12.
扇はまだショック状態で,初めて会った外国の少年の,血の匂いのするジャケットにしがみ付いたまま離れようとしない.イルファンは蕩けそうになる脳に必死で理性を注ぎ込み,汗の匂いのする髪をくしゃくしゃっと撫でた.
「家に送ってやろう.住所も知ってる」
ぶんぶんと首が振られる.戸惑ったイルファンは,また母に向って話し掛けた.
『家に帰りたくないって』
『待伏せが怖いんでしょ.家に人がいないのね.賢い子だわ…』
『どうすれば良い?』
『そうね,ホテルに連れて行きましょう.その代り,私が手を出しても今度は止めちゃ駄目よ』
バンは街で一番大きなホテルの地下駐車場に入った.車内で着替えたパク親子は,扇を連れて部屋へ向った.黙り込んだ少年はイルファンの手を強く握ったまま,ひっつくようにしてついて行く.抵抗されないのは楽なのだが,なんとも釈然としなかった.
部屋は最上階のスイートで,それなり,といったインテリアだった.室内に入るとジヒョンは早速服を脱ぎ捨て,無抵抗の扇からズボンとシャツを剥ぎ取った.
『Let's take shower, Oogie Boogie』
キスをしながら抱き上げ,バスルームへ入る.イルファンは色々自分に言い訳しながら服を脱ぎ,母の後に続いた.切れ長の目が皮肉っぽく見返えす.
『あらイルファン,久し振りじゃない,一緒にシャワーを浴びてくれるなんて』
『Oogieは風邪を引きかけてる.母さんが無茶をしたら死んでしまう』
『大丈夫よ,男の子の身体って,意外と丈夫なんだもの,ほら』
小さく反り返った陰茎を掴んで,優しく扱いて見せながら,ジヒョンは悪戯っぽく笑う.先程の凶暴さはすっかりなりを潜めている.扇はといえば,すっかり混乱した様子で,イルファンに向って助けを求めるように手を差し伸ばしていた.その指に女の指が絡み,意地悪く少年同士を引き離しながら愛撫を続ける.
『母さん!』
『妬ける?ね,お湯を出してよ.私も冷えてきちゃうわ』
苦虫を噛み潰した表情で,イルファンが蛇口を捻る.熱い迸りを背に受けて歓声を零しつつ,ジヒョンは艶かしく身をくねらせ,扇の手足に絡みついた.
『親子で趣味は似るものね.初対面で悪いけど,全部貰うわ.どうせネット・パンク共に殺される所を救ったんだから,罰は当らないわよね』
ルージュも引いていないのに,彼女の唇は毒々しいほど赤かった.耳元に寄せ甘く吐息すれば,大抵の男はころっと落ちてしまうだろう.