3.
「止めろ!この虫けら野郎!」
びくっと,股間の辺りにいたものが後ろに下がる.意外なまでの従順さに拍子抜けして,巡査が改めて其方を眺めた.
相手はおずおずと不安そうな瞳で見返してくる.あの虫ではなかった.少女だ.虫に襲われていた方の子供だった.素裸を長い黒髪だけで隠し,痩せた四肢を小刻みに揺らしている.
怒鳴ったのを後悔して,すぐ視線を逸らした.何と言う事だろう.彼女を助けるはずの自分が,こうして囚われてしまうとは.
「すまない…」
そう呟いて,向き直ったところで,巡査は驚愕した.少女は再び彼の股間に顔を埋め,陰部に舌を這わせようとしている.
「何を!…っ…!」
困惑した警官は,少女の下半身に更に意外なものを見出して,息を呑んだ.そこから自分と同じ,いや随分小さいが形は近いものが覗いていたのだ.性の区別がはっきりしない年頃のようだとはいえ,優しげな顔付きや華奢すぎる骨格からして,すぐには同性と認め難かった.
「君は…男?…って,こら,よせ!よせったら」
小さな舌は肉具に絡みつき,易々と勃起させると,雁首の下や鈴口の周りを舐って快感を引き出していく.娼婦も顔負けの技量に,健康な若者の身体は素直に反応し,息を殺すことさえ出来ず腰を浮かしてしまう.
「やめなさい!君がやってるのは悪いことなんだ!あぁっ」
そう言いながらも,脊髄の芯を擽る快楽に負け,精を迸らせてしまう.口淫を続けていた少年は,濃く量の有る雄の汁を苦労しながら飲み干し,肉棒の周りを丁寧に清めてから離れた.
依然として怯え,不安に満ちた表情で,しかし己の幼い器官を固く反り返らせている.飯綱巡査はまた怒りに任せて罵ろうとして,止めた.相手は少しも幸せそうではなかった.
「君は…何故こんなことを…」
「大層立派な口振りだが,下は堪え性がないなぁ…坊や…」
あの,幾重にもなって響く声が,室内に響いた.ぎくっと視線を転じると,想像どおり,トレンチコートの化け物が扉の側に立っている.帽子は被っておらず,何本もの触角が髪の毛よろしく蠢き,その下で複眼が濡れた光を帯びていた.
恐怖よりも憎悪が勝って,飯綱巡査は醜い頭部を睨みつけた.
「この子に何をしたんだ!」
「下拵えよぉ.わしが真気を吸う為のな…というても無学なお前には解るまいが…」
「こいつ…!」
「精を放ったばかりの逸物を丸出しで…力んでも滑稽なだけ…なぁ阿明」