4.

 門口には貸切の札が掛けられ,表座敷には人気が無い.だがもし敷居を跨ぎ,廊下をずっと進むと,肉と肉のぶつかり合う湿った響きが聞こえ始める.脂粉のが立ち込める室内には,灯明が点り,肌色の影がねっとりと蠢いている.外界で何が起ろうと,何人死のうと,快楽の沼底に届く謂れはない.

 黄ばんだ畳の上には,衣服を肌蹴た男が二人,白目を剥いて仰臥している.その隣では若い女が三人,素裸のまま折り重なるようにして眠っていた.恥らいだのとは無縁の,顔を覆いたくなるような浅ましさだ.

 揺らぐ灯明の元,目に付く有らゆる所に,あられも無い遊女の寝姿が浮び上がる.誰も彼もが閉じた瞼の下に黒い隈を作り,口はだらしなく大開のまま,手足を投げ出してぴくりともせぬ.ここまで来ると些か奇態だ.

 郭らしき営みや声が辛うじて残っているのは,部屋の中央だけだ.湿気った布団の上には,これまたぐったりした女郎を,場違いなほどの激しさで組み敷く客が在る.異様な長身で,無尽蔵の体力に恵まれてでも居るのか,とうに弛緩しきった肢体の後半分を抱え上げ,激しい勢いで腰を使っている.敵娼はもう,涎と獣じみた鳴き声を垂れ流すばかりで,眼には理性の片鱗すら窺えない.

 この客がまた,先の竹島右近に劣らず,変った姿をしていた.目を引くのはざんばらに振り乱した頭髪だ.雪のように白いのに,一房一房は瑞々しく,光を吸ってぼうっと真珠のように輝いている.肌の色も血管が透けて見えそうな程薄く,しかも熟れ切る前の果実のように張りがある.胸には二つ,たわわな乳房が盛上り,引き締まった腰から太い腿,すらりと伸びた脛にかけては,微妙な丸みを帯びていた.

 だが肩甲骨や背骨周りの筋肉の付き方は,まるで生きた巌だ.脇腹には龍尾の刺青が彫られ,牙を備えた頭の方は頬の上まで長々と伸びている.それだけなら洒落気のある破落戸とも想われるが,仄かな紙燭に照り映える相貌は,やけに細やかで妙な造作であった.

 男か?女か?老人か?若者か?飽かず妓女の柔肉を掘り返す股間には,野太い逸物が見え隠れしているが,動きの旅に漏らす細い吐息のなまめかしさはどうだろう.

「もっと,もっと,もっとだ…」

 うわごとの様に繰り返しながら,己が乳房を揉みしだくと,敵娼の身体を引き寄せ,凄絶な笑みと共にその胸を掴み潰す.

「ひぃいいいいっ!」

「まだ,鳴けるか…」

 嬉しげに囁くと,責め手は動きを激しくする.悶える相手の首筋に舌を這わせる姿は,陰湿な白蛇を思わせる.顔を涙と洟でぐしゃぐしゃになった女郎は,執拗な性戯に壊れかけていた.

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