを腫らし、腋の下から肋の浮いた横腹、太腿の内側に紅の痣を散らして、混じり合う痛みと快さにむせんだ。

だが、興に任せた甘噛みが無毛の陽根や小振りな陰嚢にまで及ぶと、流石に恐慌を起こしたように、鼻声で懇願する。

「そ…そこ…や…」

「ん?」

久美子は、両の瞳に意地悪い光を点し、聞こえなかったふりをすると、しゃがみ込んだまま少し強くキスマークを刻んでいく。文実也は裏返った悲鳴を上げ、若鮎のように上半身をくねらせたが、腰から下はしっかりと抱き留められ、乱暴な愛撫から遁れられなかった。

「ひっ…ぎっ…ぁっ…ひっ!!いだっ…痛ぁっ…も…やっ…ゆるし…」

「んー、でもさっきより固くなってる」

言葉通り下腹にぴったりつくほど反った秘具を指で弾くと、掠れた叫びとともに痩せた背が弓なりになり、薄い汁が鳩尾の辺りに飛び散った。へたり込み、荒く息をしながら、焦点の合わない眼で宙を仰ぐ有様を眺めて、女も少々やりすぎたという面持ちで呟いた。

「埋め合わせ」

先程まで嫐っていた幼茎を掴むと、大きく顎を開いて易々と根元まで咥え込む。ひりつく性器を熱く濡れた口腔が包むと、少年はまた弱々しく哭いた。

叔母は丹念な口淫で、二度程甥に気をやらせると、なおも好きな菓子を頬張った子供よろしく陽根を未練げにねぶって、ようやく離した。満腹した猫そっくりに口の周りを舐めてから、のんびり独りごちる。

「こっちばっかしてるよね…文実也もしてみる?」

いつのまにかの呼び捨てにも、小さな居候は応えようとせず、ただ糸の切れた操り人形のようにうずくまっていた。家主はくすりとして腕を伸ばし、軽い体を抱き寄せると、ふくよかな胸の尖端を、半ば開いたままの唇に含ませた。

ぼんやりしたまま文実也が乳房を吸うと、久美子は汗に濡れた髪を梳りながら囁きかける。

「先っちょを舌で転がして…うん…うまい…ね…他のところも…そう」

頭を押す手に導かれるまま、おずおずした口付けが、円かな膨らみを縁取って降り、固い腹筋を通って臍の辺りから、さらに下へ、しとどにそぼった叢に潜る。

「ふふ。息が当たってるよ…奥…そう…ぁっ…」

密生した茂みを舌で掻き分けて、蜜を滴らせる秘所に達すると、甘夏を何倍にも濃くしたような香りがした。熟した果実をついばむ小鳥の如く鼻先を埋め、果汁を啜り、果肉を貪ると、鍛えられ成熟した姿態が初めて余裕を失ったように、あえかな嬌声を漏らした。

女は前屈みになって重く乳房を垂らし、呼吸を整えると、覚えのよいペットにするように、両脚のあいだで上下する稚い頭を撫でてやった。数拍を置いて奉仕は中断し、うまくできているかどうか、不安そうな上目遣いがある。

「きもちいいよ…すごく」

安堵した少年はまた陰唇に接吻し、ぎこちない口淫を再開した。首を低くするために、足のうつぶせに近くなり、足の上に双臀を載せた格好は仔犬じみていて、尻尾があればちぎれるほど振っていただろう。

久美子は忙しく息をして、矢庭に背を反らすと、肉鞠を上下させて、腰の芯から神経の末端まで広がる激しい波に攫われまいとするように拳を握り、小刻みに打ち震えた。夥しい愛液が溢れると、文実也は顎の端から垂らしながら、飲み干そうとして咳き込む。

叔母は余韻を惜しむように歯を食いしばっていたが、少しして未熟な舌がなおも秘裂を懸命に舐め清めているのを感じて、ゆっくり肩を落とした。滾々と沸く新たな快楽に身を任せそうになったが、瞬きして誘惑を打ち払い、相手を引き起こし両腕の中にしっかり閉じこめる。

