7.
「勉強なんて明日か明後日にしよ?ね?」
「だ,だめです.秋音様が飽きたのなら,僕,独りで頑張りますから…」
「勉強は独りでできるけど,遊ぶのは独りじゃ楽しくないんだよ?ねぇねぇいいでしょ冬人」
「ふぇ…さっき一杯遊びましたよ」
「夏樹お兄ちゃんが居たじゃない.二人っきりだったら,もっと凄いこと出来たんだよ…」
「んだとこら」
牛乳パックを片手に,バスタオルで頭を拭きながら夏樹が戻ってくる.相変らず大きな真中で尖った乳首がつんと天を向いている.ゆらゆらと揺れる銀の輪は蒸気で曇っているが,錆を気にした様子は無い.失言とばかり口に手を宛てる秋音の下から,冬人が恐る恐る這い出す.
夏樹はどかっとソファに腰を降ろすと,牛乳を一口飲んで唇を舐めた.
「冬人,勉強なんて良いからこっち来いよ?」
末弟はげっそりとした面持ちで頭を振った.兄も姉も余り変わらない.この二人は勉強しなくても成績が良く,週末に学校の授業内容の予復習をする必要など認めないのだった.
困って逃げ道を探す少年を,再び少女が玩具にしてやろうとした時,ドアホンが鳴った.続けて二度,間を空けてもう一度.
夏樹がぱっと席を離れ,秋音ももう弟に興味など無くして顔を上げ,冬人は目を輝かせて跳ね起きた.三人が一斉に玄関へ駆けて行くと,並んで押し合いへし合い,膝立ちのまま来訪者を待った.
把手が周り,寒風と共に黒いエナメルのロングコートが入ってくる.来訪者は後手に扉を閉めると,帽子をとって兄妹達に微笑みかけた.
「ただいま,私の奴隷達」
「「「お帰りなさいご主人様!!」」」
活きの良い返事に目を細め,来訪者はコートのジッパーを降ろす.左右の合わせ目から,血管の透けるような青白い肌が,ぼぅっと蛍光灯の光に淡く映えた.釣鐘型の乳房,砂時計のような胴,鍛錬によって上方に筋肉のついた腰が,余す処なく露になっていく.
若々しく張の在る姿形には,しかし病と死を暗示するような不吉さも漂っていた.夏樹と同じく乳首の先には太輪を嵌めているが,材質は黄金で,細い鎖と連なって大粒の紫水晶が揺れている.耳飾や,臍にも同じ石が嵌めこまれているのみならず,綺麗に剃り上げられた股間の,大き目の陰核にも竜胆の色が煌めいていた.さらに秘裂の襞には,左右に四個づつ,金の輪が通してある.
青磁の肌膚に,山吹色と紫紺という奇抜な組み合わせだが,美しい装いだった.はっきりと,跪く奴隷達との格の違いが伝わってくる.真っ先に我に返った秋音は,コートを脱がせて片付けに走ろうとした.女性は少女を片手で抱き上げると,両頬に接吻して,絹糸のような髪から匂いを嗅いだ.