12.

 仕掛人桐生左門に討たれたのだ.少なくとも世間では皆そうと言っていたし,裏渡世の連中も異議は差し挟まなかった.密かに仕掛を頼んだ武士達の元へは,特大の化粧箱に入った子供の手足が届いた.蘭学の手法で防腐処理を施されたそれらは,美しいとさえ言えたが,慌てふためいた彼等は上役の目を引く前に焼き捨てた.

 それから.若侍達は以前にも増して尊皇だの尚武だのを怒鳴り,刀を振り回し,酒席で威張り散らしたし,屡刃傷沙汰も起き続けた.

 町人達は,体面を傷つけられた御上の容赦ない復讐に身震いしたが,相変らず陰に回っては,武士達を罵り嘲った.

 敢えて何かが変ったといえば,遊郭や色町の事情だった.日頃左門に脅えていた遣手婆達は,めっきり訪れなくなった色情狂の消息を訝りながらも,ほっと安堵に胸を撫でおろしていた.

 仕掛の仲介をする越後屋にとっても,郭から郭へと探し回る手間を省けて済むので悪い話ではなかった.最近は,何時桐生の屋敷を訪れても主に面会できるのだ.

 左門は毎日のように,茶の間で花を活けていた.淑やかな手付きで,季節の芍薬や牡丹を差し替えながら,いつも合わせにたっぷりと時間を掛ける.まるで憑物が落ちたように安らいだ表情には,何処か悟りを開いたような所があった.

「桐生様.今朝,新しいお花を届けさせましたが…」

「越後屋か,良く来たな.丁度新しい合せ方を試していた所だ.どうだ」

「芍薬の色が映えて宜しいかと,ただ,瓶口が狭くて入りきらぬのでは」

「そうか?昨夜は随分広げたつもりだったが」

 左門は意外そうに呟いて,「花瓶」の腹辺りを小突いた.びくっと表面が波打って,くぐもった嗚咽が零れる.

 手足の無い少年が,逆さにされて,後孔に花を植えられている.これが,あの怪童竹島右近のなれの果てだった.反り返った小振りの陰茎は,紅紐で縛られ,手足の切株には襞のついた錦の巾着が被せられている.肌には,瓶は唐物の花瓶から写した牡丹の花がびっしりと刺青されて,血の巡りに応じて様々に色合いを変えていた.

「約束通りの花瓶に仕上がった.礼を言うぞ越後屋」

「あたくしはほんのお手伝いだけでございます.職人共も,医師も,滅多に若くて活きの良い素材に恵まれませんので,此の度は随分腕を振ったのでしょう」

「そうか…」

 芍薬を引き抜きながら,牡丹の花弁に指の腹をつけて辿る.それだけで童児の体は痙攣し,狂ったように苦悶した.口に嵌められた猿轡は,彼から一切の言葉を奪っている.

「逝きたいか?悪いが当分はそのままだ」

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