Nine nights of the elven slave Vol.2

日はまだ沈まぬとも、世界は夜を迎えていた。明けぬ夜を。

黒門のそばで狼が吠える。

影の国のどんな狼より大きな狼。

狼の王。

かつて緑の森随一の狩人であったダリューテには解った。

眼前にいる存在がどれほど危険であるかが。

外の地に解き放てば、あらゆる命を餌食とするだろう。四つ足のもの二つ足のもの、翼あるもの、鱗あるもの、泳ぐもの、這うもの、駆けるもの。いや静かに生え伸びる草木さえも逃れられぬやも。

矢弾も刀槍も止められまい。上エルフの騎士団が心を一つにして放つ最強の呪文さえも、あるいは通じぬやも知れず。 西の果ての光の諸王であれば、偉大な精霊であれば止められるだろうか。 本当にそうか。世の滅びを告げるが如き牙のあぎとは、討たんとした神々さえも引き裂くのではないか。

だからこそ、力及ばぬとても光の軍将として仕留めねばならぬ敵であった。

だというのに。 もう一撃とて加えられない。雷も炎も氷も風も。毛皮にかすり傷さえつけられない。 呪文をつむごうとする唇が震える。

“あの子を守ってくれ”

憎むべき男の遺言が脳裏をかすめる。

「お前が…お前が生きてさえいれば…」

無理な話だった。定命のものの時は短い。瞬くうちに現れ、消えてゆく。 なのに不死のものの頬に、心に傷をつけてゆく。癒せぬ傷を。

「だりゅーで…ざ…にげ…」

怪物となってなお愛するものを案ずる子。

人間の情熱と妖精の思慮を併せ持ち、優しく穏やかに幸せに生きるはずだった。 獰猛で残忍な戦士としか生きられなかった父が、あらゆる争いから遠ざけようとした宝。

しかし親が子のために捨てようとした復讐を、世継ぎはまた選び取り、呪いさえ望んで受け継いだ。 奴隷さえも。新たな主人として。そうして同じ過ちを繰り返した。

誰のせいか。誰のためか。

「私が…お前を…」

止めなければいけないのに。

「にげ…で…」

限界だった。終末の魔獣は世界に放たれる。 光の諸王が止められるにせよ、止められぬにせよ、西方諸国は滅び、人間も妖精も小人も悉く死ぬ。

呪われた光の軍将にはもう息の根を止めることができない。

だが。 呪われた身なれば呪われたるがこそ打てる手もある。

「…来るがよい…お前の好物…淫らな奴隷の肉だ…」

下腹に刻まれた魔法の紋様を燃やして、乳首と秘裂を貫く輪飾りをつまんでひっぱりながら、舌を伸ばして媚びる。

よく躾の行き届いた奴隷として、主人を誘う。

魔狼が唸り、頭を下げ、鼻を蠢かせ、二本足の雌の股に捻じ込む。短剣ほどもある牙が閃き、腥(なまぐさ)い息がかかると、すぐ失禁してしまう。

「ぁ…ぅっ…ぁっ」

長く広い舌がぴしゃぴしゃとうまそうに尿を舐め取る。効いた。

「ふっ…ふっ…ふっ…よい子だ…好きなだけ貪るといい…いつものように…いいや…いつものように気遣わなくてよい…私を食らい尽くせ…世界の代わりに」

開いた両腿の間で、温かく濡れたびろうどのような感触がのたくり、紅蕾を貫く忌まわしい呪具を転がし、疼きとともに寒けに似た快さをもたらす。

「んっ…」

そっと掌で獣の頭を押しのけると、四つん這いになって、雌狼になったつもりで双臀をくねらせる。尻尾があれば千切れるほど振っていただろう。すぐに大ワーグはのしかかってきた。人間とは形の異なる剛直が過たず膣を穿ってくる。

「かはっ…ぁっ♪」

奥の奥まで届く。命の揺り籠を閉ざす門を乱暴に敲く。

「ひっ…ひっ…」

獣の鉤爪が背に食い込み、柔肌を引き裂く。

「ぎいぃいっ♪」

愛するものが与える一切を、苦しみや痛みさえ悦びに変える魔法が、深傷を無上の快楽へと変じさせる。

父親が決してしなかった獰悪さで息子は奴隷を蹂躙した。魔狼の逸物としても魁偉な疣だらけの器官が、容赦なく産道を広げ、先代のために整っていた形を当代にふさわしくまた変えてしまう。

「ぐぅ…っひぉおおっ♪」

異形の陽根の元が膨らみ、瘤になって抜けないよう陰唇をいっぱいに広げて塞ぐ。

「がう…んっ…ひっ…しゅご…ぉっ…♪」

背から血を流しても、胎をいたぶられても湧き上がる、とめどもない官能は、はたして救いなのか。下腹で魔法の紋様が燃え、燎原の火の如く滑らかな素肌に占める面積を増してゆく。

毛むくじゃらの脚の間に同じような文様を宿した獣は、つながったままくるりと後ろを向くと、巨根をひねらせてまた乙女の身の内を抉り、えずきをこぼさせる。

「おご…ぉっ」

雄と雌は互いの尻をすりつけあった格好のまま、ダリューテは四つん這いになって背を弓なりにし、伴侶が注ぐ欲望を下腹に蓄え始める。

「ぅぐ…っ…くぅんっ♪」

命の揺り籠を内側から満たしていく粘った精の重さをこらえ、四つん這いになったまま、三児を産みいっそうたわわに実った乳房をゆすり、先端の飾りを煌めかせては、精一杯媚びたしぐさで腰をくねらせる。

