8.
「ワンワンッ♪」
身をくねらせて喜びを表現する少年に,飼い主は目を細めた.だが犬小屋の方では苛立った唸りが聞こえる.苦笑しつつ裸の臀部に手を這わせ,人造の尻尾を引き抜いた.疣だらけの棍棒が腸液の糸を引いて落ちる.少年は心もとなさに震え,甘えるように肋の浮いた胸を摺り寄せた.
「こら,服が汚れるだろうロビン.それより早くヴォーダンの所へ行け.あれに嫉妬されるのは敵わぬ」
ロビンはひょこんと離れて頭を下げると,急いで犬小屋に走っていった.怒った唸りを宥めるように,媚びたボーイ・ソプラノの鼻声を出している.
領主はその後ろ姿に限りない満足と,一抹の寂しさを覚えながら,狩小屋を後にした.これでいいのだ.大半が子孫を残せない劣等種だとしても,彼は犬達を狩の伴侶として愛していた.偽物であっても牝犬を宛がうことで,満足を与えてやれるなら,それは欺瞞ではないだろう.
また,ロビンにとっても,あれが最善なのだ.もし野性のまま大きくなって,仲間を集められる行動力を得たら,かつてのゲオルグのような危険な敵になっていただろう.全くあの一揆は,父の後を継いだばかりだった彼を大いに困惑させたものだった.
「だが,家畜は所詮家畜か…」
貴族の高笑いを証立てるように,犬小屋からは可憐な喘ぎが溢れはじめる.小さな牝犬は沢山の雄犬に愛され,もう悩みも苦しみも無い幸福の中にいた.