13.

「この花瓶も,あの時舌を噛んで死ななんだ己を恨んでいるでしょうな」

「ふ,ならば舌を切り取るまでだ.金と手間を掛けた逸品をそう易々とは失えぬ」

 それに,色町にしてみれば虎を野に放たれるような心地でしょう.心の中で越後屋は付け加えた.仕掛の相手を生かしておくのは流儀に反するが,狷介な仕掛人の機嫌を取り,素行を抑えられる妙薬とあっては致し方ない.

「阿片も使ったが,感じ易さはどうだ…おまけに幾ら抱いても壊れん…これは良い物だ」

 花を全て取り去ると,ぽっかり開いた後孔に口をつける.香木と洋酒の香が馥郁と昇って,白子の鼻を擽った.甕のように酒を仕込まれ,また啜り呑まれる.これを繰り返されては如何に強固な人格でも,次第に狂気に侵されていくだろう.

 ごろごろと膨らんだ腹を鳴らしながら,少年は股間の肉芽を固く尖らせ,胴を切なげに捩る.だが開ききった瞳孔の奥で,凍った火のような殺意だけは,危うくも鋭い光を放っていた.

 傍で見守る越後屋はそれに気付き,警告を口にしようとして,白髪の剣士の瞳にも同じ冷たさが宿っているのを認めた.知っているのだ.折れぬ殺意を知って,尚それを楽しんでいる.

 彼は身震いして立ち上がると,二人を残したまま座敷を後にした.数十年の間,裏渡世を生きてきた男は,初めて侍というものに,ぞっとするような嫌悪と,恐懼を覚えていた.

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