「僕にはわからないよ」

月が首を横に振る。
月に答えを求めても得られるものはない。
他人が答えられる程度の原因や理由の衝動的な行動だったのならば、握り締める拳が震える程『何か』に耐える必要もないのだ。

「流河?」

俯き、沈黙したLを覗き込むように様子を伺う月を力一杯引き寄せて、抱き締めた。
興味もないくせに、気遣うような仕草など見せなければいいのに。

「・・・?!」

月の細い腰に両腕を回し、肩口に埋めるように顔を押し付け、抵抗できないように身体を密着させる。

「流河っ!」

怒鳴る声に戸惑いが混じっていたが、月は暴れはしなかった。
大人しく抱き締められるままでいる余裕が、気に喰わないとLは思う。
けれど、身体に触れる体温と感触を記憶するように、Lは抱き締め続けた。

(これを望んでいたのか)

もっと違う『何か』を感じて、Lは目を閉じた。

捜査本部の調査書で、夜神月の存在を知ったのは数ヶ月前のことだ。
『キラ』という犯罪者を追うにつれ、見えてきたのは非の打ち所のない人物だった。
レイ=ペンパーの死をきっかけに得た情報から容疑者候補として、その姿を目の当たりにする。
それは、整った外見以上に気味が悪いほどの品行方正な生活態度だった。
家族と居ても一人で部屋に居ても変化することのない、優等生の見本のような行動に違和感を覚えた。
何処に居ても誰と居ても一人で居ても変化のない人間など存在し得ない。
もちろん、監視カメラは家屋の中に限られた為、屋外での行動は未確認ではあった。
だからこそ、直接会うことを選んだのだ。
この目で夜神月という人間を確かめてみたかった。
Lという正体を晒すことにより、夜神月にどのような変化が起こるのか、もしくは全く変化しないのか、それは一つの賭けだった。
第3者の名と姿であっても夜神月が本来の姿を現さないのならば、Lとして側にいることによって、別の一面を見ることができるのではないかと、考えたのだ。
夜神月という人間の知り得る全ての情報から分析し、推測すれば、その性格上『キラ』でなくとも、必ずLを介して捜査本部への接触を図ってくるはずである。
それ程、情報上の月は『キラ』を独自に追いかける程、人並み外れた正義感の持ち主なのだと報告されていた。
しかし、まだその行動はない。
まだ自分をLとして信用していない為、慎重になっているのか、父親が捜査に関わっているから遠慮しているのか、その可能性はどちらも捨てきれない。
かわりに、行動を共にして得たのは、月の緻密で冷酷な仮面を被った姿だった。
誰もが騙される笑顔と態度の裏に隠されている本当の姿を巧妙に隠し通している。
誰もが気が付くことのない夜神月の演技を、自分だけが見抜くことができたのは、最初から夜神月を疑っていたからに他ならない。
何も知らず、何も聞かずに夜神月と出会っていたのならば、気が付くことのないほど、それは僅かな隙だった。
夜神月の本来の姿の欠片を突き止めた時、湧き上がったのは、全てを暴きたいという衝動ともう一つの感情だった。
一体、夜神月の何がこんなにも冷静な思考を揺るがすのだろうか。
完璧なまでの人間性と虚飾じみた笑顔、そして完全に遮断された内面。
その何もかもが気に触るというのに。

「流河、いい加減にしてもらえないか?」

どれ程の時が経過したのか、月がうんざりとした声でLの肩を叩いた。














 
 

2005/2/7

 
     
     
     
 

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