13.

「意味なんて無いわ.でも良く通る声.ああしてテロリスト達を興奮させるのよ」

「まだ喋ってるね」

「ええ,訳しましょうか.また,正義を叫びながら影で武器と麻薬を商う者,慈愛と平和を求めながらバビロンの不義に目を背ける者に禍あれ.而して,病人,老人,子供,貧者,虐げられた人の助けを耳にしながら,恰も聾の如く振舞う者よ.恥じよ」

「何だか偉そ…」

「そうよ.しかも本気で言っている…自分には一片の罪も無いと信じてるのね.人殺しの癖に」

 女主人はまた画面を一時停止した.奴隷達はすっかり醒めた様子で画面を見詰めている.

「で,このお爺さんが,ある日若くて可愛い奴隷達とセックスに明け暮れている映像が世界中に流れたらどうなるかしら?」

「皆目を覚ますね.色呆け爺さんの世迷い言に付き合わされて平和を乱したんだって」

「でもあたし,あんな汚い所行くの嫌ー.砂だらけになっちゃう」

「心配ご無用よ.あのお爺さんは今,訪日中だから.日本のメディアが特ダネ欲しさにこっそりと招いたらしくて.良い機会だからと,心有る人が,私のような女を呼んで仕事を頼んだのよ」

 秋音は相変らず気が乗らなそうに姉を見上げた.だが夏樹は久し振りの撮影に張り切っているようだ.春香がふと内扉の向うへ目を遣ると,冬人が正座してテレビを眺めている.末弟も数の内なので,追い払う訳にもいかない.

「急だけど,来週の金曜日に撮影のセッティングをしてあるの.勿論このお爺さんは何も知らないけどね.皆,頑張れる?」

「姉さまがやれっていうなら何でもするわ」

「俺も」

 女主人は期待と不安を押し隠して冬人を見る.この子は嫌だといえばいい,連れて行かずに済む,そう願っているようだ.

「僕も,ご主人様に従います.お供させて下さい」

 いつもは家族の中で一番臆病なのに,今の台詞は良く通る.あのテロリスト達と同じ,狂信に満ちた声だ.仕込んだのは彼女自身だったにも係らず,知らず戦慄が走る.滑った手がリモコンを取り落とすと,画面が再び動き出し,重々しい輪唱が鳴り響く.詩句はこんな風だった.

"憤怒も 憎悪もなく
 信仰ゆえに
 同胞の侮りや蔑みにも耐えよう
 主だけが 苦しむ子等に救いを下さる
 世を統べるのは現代のファラオでも
 バビロンの諸王達でもないのだから
 私達は主のみを信じる
 主に従えば
 真の平等と平安は必ず訪れるだろう
 御心のままに"

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