2.
母語が何語なのか解らないが,敗残の妖精が一人,拙い英語で人喰い鬼の首領へ会話を試みる.だがOogie Boogieと名指されても,偉大な勝者はつれない態度だった.気の毒な弓使いは答えを貰うより先に,別の人喰鬼によって首をへし折られしまう.
稲妻のような迅さで掃討を済ませた攻撃部隊は,再び密集隊形をとると,今度は両翼を固める人間の騎士団(Human Knights)や小人の戦士団(Dwarf Warriors)へ刃を向け,浮き足立った善の各部隊を次々打ち倒し,総崩れにした.しかし,有名な悪側の英雄に出会って興奮した彼等は,逃げるどころか,何とか気を惹こうと交渉の合図を送ったり,勝てもしない一騎打ちを挑んでは,かなり満足そうに死亡していく.
破壊の嵐が過ぎ,あらかた趨勢が決すると,装備品漁りの雑兵や,厭らしい虐め屋共が戦場を侵し始めた.Oogie Boogie達人喰鬼部隊の周りで,敵の屍から貴重な鎧や剣を剥ぐ者,深手を負った相手を見つけては善悪も関係無しに殺して回る者,呪文や技の練習を始める者がひきも切らさない.最近参加者が増えて過熱気味の戦闘の中,下品な連中もとみに増えたようだ.
とまれ,悪の陣営が勝利を得たのは久振りで,生き残りの間には陽気な会話が華咲いた.肌も露な黒妖精の戦士(Dark Elf Warrior)と人間の堕落僧侶(Human Corrupt priest)が甲冑の騎士の屍に腰掛け,週末の予定について談笑するかと思えば,傍らでは小鬼の盗賊(Goblin Thief)が数匹,ほぼ無傷で死んだ善の女司祭(Human Priestess)を玩具にしている.
多くの者が,主役となったOogie Boogieに言葉を掛けたくてうずうずしていたのだが,伝説的な人喰鬼の首領が殆ど歓談には応じないと聞いていたので,仕方なく遠慮していた.案の定Oogieは,戦闘が終ってしまうと誰とも口を利かず,退屈そうに座り込んでいた.やがてふと顔を上げた彼は,一角でまだ争いが続いているのを認め,配下を待機に設定したまま単独で其方へ向った.
黒妖精の一部隊が,人間の騎士二人を取り囲んで罵声を浴びせ掛けている.善の残党を捕え,敢えて遠巻きにしながら,裏街道筋特有の俗語で卑猥な侮辱を浴びせかけている.耐えられなくなった敵が自ら魂を断つのを待っているらしい.世界の理に従うなら,戦場での自決は不名誉な行為で,魂の転生にも大きな影響を齎す事になる.極めて
なぶりものにされている騎士はどちらも白銀縅の鎧をつけ,両手持ちの長剣を手に背を合わせている.得物は使い捨てではない,どうやら連勝続きの自軍の勢いを過信して,秘蔵の品々を持ち込んだのだろう.死ぬのは大きな損失に違いない.中々落ちない.そうと解っていて黒妖精達も余計囃し立てている.