18.
半壊したエルフの館の玄関には,長老達が,縄を掛けられ,首を低く据えられていた.何れも美しい女ばかりで,淡い黄緑や控茶色のドレスを纏い,虫食いのようにあちらこちら黒い穴の空いた裳裾を,地に垂らしている.
だが真紅の甲冑を纏ったグノーフ・タンタクスは掠り傷すら負わず,マントに煤さえつけていない.元々戦いを好まぬオアシスエルフが何人集まろうと,戦闘に慣れた元冒険者の魔導師に勝てる筈も無かった.
「ええと,鳥の司,獣の司,薬の司,水の司,樹の司で長のラファーロ君は亡くなったので,風の司,最長老の土の司と.ご婦人方,はい,その,全員お揃い,ですよね?」
薄ら気の無い愛想を使う優男が,しかしとんでもない毒蛇であることは既に判明した通りである.だが囚われの乙女達は,死んだラファーロのようには怒りを露にせず,ただ冷たく澄んだ凝視で応えただけだった.
「あー,何か,まぁ,お話をね,そう,しましょう.こう,間が持たない,と,気まずい,ですから」
グノーフが困ったように訴えると,中で独り,鷹のような目をした女が,淡々と云う.
「これ以上何を話すことがあるのです.炎の運び手よ」
「おお鳥の司のリュフェール.相変らず,はい,お美しい.どうでしょう?貴女の,夫の,思い出,とか.娘さんの,はい,近況とか?」
「若いラファーロは貴方の計略に乗せられて死にました.1対1で戦えば決して負けなかったでしょうけれど.娘は,リフォルは…お前に死より酷い目に合わされた…満足ですか?」
「いえいえ,そんな,あの…では,ええと,土の司ルハゥレア,貴方の息子さんの,立派な,散り際など?」
「名前を呼ばれたくないわ.がらんどうの心を持った人間よ.ラファーロは,愚かで,短気で,人を信じやすい性質でしたが,お前に侮辱されるような子では無かった」
鋭い剣突にも,男爵は全く怯まなかった.義理の祖母や母を前に,相変らず八の字に曲げた眉を蠢かしながら,短く2度手を叩く.召喚に応じ,木々の陰から,妊婦のように膨らんだ腹を持った女エルフが姿を顕した.
乳首や陰核にピアスを嵌め,凝乳のような膚に返り血と愛液を浴びて,妖しく笑っている.彼女はリフォル,かつて翡翠の都の花と呼ばれた姫君のなれの果てだった.
「リフォル,お母様や,お祖母様を置いて,んん,何をしていたんだい?」
「うひっ,ごにんのおばさま,ろくにんのいとこと,じゅうはちにんのはとこ,えへへ,それからぁ…」
「こらこら,それは,なんか,何の数字なのか,まぁ,うん,皆に,解るように,説明,そう,説明してくれないかな…」