魔狼は吼え、全身を震わせる。漣となって伝わった振動が妖精をまた達させる。

「ひっ…ぁっ…」

蹂躙は終わらない。黒い獣はまた白いたおやめに覆いかぶさるような恰好になり四肢をいっそう長く伸ばし、枝分かれさせる。上背はますます高くなり、鉤爪の変わりに蹄が地面を掻く。

影の国の野を駆ける夜馬。だが並の雄の倍の大きさがあり、八本の肢を持つ。異形の主ののたうつ鬣(たてがみ)が逞しい横腹を伝ってエルフの奴隷を縛りつけ、固定する。

いななきとともに魁偉な駿駒は疾駆し、蔦のように伸び絡まる髪で胴につないだままのつがいを突き上げる。

「かはぁっ!!あぐ…ぅう!!」

えずきながら、しかしダリューテはまた絶頂に達した。腹に燃える模様がいよいよ輝きを増す。

狂える伴侶はまたかたちを変える。手も足もない索(つな)のごとき長々とした蛇身に。煌めく黒い鱗が、純白の肌をなぞり、締め上げ、こすり立てる。骨が軋み筋が裂けそうな抱擁。だが魔法がすべてを悦びに変えてしまう。あるいは魔法以上の何かが。

「あ…ぅ…んっ…」

長虫の頭がまるで接吻するように唇に触れそのまま口腔に潜り込み、喉奥にさらに食道へと降りてゆく。

「…っ!!!」

尾は逆に菊座を貫き、腸(はらわた)を押し広げて登ってゆく。体内で頭が尾を噛み、いびつな円環を作る。

体内の粘膜すべてを鱗がかすめてゆく感触に、生贄は硬直し、痙攣し、また失禁しながらも官能の涯(はて)に昇り詰める。

もはや、たとえ四肢をもがれ臓腑を食い破られようと幸多く感じるに違いなかった。

輪をなす蛇は闇となって溶け、やっと人型に戻る。ただし小山のような雄躯を持つ鬼、トロルへと。

「ふぅ…ふぅっ…」

乙女は歯を噛み締め、ひとたびは武人たりし身にはふさわしからぬような無様な涙と涎と洟(はな)をこぼしながらも、怪物の冗談のような剛直の尖端が、すでにぼってりと爛れた秘裂に当たるのを見下ろし、身構えた。

次の一撃は骨も砕けるかに思えた。ダリューテは森にいた頃に扱い慣れていた弓の如くのけぞり、腹を膨らませる太幹を根元まで受け入れた。

巨鬼は玩具の人形のように妖精を抱き潰しながら、遠慮など欠片もない激しさで抽送を繰り返す。

「ひぐぅ…んっ…ぐ…傷よ…痛みよ…光もて…」

呼吸さえままならぬなかで辛うじて癒しの呪文をつむぎ、さらなる凌辱に備える。

予期していた通りまた変化が起こる。たちまち巌の如き大兵は消え、後には残忍な小鬼、ゴブリンがいた。子供程の丈しかないくせに陰茎だけは大人を凌ぐ。顔立ちは、ぞっとするほど愛くるしく可憐だった。

「ぁあっ…♪」

矮躯の主人は甲高くひっかくような笑いを迸らせ、長躯の奴隷を四つん這いにさせると、引き締まった臀肉を掌で打擲し、白い肌に真赤な痕をつけつつ、もう片手で髪を掴んで手綱のように引く。そうして激しく腰を振るのだ。

「きゃぅっ…」

狂暴な子狼の交尾に甘啼く雌の猟犬にも似て、麗しき虜囚は悍ましき看守の責苦になお媚びた声を漏らす。

いつの間にか逞しい戦鬼、オーガの雄がエルフの女を抱いていた。剣を振るうためにあるような腕が後ろからしっかりと胸にかぶさり、乳房を圧し潰すようにして側へ引き寄せる。魔狼よりもなお獣らしい匂いが立ち込める。

「だめ…だ…」

だがダリューテは初めて拒絶の言葉をこぼししつつも、今度はみずから正気を持たぬ連れ合いに接吻した。牙のあいだから伸びる舌に舌をからませ、唾液を交換する。

向きを変え、いかなる妖精や人間のますらおより広く厚い胸にしがみつき、意識が焼けつきそうな薫りを吸い込んで熱い吐息をこぼす。陰唇は蜜をこぼしながら、魁偉な逸物を求めてうごめき、やがて深々と咥え込む。

「ぁ…ぅ…」

ただそれだけでもう何度面になるか解らない恍惚の極みに、いっそう深く高い歓びと悲しみに辿り着く。

男はさらに姿を移ろわせ、ありとあらゆる鳥や獣や木となってなお女を離さなかった。いずれでもない肉蔓の束となって相手の孔という孔をうがち欲望を注ぎ込みさえした。

けれど、終わりなき快楽と苦悶に倦み果てた奴隷が、意識を失う最後の一時に見た主人の面差しは、どこまでも優しく穏やかな、青年のものだった。

「ナシール…」

守るはずだった子。いかなる時も。

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