Jade in Sand Vol.3

 結末から先に言えば,翡翠の都は灰燼に帰した.土地に生まれた者は,エルフも,鳥も,獣も,いや虫1匹,草木1本さえ残らなかった.付け加えるなら,誰も楽な死に方はせず,絶望と苦痛にのた打ち回り,最後まで終局を受け入れられないままだった.

 あるいはもっと強力な守備隊さえ居れば,救いの無い筋書を変えられただろうか.答えは否である.翡翠の都は桃源郷ではなく,沙漠化と緑化という2つの作用がぶつかりあう生命の前哨基地だったからだ.

 其処では,殺戮と破壊を生業にするだけの専業戦士団を雇う余裕など無かった.オアシスエルフが"安全を守って貰う"為に,野良仕事にも,灌漑作業にも役立たない大量の穀潰しを養う愚を犯していたら,邑はもっと早くに砂へ埋れていただろう.

 兵隊というものは,他の兵隊が居ない限り需要の無い職である.空疎な戦場の名誉などより大切なことを心得ている者達の間では,存在意義を失う.

 しかしあいにくと,人はオアシスエルフほど達観した種族ではなかった.やり甲斐はあるが辛くて報いの少ない労働よりも,往々,仮初にも派手で旨味の多い生き方を選ぼうとする.

 赫々たる武勲や涙尽きざる悲劇,英雄の壮挙,戦友同士の熱い友情,男らしさを切々と訴える叙事詩ほど人の心を揺すぶるものがあるだろうか.

 軽佻浮薄な吟遊詩人も,時には野営地の汚さや辛さ,故郷に家族を残してきた騎士の悲哀,過去の影を負った背中などを,修飾語をたっぷりに謳いあげはするが,どれも所詮は,程々の苦みで口当たりの良い虚偽の味を引き立てる,小さな真実の芥子種.はたまた,殺戮へのあからさまな賛美だけでは,些か良心が傷つくからと,ちょっとばかり神妙そうな挿話も織り交ぜ,賤ましい娯楽に興じる後ろめたさを誤魔化しているに過ぎないのだ.

 七弦琴の旋律に合わせ,歴史の闇より甦るのは,いつも血の香りをさせた王侯や貴顕ばかり.剣が栄光を斬り取る度,足下に斃れ,踏み躙られる骸には,まるで注意が払われない.よしんば平和や静謐,穏かな暮らしだけを寿ぐ輩が登場しても,たちまち臆病者とか能天気な連中と決め付けられ,軽蔑と共に隅へ掃き寄せられてしまうのが常である.

 斯くして,翡翠の都もまた忘却の霧の彼方へ消え去った.しかし人の所業は,全く痕跡を残さないという訳には行かない.後になってどういった捉えられ方をするにせよ,痛みと苦しみの記憶は,どこかにこびり付き,復権を待つのだ.

 物語は続く.











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