四 |
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翌朝、定刻通りに登校して来た月をLは廊下で待ち伏せていた。 月はLの姿に気が付くと、いつものように笑顔を見せた。 その嘘くさい笑顔が気持ち悪いとLは今日も思った。 「おはよう、流河」 「おはようございます」 1限目の講義室に向かう月の隣りを当然のように確保して、Lも歩き出す。 「夜神君、おはよう」 背後から声がして、振り返ると見慣れぬ女が立っていた。 「おはよう」 月の方はその女のことを知っているらしく、人好きのする笑顔で応対をし始めた。 親しげなその二人の様子をLは一歩離れたところで観察していた。 課題についての質問なのか、ショルダーバッグからノートを取り出した女に対して、月はその公式についての回答を丁寧に説明する。 月に好意を持っているということが、ありありと見て取れる態度の女は、ノートをめくりながら、さりげなく月の手に触れ、自分の存在をアピールすることを忘れなかった。 質問は、口実でしかなかったのだ。 それを見た瞬間、Lは全身の血液が沸き立つのを感じた。 「気安く触らないでください」 Lは二人の間に割って入ると、月の手を掴み、強制的にその場を後にする。 驚いた女を置き去りにして、Lは月を引きずるように人気のない、校舎の奥へと連れて行く。 「流河っ」 静止を求める声を無視し、何度もその手を振りほどこうとする月の手だけは放さない様に力を込める。 あの女は、この二人のことをどう思っただろうか。 Lには関係のないことではあったが、月は気にするに違いない。 そのことで月に責められたとしても、その女の誤解を解く術など、考えている余裕などなかった。 用がなければ誰も近付かない校舎の北端に辿りつき、Lはようやく足を止めた。 「何のつもりだ」 振り返ると、珍しいことに感情的な月の目に睨まれた。 「わかりません」 向かい合い、Lは首を横に振る。 本当に、わからないのだ。 「・・・手を、放してくれないか?」 強く握り締めたままの月の指先が赤くなっている。 「いやです」 放さないというより放したくないといった方が正しい。 それだけは確かだ。 「流河、わけがわからないのは僕のほうだよ」 月が深々と溜息を吐く。 Lの様子に理由を追求することを諦めたのか、月は片手に持っていた鞄を持ち直し、腕時計を見る。 「言葉で説明するのは、とても難しいのです」 衝動的に心より先に身体が動いた。 その原因を説明することはできない。 ただ、月に触れたかっただけなのか。 今は、その疑問への回答はどこにもなかった。 「とりあえず、手を放して欲しいんだけど。痛くてかなわない」 幼い子供を相手にするように、月は柔らかい声を出した。 Lを刺激してはいけないと咄嗟に思ったのかもしれない。 「私は、どうすればいいのでしょう・・・」 Lは、ぽつりと呟いた。 |
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2005/2/3 |
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終わりが見えない・・・ |
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