16.
「はいはい,ありがとレフィ.でもさ,意外にやるじゃない.ボク,君のこと見直しちゃったな.森の魔法ってのも悪くないね」
「とんでもない,こんな邪道な使い方など…さぁ他の兵隊が来る前に,戻りましょう.きっと木霊の林(ドライアド・ウッズ)で父様や長老達が待っています」
「うん」
少女は年下の少年の助けを借りて,蔦から抜け出すと,手を繋いだまま地面に降りた.灰を払おうと髪を揺すってから,服についた煤に気付いて顔を顰め,悔しそうに呻く.
「でも,こいつら何なのさ?格好は騎士みたいだけど…やることは最低だし…」
「解りません.長老達ならご存知でしょう.今は安全な所へ戻る方が先です」
手を引いて足早に歩き出すレフィ.連続して魔法を使った為に,精神力をすり減らせたジゼルは,僅かによろめいて後に従う.少年は痛ましげな面持ちになって立ち止まった.
「辛いのですね」
「平気だよ.レフィこそ顔色悪いよ.根っこを操ったりで,大きい魔法使い過ぎたんじゃない?」
強がってみせるジゼルの仕草に,益々胸を締め付けられたレフィは,軽く膝をつくと,彼女の震える手の甲に接吻した.暖かい気(プラーナ)が少女の腕から胸へ伝わって,倦み果てた筋肉に活力を甦らせる.
「わっ,なに…」
「緑の祝福(グリーン・ブレス),簡単な回復の魔法です.きちんと勉強していれば,去年には習得なさっていた筈ですよ.今回のこともそうですが,ジゼル様の魔法は派手好みに偏りすぎます.もっと基礎を押さえて…」
「あ,はいはい…」
折角素直に感謝したい気持になっても,お説教が附いて来るのでは,げんなりさせられる.少女が疎ましげな目つきで睨むと,少年は尻窄みに言葉を打ち切って,また歩き出した.いつもならもっと粘るのだが.
「ねぇ,ボクより,レフィは本当に大丈夫なの?」
「ええ…ちょっと…ただ,森が…」
声が震えている.ジゼルはすぐに合点が行った.森を焼き討ちされた所為だ.他所から翡翠の都に預けられた彼女から見ても,人間達がやったのは,"酷い事"なのだ.生まれてからずっと此処で暮して来た少年には"耐え難い事"なのかもしれない.
「レフィ…」
「あの樺も,隣のブナも,全部名前を知っていました…いずれ暇を見て,ジゼル様にもお教えしたかった.彼女達は…とても気立ての良い樹で…沢山の雛を巣立たせて…餌を運ぶ母鳥の歌を良く知っていたんです…つまり…」
「うん」