3.

「ハァ…」

「年上といっぱい付き合いました.どんどんでかくなる身長を堪えて,さらにデカい彼氏を見つけるのに苦労しまくりでした」

「声が大きいですヨ」

「先生今いい所なの.それでね,あーと何処まで行ったっけ.そう雇用難の縒りにも寄って教師になって,何とか郷里に舞い戻って…」

「ちょっとちょっと,まだ一滴も飲んでないのに,何で出来上がってるんですカネー」

 苦りきった態で山田君は足を急がせる.こうなればとっとと自宅に送りつけるのが一番だ.彼女の家はここから割と近いのだ.

「そしたら!あの小さな山田透君は,こんなに成長してましたっと…相変わらず小さいけど」

「余計なお世話デス.思春期前に小さいほうが後で伸びマス」

「あ,身長は関係無いって言った癖にー.やっぱ気にしてんだ」

 真美姉,やけに絡むねと,言い返しかけた所で,不意に少年の体が宙に抱き上げられる.

「エ?」

「私の透ちゃんは小さいままでいいんだよ」

 呆然としたままの薄桃の唇を,ルージュを引いた唇が奪う.女教師は生徒に抵抗されるのが怖くて,無我夢中で舌を絡め,緊く緊く華奢な身体を抱き締める.

 清潔好きな幼馴染の口腔は薄荷の味がした.徐々に力の抜けていく筋肉を通して,早鐘を打つ心臓の音が伝わる.まぁ彼女のも似たようなものだった.目を瞑ったまま,永遠の一瞬を胸に刻み,最後の時を先延ばしにしながらゆっくりと唇を離す.

「はぁっ…」

「……ぁっ……?何デ?」

 良かった.何をされたかまだ良く解っていない.誤魔化せるかもしれない.彼女の卑怯な心がそう囁くけれど,もっと汚い心が,もっと別のことを囁く.

 透ちゃんは許してくれるよ.私の透ちゃんは.

 自分でも恥かしくなる位媚びを含んだ笑顔で,教師は教え子の双眸を覗き込む.一番星が澄んだ瞳孔に映り込んでいる.剥き出しのまま震える肩は寒さのためばかりじゃない.怖がって,戸惑って,逃げ出したがっている.

「やっぱり怖い?」

「だって,真美ネェ…あの,僕は…違ウデショ?」

「そうなんだよ」

 悲しい声になる.いつも失恋を理由にラーメンを食べる時の,声などでなく.もっと悲しい,底の底から悲しい声.少年は胸を打たれ,脅えよりも愛おしさに押され,小さな手を差伸ばし,そシャドーの溶けた目元の涕を弾く.その優しさに点け込んで,真美はまた緊く彼を抱き直した.

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