22.
丁度,少女二人はインシュマーを挟み込むように,等距離を取っていた.どちらの芳香も彼にしか届かない訳だ.膝を就く獲物を前に,女の瞳が凶暴な光に煌めく.
「薬にも慣れてお出でとか?どの位まで耐えられるかとても楽しみですわ」
「期待には沿えんな…」
前屈みになって,手を附きながら呟く.音で女が機械を取り出すのが解る.レンズの回転音.ビデオカメラか.
「ご安心を.百歳のご老人でも元気にする薬を用意しております.代りに理性の方は保証しかねますが.さて,まずはご尊顔を拝させて頂きましょう.秋音,夏樹,離れて」
しなやかな指が覆布に触れ,いとも容易く取り去っていく.罠に嵌った聖職者は,全身の毛穴から汗を噴出し,ぐらつく関節を意志だけで支えながら,ただされるがままになっていた.
はっと息を呑む音.四人がこもごもに驚きを漏らす.
「姉さま…これ…」
「か,影武者…?」
覆布から表れたのは,まだ年若い少年の顔だった.褐色の肌が引き攣り,笑みとも,嘆きとも,怒りともつかないものを形作る.
「違う…私がインシュマーだ…しかし,君達はインシュマーを葬ることは出来ぬ」