9.
恥かしさで消えてしまいたくなるが,しかし抑えようとしても目尻から熱が去らない.すると手入れの行き届いた片眉が上がって,不興を示した.
「何か喋ったら?そんなに私が怖い?」
「ぁ…すみま…せん…」
「気の良い夏樹と秋音に甘やかされて王子様気取り?お前の立場は解っているでしょうに」
少年は靴脱ぎ場に降りて,編上げ靴の上に蹲ると,歯を使って器用に紐を解いて行く.突き刺すような視線を裸の背に受けて,時折小さな肩がびくりと震える.何とか紐が解けると,穢れた靴先を噛んで,姉の脚から引き抜く.春香は,自由になった脚でふっくらした弟の尻を踏み台にし,悠々とストッキングを脱ぐと,今度は指の股を広げて命じた.
「お舐めなさいな」
答えの代りに,冬人の舌が伸びて,ぎこちなく奉仕する.姉は親指と人差し指で,口腔を描き回すように動かし,依然冷徹な面持ちを保っていた.
「仕事を貰えるだけ有難いと思いなさい」
「ふ…ぐぅっ…んっ…」
「少しも嬉しそうな顔をしないのね.いつもそう.何をされても僕は仕方なく耐えています,と言わんばかり.誰も頼んでいないわ.嫌ならこの家から出て行きなさい」
涙の量が増す.しかし舌は止まらない.彼は懸命だった.自分が陰気で,姉にどれほど嫌われているとしても,捨てられるのが恐ろしかった.
徐々に春香の怒気が増してくる.
「此の世に,お前より不幸な子なんて掃いて捨てる程います.見ているこっちが恥かしくなるような嘆き方はお止め.夏樹や秋音は騙せても私には通じなくてよ」
「ふっ…ん…ねろ…んちゅっ…」
「泣くほど嫌なら,しなくて良いと言ってるの.どうしてお前には解らないのかしら」
氷のような声音は幽かに上擦り,震えてさえいた.だが,全身全霊で奉仕を続ける少年にはとても聞き取れない.
「解らないふりをしてるの?それがどれほど男や女を誘うのか」
髪を掴んで無理矢理引き摺り上げ,頭から貪り喰ってやろうかという勢いで,唇を奪う.片手は前に,もう片手は後ろに回して,性の技巧の限りを尽して弄ってやる.
この長女に掛かると,感じ易い末弟は数秒と持たず嬌声を迸らせてしまう.その声だけで,平静だった筈の肢体は内側からじっとりと湿ってしまう.擦れる肌が高圧電流のような衝撃を齎した.奴隷と主人の関係には最悪の相性.互いが側にいるだけで頭がおかしくなるほど快い.
「私は,お前が大嫌いよ冬人.全部が嫌いなの.お前の顔を見る位なら他の二人を置いて家を捨ててしまいたくなるわ…どうして出て行かないの.淋しいのならいっそ自殺しなさいな」