「ありがと」

耳元で告げると、長い戯れに困憊した甥はしがみつくように抱き返して、掠れた喉から切れ切れに返事をする。

「く、久美子…おばさ…」

「おばさんは要らない」

素早く窘めると、間があって戸惑いがちに言葉が継がれる。

「…く、久美子さ…ん」

「何?」

「ぼ、僕、く、久美子お…さん…す、好き…で……」

はっとした家主が、だしぬけに居候の華奢な肩を掴んで引き離し、あどけない容貌に浮かぶ必死の様相を覗き込んだ。大粒の瞳は潤み、頬は薄桃に染まって、唇はやけに艶めかしい。

「…今日はここまで。シャワー浴び直して寝るよ」

急に醒めた声が宣べた。

「っ…は、はい…」

少年は命令に従おうとしてから、まるで腰が立たないのを悟って情けなさに涙ぐむ。女はふっと頬を緩めると、いきなり痩躯を掬い上げて横抱きにし、軽々と立ち上がる。そのまま花婿が花嫁にするような格好で浴室へと運んだ。

戸を閉めると、熱い湯で二人の汗と情事の跡を流し去り、石鹸を首から胸、腹、脚や腕に塗り広げる。互いの肌を重ねて、スポンジ代わりにこすらせ、洗っていく。シャボンのついた頬と頬がこすれ、乳房と肋の浮いた胸が合わさり、短い手と長い手が交差して互いの背をなぞる。

「また固くなってる」

「ぁっ…ぁっ…」

「しょうがないか」

もう一度、温められた滴に打たれて泡を落とすと、久美子は文実也を浴槽の縁に座らせて股間に鼻先をうずめ、つくしのような発育途上の器官を飽かず娯しんだ。

わずかなしたたりを搾り取ると、消耗し尽くした肢体をバスタオルで拭く。醒めないうちに着せ替え人形のように寝間着をまとわせ、先程と同様に抱き上げて部屋へ運んで、ベッドに横たえる。枕を頭の下に入れ、上掛けを顎のところまで引いてやる。

「そうじ…しないと」

ままやく甥のとろんとした両眼を、叔母の掌が覆って閉じさせた。

「明日、明日。おやすみ」

保護者が去って明かりが消えると、からみつくような疲労が童児を睡みの底なし沼へと引き込んでいく。


気付くと、またいつもの部屋だった。

文実也はベッドの上に横たわっている。闇を凝らせたような男がのしかかっるのを、どうしてか両腕を広げて迎え入れていた。押しのけたいはずが、夢の中では微笑して、相手を抱きしめようとしている。

下半身に影が重なり、はらわたを何かが充たしていった。おぞましいのに、てらいもなく媚態を演じ、キスをねだってしまう。

唇と唇が触れると、電流が奔ったように脳に火花が散る。舌を絡め、唾液を交換し、ベルガモットを思わせる薫りを貪る。

“上達しましたね”

低い声音で優しく褒められるとくすぐったくてたまらないような喜びが脊椎を駆け抜ける。

「…とう…ん」

唇が勝手に動いて甘えた答えを紡ぐ。凹んだ腹が、内に入り込んだ粘液で蛙の如く膨らみ、意識が途切れそうなほど苦しく、同時に幸福ではち切れそうな心地がした。

“もうすぐ迎えに行きましょう”

文実也は嬉しくて泣いてしまいそうになりながら、腰を揺すり、胴をくねらせ、待ちきれない想いを伝えようとする。頭の片隅ではもう一人の自分が喚いていたが、すべてを恭順の悦びが塗り潰していった。

やがて口が自然に形作るべき言葉をなぞる。

「はい…お…とうさ…」


少年はベッドから抜けると、まっすぐトイレに駆け込み、体内に入り込んだ穢れを出そうとした。額から脂汗を垂らしながら便座の端を掴み、無駄な真似をしていると悟るまで、五分ほどは歯を打ち鳴らしていただろうか。

