14.
銀の砂嵐が走り,過去は幻となって甦る.水鏡のように澄んだ液晶の面で,微細な素子が瞬き,災いと邪悪の化身を影像に結ぶ.
テロリスト.世界の敵.あらゆる秩序の破壊者.ターバンを巻いた殺し屋が,録画装置越しに,不遜な態度で観客を睨みつける.銃で無差別に人を撃ち,平和な日常を爆弾で破壊する,狂信しか知らぬ醜い化け物.誰からも忌み嫌われる者達は,どうして尚も存在しつづけるのか.
正義の担い手たる国々は果断な決意をもって,叛徒の故郷を叩き,一族を屠り,領土を焼き払った.曠野は擂鉢型の爆発孔に覆われ,隠れていた連中の肉片すら残っていないが,山脈の洞窟には,毒ガスに巻かれ聖典だけを抱いて死んだ若者の,枯木のような骸が転がっている.およそ地上の争いとは縁遠い筈の,大海原の底にさえ,殺し屋共の船が沈んでいる.
しかし彼等は蛆虫のようにしぶとかった.駆除しても駆除しても,その屍から次の世代が湧き出て,抵抗の叫びを放つのだった.狩りに赴く特殊部隊がどれほど勇敢でも,天を駆ける爆撃機が如何に強力でも,人々の心に棲む闇だけは討てなかった.
今一人のテロリスト,いや正確には,テロルのファトワを放つ一人の聖職者が画面の前に立ち,燻る石炭のような瞳を,瞬きもせずカメラに注いでいる.身長は成人男性の半分しかなく,顔はターバンと覆布にすっぽりと覆われていた.内なる狂気に相応しい畸形の外見である.
不意にカメラの前へ,ずいとマイクが突き出された.インタビュアーという正常な世界の代表者が,異常な犯罪者に向って質問を投げるシーンだ.
「インシュマーさん…貴方がたが無差別に人を殺すのは,神の意志に従っているからだそうですが」
「貴方がた,とは誰かね」
声は嗄れ,冥府の底から聞こえてくるようだ.だが明瞭な日本語である.
「貴方が自爆を命じたテロリスト達です」
「私は命じていない.彼等の決意が主の教えに背きはしない,と証しただけだ.それに,あれは無差別ではない」
「ご自身に責任はないと?」
「私は主に対して責任を負う.そして教えに従う者全てに」
「殺された合衆国の人々には?」
「彼等が正しき教えに従うのなら,責任を負うだろう」
謎めいた喋り方.はぐらかすような言い回し.宗教は人殺しを誤魔化す隠れ蓑なのだ.インタビュアーは鼻白みながら,怒りを押し殺して先を続ける.
「どうして自分の教えの正しさに,そこまで自信が?同じチェアラム教の聖職者の大半は,貴方を批判しているそうですが.無辜の市民を殺戮し,平和を破壊するのは教えに背くと」