10.
おかしな理屈だ.だが自由を奪われ,薬に曇らされた脳は犬と会話ができると信じ込み,自分を犬と同一視している.しかもちゃんと,それで意志の疎通が成り立っているのだ.
「それで?結局お前は私に告げ口したかっただけか?」
「キュゥンッ…あの,できれば…ヴォーダン様を,本当の雌と…」
「お前に楽をさせる為に?何度説明すれば解る.交配は選び抜かれた雌としかさせん.それまでお前が代用を勤めろ.余裕がなければ休憩を削れ.そして私にも仕えろ」
「うっ…ワンッ」
ロビンは困ったように頷くと,開いた尻を自分でさらに広げ,元気になったヴィルヘルムの分身を咥えこんだ.流石に潤滑液もなく,中を寛げる準備もなしで,苦しさに顔が歪んだが,主人の不興そうな表情に気付くと,無理に笑顔を作って腰を動かし始めた.
「ワンッ,キャウッ♪ヒャゥンッ♪アンッ」
教え込まれた通りのよがり声をあげて,緊く男の欲望を締め上げる.だがヴィルヘルムにとっては所詮,手近な娼婦代わりだ.耳慣れた嬌声では些か物足りないので,胸元で揺れるタグを摘む.敏感な尖端を引っ張られ,少年は演技抜きの裏返った悲鳴を漏らした.それを聞いているのかいないのか,領主はタグに刻まれた文字を読んで感慨に耽るようだった.
「そうか,お前を捕えてからもう半年か.色んな弊害が出ても仕方あるまいな.どうした,腰が止まっているぞ.早く戻らぬとヴォーダンに仕置きをされるのだろう」
言われた方は,相手がタグから手を離す気配が無いのを見て,ちょっと恨みがましげに睫を伏せ,胸に刺激を伝えないよう慎重に腰の動かす.ヴィルヘルムは小ざかしいとばかりにタグを引っ張って,あろうことか左右にねじってみせた.
「キャヒィッ!!!!」
「ロビン,私を愛しているか?」
「ア…ハ,はひぃっ」
「どの位だ」
「すごく,すごーくですっ!ワンッ♪」
「父親よりもか?」
「父さんより,母さんより…お姉ちゃんより,お兄ちゃんより愛していますっ」
「家族の敵を討つと意気込んでいたお前がか」
「あひぃっ,言わないでぇっ…」
「今でも人々の為に狂った貴族を倒すべきだと思っているか?」
「いいえぇっ…下民が殿様に逆らうなど…」
「お前の飼い主は誰だ」
「うぁあっ,ヴォーダン様です!僕が目を傷つけた!猟犬の王…」
「償いとして私は,お前の脚を奪ってやった.不服か」