拳で目元を拭うと、足を忍ばせてリビングへ向かい、医薬品箱から以前に教わった浣腸を取る。説明書を読んでどう使うかは理解していた。便所に戻って、冷たい液を直腸に差すと、土気色の顔をうつむかせて座る。

今度は吐かなかったが、同じ事だった。薬の力を借りて、空っぽになるまで排泄を繰り返し、ぬるま湯で洗っても、臓腑に棲み着いたおぞましさを駆逐できなかった。

「なんで…」

もう泣くのだけは堪えられた。唇を噛むと、指を緩んだ菊座に入れ、掻き毟りたくなるのを我慢しながら、決して触れられない内奥をまさぐる。

制止がなければ血が滲むまでやっていたかもしれない。だが鋭い声が、中断させた。

「文実也」

女は少年の腕を掴んで立たせると、有無を言わせず反転させ、抑えつけ、便器のタンクにしがみつかざるをえなくした。

「脚開いて、お尻こっち向けな」

「っ…」

甥は抵抗せず、双臀を突きだした。羞じらいはなく、ただ捨て鉢に唇を結んで、睫を伏せる。叔母は屈み込むと、指で丸みを帯びた左右の丘を掴んで割り、充血した肛門を睨んでから、寸刻を置いて大きく息を吐いた。吹き付ける温かい空気が刺激したのか、すんなりした脚がかすかにわななく。

「傷ついてない…ちょっと、出す時みたいにして。力入れて」

早口の命令に、文実也は貯水槽を抱いたまま振り返った。

「ぇっ…ぇっ…」

「いいから」

じろりと久美子がねめつけると、首を竦めて前に向き直り、言われた通りにする。褐色の蕾が開き、ぬめった内容をめくらせ、透明な汁をわずかに滴らせた。

「中も大丈夫。保証してあげる。あんたのここはきれいになってる。どっこも汚くない」

喋りながら、女は太鼓判を押すつもりでか、勢いよく尻朶を張った。すると少年は背を弓なりにしてか細く鳴いてから、ちらりと恨みがましげに省みて、またタンクにしがみつく。

「本当だよ。あーもう…」

叔母はまた未熟な双臀を捉えて広げると、ひくつく後孔に顔を近づけて、観察し、鼻をこすりつけんばかりにする。

「石鹸の匂いしかしないし…」

呟きながら、いきなり舌で窄まりを撫でる。

「変な味もしない」

大胆ないたずらに、しかし甥はいっそう覿面に応えた。さっきよりもひどく反り返り、足の親指を折り曲げて痙攣してから、崩れ落ちそうになる。幼茎は勢いよく臍の下を鼓った。

家主は目を細めて、小さな居候の新しい弱点をためすすがめつしたあと、躊躇なくかぶりついた。舌をねじこみ、粘膜を舐り、唾液を注ぎ込む。唇と唇でする接吻よりもさらに獰猛で、執拗だった。

子供の細い腰がくねって逃れようとするのを、大人の手が半ば抱え込むようにして押さえ付け、徹底して柔肉を捏ね回す。ついに年若い肢体は便座に馬乗りになるよう座り込み、しゃっくりに似た嬌声をひっきりなしに零しながら、秘具から薄い雫を飛ばすばかりになった。年嵩の方がやっと退くと、弛緩しきった菊座がだらしなく涎と腸液の混ざりものを垂れ流した。

