6.
「逝け,ずっと極楽を見せていてやる」
台詞に篭る狂気は,最前,侍達を血の海に叩き込んだ竹島右近と,質を同じくしていた.暴力か性欲かの違いはあれ,濁った情念の渦が,出口を求めて騒いでいるのだ.
「それ以上はお止しくださいまし,左門様.死んでしまいます」
横合いから,恐怖に嗄れ切った声が投げ掛けられる.開いた衾にはいつのまにか,郭の遣手婆が控えていた.すると美貌の白子は,切長の瞳を弄んでいる遊女に注いだまま,一瞥もせず切り返す.
「婆,ここは江戸の吉原か?」
「あ,いえ…」
「ならば,つまらぬ注文はつけるな.」
「ですがね,あたしゃその子達の身体の心配もしなけりゃ…」
ぶつぶつと食い下がる老女に対して,左門は腰の動きを止めた.淫汁の絡んだ魔羅を,爛れた秘裂から引き抜き,のそりと立つと,上体をふらつかせながら相手ににじり寄る.
「金を受け取った時,何と言った?三日はこの郭中の者を好きにして言いと抜かしたではないか…よかろう,売女の命が心配なら,お前が代りを勤めるか?どうせ,ここの上がりで旨い物をたらふく食ってるのだ,まだ経も閉じていまい…」
「ひぇっ…」
飛んでもない薮蛇と,遣手婆は周りを見回し,用心棒にやとったやくざ者達が,いずれも情けなくも伸びきっているのに気付いて頬を引き攣らせた.
「そんな役立たず共を良く雇っておいたな…私の女陰に突っ込んで半刻と持たずに果てたぞ」
「あわわ…男衆まで抓み食いになさったんですか…」
「お前は,郭中を好きにせよ,と言ったのだ.ほら,どうした…お前も回春させてやろう」
「ご,ご勘弁下さいまし…お,表にお訪ねの方が.あたしゃぁそれを報せに上がったのでございます」
「何?…誰だ…」
「口入れの越後屋の旦那でございますよ」
その名を聞いた途端に,ふっと象牙の顔から欲情の色が消えた.
「越後屋…ちっ,こんな所にまで仕掛の話か…もういい,下がれ」
云われるより先に,老婆は消えていた.左門は面倒で堪らぬといった風に白髪を掻揚げ,枕の横に丸まった着流しを軽く肩掛ける.帯を締めるのもそこそこ廊下へ出ると,歩きながら懐の紐を後髪に結って,いい加減な髷らしきものを拵える.
すぐ玄関には向わず,隣の座敷へ入る.すると四畳の真中には,座布団が堆く詰れ,上には黒塗りの鞘に収まった大小が鎮座していた.流石にこれだけはやや丁重に手に取ると,帯の間に差して,また先へ進む.