3.

 歯をかちかち鳴らしながら,しなやかな女戦士の肢体が襲撃に備え,撓む.すると嘲罵に応えるように,頭上を通る通風管の中で,何かが重く這いずる音を立て始めた.少年兵の華奢な掌が懐中電灯を掴んで,通風孔の格子戸へ向ける.

 そこには既に,緑色の肉の索が絡まり縺れて,ぎっちりと詰っていた.まるで詰め物をしすぎた料理みたいに,四角い通風管が円筒形に膨らんでいる.あまりの質量に外の捻子や鋲がひしり,甲高い悲鳴を上げてねじけ,外れていく様がありありと見て取れた.

「シット!どいてろJ・J」

 赤外線照準が格子戸の中心を射抜く.軍曹の肩が盛り上り,正確無比な連射で,金属の覆いごと奥にいる化け物を引き裂いた.

「ミンチにしてやるよ!」

 銃火を操る叫びには破壊の快感が滲んでいる.一方,相棒の少年は,同じく銃を構えながらも用心深い態度を崩さない.ようやく弾丸の霰が止まると,通風孔は緑色の液体をボタボタ滴らせ,潰れた肉塊で塞がれていた.勝ち誇った表情で,射撃手が銃を降ろす.

「…ケッ,バーガーキングにゃ,1山5セントでも売れねぇな…マックになら売れるか?」

「どっちにしろ生焼けは勘弁ですよ軍曹.そいつは生命力が強いんだ.エディも片付けたと思った奴に食われた,迂闊に近付いちゃいけません」

「気楽にやれよ.こいつはもうおしまいだ,見てろ」

 さらに何発かが動かない的に撃ち込まれる.レイラはにやりと唇の端を歪めて歩み寄り,熱くなった銃口の先で,滑った肉を突付いた.

「宇宙船内で使う低跳弾弾頭でも,ピンポイントに撃ち込めば弾丸同士がぶつかってこの通りだ.覚えとけ,士官採用試験にゃでねぇけどな」

 J・Jは上官の得意げな台詞を聞き流しつつ,強張った笑みを浮かべていたが,刹那,彼女の傍らで,蜂の巣になった塊が微かに蠢くのを認め,さっと顔色を翳らせると,懐中電灯を激しく横に振って離れるよう促した.

「駄目です!そいつは死んだふりをしてる!」

「はぁ?この腐ったヌードルにそんな知恵が…」

 最後まで言い終える前に,さっと緑の鞭が下士官の引き締まった脚に絡みついた.犠牲者が引金を引く前に,痛んだ通風管の継目から無数の触手が飛び出して,手を,首を,腰を,異常な速さで束縛していく.

「軍曹!!!」

 少年兵は即座に小銃を投棄て,救出に向った.化け物の動きに劣らぬ機敏さで左胸と左腰に吊った軍用短刀を抜き,竜巻の様に両手を振るって触手を切り刻んでいく.

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