「次からここ、独りでいじるの許さないから。いいね」

文実也が瞳孔を開かせたまま宙を仰いだまま返事をできないでいると、久美子はまた尻朶を打擲して小気味よい音を響かせ、意識を取り戻させた。

「いいね」

少年はなおも緩んだ肛門をひくつかせながら、首を縦に振る。女は喉を鳴らして唾を嚥むと、じっと相手の無防備な後ろ姿に眺め入った。

だしぬけに立ち上がると、後ろから腹のあたりに腕を回してしっかりと捉える。

「あたしの部屋来な」

「ぁ…」

「ほら」

裸身をトイレから引きはがすと、半ば抱え上げて廊下を渡り、寝室へと連れ込む。

頑なに居候の掃除を拒んできた部屋は床にダンベルだの格闘技やバイクの本だのが無秩序に散らばりっていたが、家主は器用に除けてベッドまで辿り着き、相手を端に坐らせると、戸棚を開いて探り、奇妙な玩具を取り出した。

大小の球が交互に数珠繋ぎになった棒と、潤滑油の瓶。叔母は二つの品をまとめて片掌に掴んだまま、マットレスの中央に身を投げ出し、縁でじっとしている甥を脚で挟み込んで掻き寄せる。

「こっちに体重預けて、足開いて、お尻突き出す」

文実也は、血の気の薄い顔を僅かな不安に陰らせつつも、久美子の胸を枕にし、仔鹿に似た輪郭を描く両脚を折り曲げて、濡れた後孔を露にする。

女は手にした玩具にオイルを垂らし、EL灯の淡い光にてからせると、見せつけるように少年の正面で回す。八朔に似た強い香りが鼻腔をくすぐる。

「これなら指より奥まで届くよ。さっきみたいに力入れて出すみたいにしてみ」

助言とともに連ねた珠の先端を微かに伸縮する排泄口に宛がい、ゆっくりと押し込んでいく。

「ひ…ぐ…」

「大丈夫だから。ほら、数えて、ひとおつ、ふたあつ、みぃっつ」

「ひっ…ひっ…ひぎ…っ」

「だめ、締めるんじゃなくて出すみたいにして。そう。上手」

玩具は前後を繰り返しながら次第に直腸の中深くへ進んでいく。耐えきれず脚をばたつかせそうになる甥の膝の下に、叔母が掬い上げるようにして腕を入れ、赤ん坊に用を足させるような姿勢で固定し、あやしたり褒めたりしながらとうとう根元まで挿してしまう。

「やっつ、ここのつ、とお。すごいじゃん。全部入っちゃった」

「あ゙っ…っ…や…らぁ…ぬひ…て」

「本当にものが入ってる感じ。覚えて。気持ちよくしてあげるから」

しなやかな指が、奇妙な棒の柄にある目盛りを零から一に入れた。蜂の羽音に似た唸りとともに大小の玉がくねり始めると、文実也は顎を上げ、狭い肩を竦ませ、両の瞳を限界まで開き、舌を突き出す。

「ぉ゙ぼぉ゙お゙お゙お゙お゙っ!!!!!!!!!!!!」

声変わり前の喉から抑えの利かない叫びが溢れた。

「ちょっと声大きいって、ああもう」

久美子は猿轡代わりに接吻で唇を塞ぐと、一気に目盛りを最大まで押し上げる。同時に、暴れもがこうとする稚い四肢をしっかりと抱え込み、尻穴を穿る機械から逃れる術を封じて、全てを受け止めさせる。臓腑を蠕動させ掻き回す感覚に、片生かたなり の躰が射精なしで限界に達するのを察すると、素早く手に持つ柄をひねって、前立腺を圧した。

少年は水から揚がった若魚の如く悶え狂ったが、固く巻き付いた腕を振り解こうとして果たせず、ただ続けざまに気をやる。終には瞳孔の開ききった双眸を半転させて白眼を晒すと、壊れた人形めいて脱力し、たわわな胸と引き締まった胴にもたれかかった。ようやく接吻の口封じが外れると、唇が新鮮な空気を求めて大きく開き、喃語と化した呟きが漏れる。

