7.
「済まないが,それは出来ない」
「何だと!」
「あー,つまり,君の頼みを聞くのは,無理だ.残念だけど,そう,僕は,どうしても,こうする,必要,がある」
「貴様!正気なのか?」
「ええと,うん.でもまず,その,浮いていると,疲れないかな?降ろしてあげよう」
篭手が合図をすると,それまで黙りこくっていたもう一人の魔導師が手を上げ,ラファーロに呪文をぶつけた.エルフの長は咄嗟に対抗呪文を唱えたが,グノーフが素早く別の魔法でそれを無効化する.
翼をもがれた鳥のように地に落ちる盟友を,男爵は弱々しい微笑みと共に眺めてから,少し得意そうに,騎士へ目配せした.
「ね?森を焼かれると,我を,その,忘れるだろ.ところで,ここのエルフは,ラファーロのほかは,怖くないから.男は殺して,うん,女は捕らえて,くれないかな?全軍に命じて?」
「グノーフ!!!裏切り者!私の民を…」
「あー,うん.そう,友よ…あるいは,まぁ義父上.話を,聞いて,くれないかな?」
篭手を,エルフの秀でた額へ突きつけながら,グノーフは諭した.ラフォーロは歯軋りしながら睨みつける.目には当惑と,耐え難いような苦痛,悲哀が篭っていた.
「なぜだ,なぜなのだグノーフ.なぜいきなり…」
「あれ?えと,最近,学会誌,読んでない?ほら,例のさ,古代王国時代の宝の,ね,製法が,解っただろ?」
「…っ,まさか魂砕き(ソウルブレイカー)のことを言っているのか?お前はあれを試したのか!?それで気がおかしく…」
「あはは,バカだな.ラファーロったら.僕が,その,自分で試すわけ,ないだろ?じゃなくて,魂砕きの実験体には,エルフが一番いいらしい…んだよ.うん」
「グノーフ…それは…どういう意味だ?」
赤髪のエルフは縋るように友を見た.そして,世間話のような調子で悪夢を語る魔導師から,一片の狂気すら感じられないことに,却って恐怖した.信じたくなかった.親友と信じていた男が,無慈悲な怪物だったなどと.一族の反対を押し切って結んだ人間との交誼が,こんな形で裏切られるなどと.だが,グノーフの言葉は情け容赦の無く続いた.
「初めて,会った時,な,話したじゃないか.僕は君達エルフの永遠性に,憧れてるって.君も,僕も,つまり,命に関する探求者で,だから,馬が合ったよね?.君は,沙漠に緑を齎し,僕は人間の寿命を,伸ばすと…で,実は,以前から,考えてたんだ…君が,大地の水脈から,ええと,命の源,取り出す,ように,僕も,エルフから,命の源を,うん,取り出して,みようと.」