3.
「あんな小説を書いていて解らん訳でもあるまい,木根学生,いやもう学生ではなかったな…では,学生服もいらん訳だ」
少年は激しく抵抗した.小説を書いていようがいまいが,不当な扱いに納得する積りは無かった.だが,相手は高等部の生徒ばかりで,しかもやたらと手馴れている.見る見るベルトが引き抜かれ,ボタンが外され,シャツを剥がれ,一糸纏わぬ姿にされてしまう.委員長は一寸眼前の光景を凝視し,ねっとりと独りごちた.
「いい格好だな.それに綺麗な肌だ.やはり推薦入学の話を持っていって正解だった」
「もう,委員長ったらおやじですよ.私だって入学式の時から目をつけてたんですから」
「一昨年,架空小の運動会で発掘したのはあたしですよ」
意味不明な会話が囁かれる.一昨年の運動会?そういえば,5年生の頃,運動会に架空の生徒がビデオカメラ持参で来ていた気が.近所だったし彼等の弟や妹の撮影だろうと想ったのだが,もしかして違うのだろうか.
「こらこら,早い遅いの話なら私は彼の低学年の時の文集を読んで居る.遠足の時の写真だって裏ルートから…とかく私は学園の繁栄のために優秀な生徒を集めて来たのだ…」
「出た,委員長の18番.年下漁りの自己正当化」
「木根,君はその私の期待を裏切って,こんな淫らしい男の子に成長してしまった.君を見守る母にも等しい私を悲しませた罪は重い」
好き勝手な言い分に,きっと少年は視線を上げて委員長を睨みつけた.
「あなたのは,権力を嵩に来たストーカー行為だ!退学になった以上,僕はこのことをマスコミに公表してやる!離せ」
委員長は真青になってよろめいた.他の生徒達も気まずそうに顔を見合わせる.露骨に傷ついた表情で後退る彼女に,鋭い言葉を投げた方も少し後悔した.
「いや兎に角,こういう馬鹿な真似は小説の中だけで充分です…その,委員長に目を懸けて貰えたとしたら嬉しいですし,学園に入れたのも…ですが…」
「黙れ」
ぱん,と音を立てて彼の頬が張られる.委員長はギラギラした目で小さな下級生をねめつけると,隣に命じた.
「浣腸器を持って来い.最新型の奴だ」
女子生徒の一人が待ってましたとばかり飛び上がって準備室の方へ向う.浣腸器というものを調べた事のある木根少年は,肌に粟をふいて抗議した.
「や,やめてください.素人が面白半分に使うのは危険なんですよ!」
「我々は素人ではない.学生運動を取り締まっていた頃から伝統的な尋問道具として,体験,使用ともに熟練している」