「やらぁ…ぬひ…てぇ…くみ…こさ…」

「はいはい。じゃ、行くよ。ひとぉつ、ふたぁつ、みぃっつ」

女は電源を切って、ゆっくりと玩具を引き抜き始めた。大小の球がまろび出るごとに、肛門が膨らみ、粘膜を捲らせ、腸液とオイルの香り高い混ざり物を泡として噴き溢す。

「ぁ゙ーっ…ぁ゙ーっ」

「やぁっつ…ここのつ」

人語の態を成さなくなった嬌声を伴奏に、しなやかな手が最後の一つを残してアナルビーズを引き抜くと、しかし急に今度は捻り込むようにして押し戻し、目盛りを再び最強にする。

矮躯が腕の中で弓なりになり、硬直と痙攣を交互に繰り返す。無毛の肌は濡れててらてらと輝き、真丸になった目の縁から熱く透明な滴がふっくらした頬を伝い、細い顎あらもとめどなく涎が垂れたが、もはやひくつく喉は悲鳴を枯れ果てさせて、ただ尖った舌ばかりが天を指して震えていた。

「また全部入っちゃったね。フミヤのここ。気持ちいいよね。余計な事考えられないようにしてあげる。フミヤの代わりにあたしが奥まで綺麗にして、気持ちよくしてあげる。毎日でも」

叔母は、いとけない容貌を丁寧にねぶって清めてやりながら、執拗に後孔を抉る。甥は、射精の伴わない絶頂に幾度となく達し、硝子玉の如く虚ろに澄んだ瞳を彷徨わせながら、酸欠になったように唇を喘がせた。

未熟な性感にかかる限度を超えた過負荷に失神しかける都度、新たな官能の波が意識を引き戻し、否応なく体内を穿り揺する回転と蠕動とに直面させる。いつ終わるともない快楽に浸りながら、少年は声もなく噎んだ。

女が立ち昇らせる汗の匂いに混じって、濃い柑橘の薫りが辺りを包む。夜更けたマンションの一室は、まるで熱帯の密林と化したかのように、ただ湿度と温度とを増していった。


明け方、消耗しきって意識が滑り落ちていった先の夢は、いつもと少し変わっていた。ベッドに仰臥した文実也が、圧し掛かってくる影の面相を検めると、久美子の整った縹緻がある。たちまち心の隅にあった僅かな蟠りが溶け消えた。

逞しい背に腕を回して、両足を大きく開き、模造の男性器が排泄口を貫く好ましい痛みと苦しさに耐え、鎖骨の辺りを噛む荒々しい口づけをも恍惚と受け入れる。

“…好き…好きっ”

樹脂の剛直を食い締め、筋肉質の胴にしがみつきながら、愚かしく告白した。するとすぐに大きな掌が頭を撫でて来る。

“いい子ですね…フミヤ”

声は低く、重く響いた。酔い痴れるほどにきついマンダリンの匂いに、息苦しさを覚えてもう一度相手の顔をうかがう。いつの間にか見知った顔はぼやけ、またも浅黒く、はっきりしない容貌が現れていた。

“後ほんの少しの辛抱です”

背筋を貫く歓喜にベッドから半ば浮き上がるようにして反り返りながら、口は無意識に誰かを呼んでいた。必死に。助けを請うように。


少年は睡みから醒めると、下半身を内側から満たす圧迫感に身動ぎした。しかし頭を巡らせようとすると、すぐに柔らかい胸の谷間に押しつけられる。

「まだこうしてなよ…」

女は眠たげな呟きとともに、掻き抱いた頭を撫でて大人しくさせようとする。

いつもの香水が薫って、家主のしっかりした抱擁に収まっているのを感じると、居候はほっとしてまた瞼を閉ざした。二人をつなぐものを確かめるように、拡がった括約筋で張り型を締め付けると、安堵が温かな波となって四肢に広がった。厚い毛布のような眠けが覆い被さって、手足の力が抜ける。

再び寝付こうとする刹那、三日月に唇を歪めて嗤う黒い影が一瞬だけ脳裏を掠めたが、はっきりと姿を捉える前に、折り重なった精神の襞のいずこかへ滑り込み、隠れてしまった。

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