23.
贅をこらしたホテルの寝室.仄昏い明りの下,褐色の膚をした少年が,仰向けのままベッドに縛り付けられていた.大きく割り裂かれた両脚の間には,二人の娼婦が顔を埋め,舌と指を使って性器を弄んでいる.だが奉仕されている方の表情には興奮の兆しもなく,ほっそりした四肢は蝋細工の様に冷たいままだ.
奇妙な光景であった.まだ初心な年頃の童児が,遊び慣れた大人の男でも気をやらずにはいられないような濃厚な愛撫を受けながら,あたかも木石の如く固まって,微動だにしない.
「ぷはっ…だめみたい.姉様,この子インポなんじゃない?」
「んっ…前立腺も,弄ったんだけど…利かねぇ…」
とうとう雌達が音を上げ,部屋の隅へ助けを求めるような視線を注いだ.壁と壁とが交差し,影が蟠る辺りに,花鳥模様の傘をつけた室内灯が置かれている.傍らには背の高い女が一人立って,腕を組んだまま,ベッドの様子を見守っていた.僅かな黄金製の装身具を除けば,一糸も纏わず,釣鐘型の乳房や,肉置き豊かな腰を惜しげもなく曝している.至極落着いた佇まい,ただ微かな苛立ちを示すように,手入れの行き届いた眉を山形に寄せていた.
「薬を追加しなさい」
「もう持って来た分,全部打ったよ…死んでもおかしくない量だぜ」
「そう…」
溜息を吐くと,女はちらっと腕の時計を見た.既に予定を大幅に遅れている.本来はもう撮影に入っている時間だった.今まで色々な男を堕として来たが,これほど頑丈な相手は初めてお目にかかる.
「…自己暗示かしら…それとも,予め鎮静剤を?」
彼女は囚われの少年に近付くと,瞳孔の奥を覗き込んだ.すると玉猿轡を嵌められた口が動き,何かを語りかける.聞き取れよう筈もないが,およそ降参とは程遠い調子だった.無駄だ,そう言ったのだろうか.漆黒の双眸は,新月の夜を思わせ,見詰めていると,深い沼の底へ引きずり込まれていくような錯覚に囚われる.
気の遠くなるような長い苦難の末,凝り,塊り,結晶した,感情の化石.どれほどの怒り,憎しみ,悲しみが,瞳に斯様な色を醸すのだろうか.余りにも多くを喪い,しかも尚,絶望に呑まれなかった者だけが持つ,凍てついた魂の色だった.
淫毒に満ちた娼婦の手管を持ってしても,聖職者の心臓を守る,理性の氷を溶かすは能わなかった.彼にとって肉の歓楽など酒や麻薬と同じ,不信心者が罪を忘れるために溺れる虚偽に過ぎず,何の誘惑も感じなかったのだ.