壱 |
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ゆっくりと手を伸ばし、その髪に触れた。 見た目と相違なく、柔らかくさらさらとした上等の髪は、するりと指の間を通って逃げた。 「なに?」 無意識の衝動に驚くことが多い。 それは、いつも彼を前にした時に起こる。 「いえ・・・」 言葉を濁し、目を逸らすと彼の追及はそこで止まった。 気にすることでもなかったらしい。 Lはもう一度、色素の薄い、陽に透けた薄茶色の髪に触れた。 「眠かったら寝てもいいよ。次の講義に間に合うように起こしてやるから」 月がレポート用紙から目を離し、Lを見た。 穏やかな笑顔を浮かべている。 不意に見せる、無邪気な好意に戸惑う。 多分、本来の夜神月がそうなのだろう。 勤勉実直で頑固な夜神局長の息子なのだ。 悪を憎み、善をよしとする。 弱き者には手を差し伸べ、挫ける者には激励を送り、躊躇う者には援護する。 優しい両親の元で、真っ直ぐに育てられたに違いない。 だからこそ。 その瞳に殺気が宿るのを見過ごせなかった。 「それでは、遠慮なく」 Lは長椅子に横になると月の膝に頭を乗せた。 「・・・。贅沢だな」 溜息混じりに月が呟く。 「贅沢ですか?」 無防備に寝姿をさらけ出すのは、命知らずだろうか。 「ああ。でも今日は特別料金さ」 頬から伝わる心地好い体温にLは目を閉じた。 |
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2004/09/15 |
||
→弐 |
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戻 | ||