10.
言葉と行動は裏腹だった.何処にもやるまい,決して死なせまいとするように,しっかりと抱き締め,能う限り多くの面積で触れようとする.
「でも私はお前の主人.不本意ながらね.私を呼びなさい」
「ご…主人さ…んむっ…ぅぐ…」
狂ったように接吻を重ねて,酸素を肺に満たす余裕すら与えない.前立腺を押し,陰茎の皮を剥きながら,両肩の噛み跡をさらに深く抉る.
「うぁあっ!あっぐぅ…」
「けなげだこと…お前はきっと影では嘲ってるでしょうね.玄関を開けて,出迎えたを受けた時,私が真っ先にお前の顔を見て,緩んだ表情をしたからって…」
いっぱしの男なら,心外だと遮った処だろう.あるいは自意識過剰だ,と反駁したかもしれない.だが少年にとっては,家族の誰よりも成熟し,思慮深く,落着いた姉が,子供じみた八当たりをするとなど,想像するのすら迂遠だった.
春香は冬人の胸に舌を這わせ,所有の証でもあるようにキスマークを刻んでいく.
「お前に会いたくて帰って来たとでも?さぞや,容姿や心根に自信があるんでしょう…笑って御覧なさいな.もう一度,夏樹や秋音が一緒に居た時のように…私を誑かそうとして御覧なさい」
涙で濡れた顔が,苦労して歪な笑顔を作る.先ほど見せた心からの歓喜とはまるで違う.だが,それすら彼女の癇に障った.
「馬鹿にして」
頬を張る.掌に残る痺が快い.
「どうして,私が取り乱さなくてはいけないの」
弟を床に投捨て,額に手を当てる.違う,彼女は独りごちた.今夜は皆に大切な話があるのに,帰宅早々戸口に突っ立て冬人を嬲っていてはいけない.唇を噛み,痛みで我を取り戻す.この子と二人だけになったのが間違いだった.久し振りでガードが下がっていた.
「ご主人…様」
「黙りなさい.黙って…其処に座ってなさい.居間には入らないで」
「はい…」
そうだ,それでいい.一瞥も呉れずに内扉を潜る.床暖房で温まった部屋に,春香は却って不快を感じたようだった.何時の間にか象牙の膚はびっしょりと汗を掻いている.
明るい部屋の真中,ソファには夏樹が座り,膝には秋音が乗って,兄の胸から飽かず母乳を楽しんでいた.
「飲んだ分のミルク全部出してね.足りなければまたお尻から挿れて上げる♪」
「もっと乳首吸って,噛んで,食い千切って!俺秋音の牝牛だから,秋音に壊して欲しい…」
「うん,あたしもお兄ちゃんの仔牛になりたいよ.お兄ちゃん印の母乳ずっと飲んでたいよ」
「秋音…秋音ぇっ…」