6.

「つまりー,その,森を焼かれると,とても慌てるし,ええと,多分,火を消そうとするほうに,集中する,んじゃないかな」

「しかし,こちらが放火している所に出くわした場合はどうなのですか…」

「あー,ええと.そうだね.その場合は,どうだろ,ねぇ?」

 魔導師が連れに対して,また不安そうに問い掛けるのと,戦線の左翼で複数の絶叫が上がるのはほぼ同時だった.黒く炭化した林の間に,真紅の髪をしたエルフが1人姿を現し,松明を手にした焼討ち隊に矢を射掛けたのだ.

 矢は瞬時に無数の影を生み出して,松明を握る手首を次々と貫いた.兵が痛みに悶えて火を取り落とすと,エルフも弓を投棄て,およそ600ヤークは離れた所から,真直ぐ魔導師達を睨み付けた.そのまま小さく唇を動かすと,宙に浮び,驚く兵馬の群を飛び越えて,長套の2人へ迫って来る.

 副官の騎士は水際立った立ち回りに,つい感歎の息をついてから,はっと手綱を引いた.

「殿,お退りを.恐ろしく腕の立つ奴のようです」

「あー,ま,そうだね.というか,彼の腕は,よく知ってるよ.うん,僕の親友で,昔の,あは,冒険者仲間だしね」

 のんびりと答える人間の魔導師.その間にもエルフの魔導師はぐんぐんと距離を詰める.殿,と呼びかけた騎士は,困惑した様子で,眼鏡をかけた青年の顔を見詰めた.

「では"翡翠の都"の長,ラファーロ!?なんということだ弩隊!殿をお守りせよ!」

「まぁ待って,彼,その,いわゆる,"緑の指"のラファーロ.根は心優しい,森の賢者さ.あー,えとまぁ,たはっ,僕の舅だしさ,いきなり,攻撃は,ええと,しないと,思うな」

「何を悠長な…今は敵ではありませんか」

 エルフの魔導師は,漫才のような遣取りを続ける主従の前で止まると,優男めいた外見とは裏腹の,雷のような胴間声を発した.

「"赤き男爵"グノーフ!旧き友よ!何故突然,このような無道を!翡翠の都は取り返しのつかない被害を蒙ったぞ.我等オアシスエルフの長年の献身に対する,貴公の返礼がこれか!リフォルが何と悲しむことか.君は,自分の妻の故郷を破壊しているのだぞ」

 グノーフと名指された魔導師は,申し訳無さそうに眉を下げ,頭巾を取った.赤き男爵という異名に相応しい真紅の篭手を上げ,挨拶代わりに振る.

「やぁ,ラファーロ,その,相変らず,話が,くどいね」

「ならば短く言ってやろう!直に火を止め,兵を引け!」

 常日頃は冷静を旨とするエルフの長だが,今日ばかりは憤怒に堪えぬ様子であった.男爵は篭手で頭を掻くと,おずおずと拒否の仕草をする.

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