あるところにお城がありました。
そこに住んでいる女王ライト様は、それはそれは美しい人でした。
とにかく、女王ライト様の外見だけは、文句のつけようがないほど麗しかったのです。
かわりに外見以外に褒められるところがひとつもありません。
趣味がダサくて素敵なお城の内装は残念なことにとってもダサいのです。
しかも性格は女王様らしく、偉そうでいばりんぼでわがままで冷酷非情で自分勝手です。
天はなかなか二物を与えてはくれません。
ある日、そんな女王ライト様が、ぽつりと呟きました。
「桜が見たい」
さあ大変。
お城中は大騒ぎです。
この女王ライト様は、デスノートに名前を書くだけで、その人を心臓麻痺で殺してしまうおそろしいキラでもあったのです。
少しでも逆らったりすれば、殺されてしまいます。
そのわがままに答えられなくても、殺されてしまいます。
お城で働く使用人たちはライト様と目を合わせないようにこそこそと姿を隠しました。
今は真冬です。
桜などどこにもありません。
「桜が見たい」
なかなか自分の望みがかなわず、ライト様はだんだん機嫌が悪くなっていきました。
使用人たちは、いつ殺されてしまうかわからないとびくびくしながら暮らしています。
「無理を言わないでください。今は真冬です。外は雪が降っているんですよ?ライトくんもわかっているくせにどうしてそう我儘を言うのですか」
なりゆきでこのお城で暮らしているLがとうとう口を出しました。
ライト様に唯一普通に話しかけることの出来る、怖いもの知らずの男です。
「お前には言ってないよ」
ベッドに寝そべっていたライト様はLに背を向けました。
「本当にライトくんはしかたありませんね」
Lはそう言い残してお城を出てゆきました。
ライト様は引き止めませんでした。
雪の降る寒い日でした。
それからのライト様は本当に手がつけられないほど、荒れ始めました。
世界中の犯罪者500人の名前をデスノートに書きました。
それでも機嫌は直りません。
頭の中がいらいらむかむかいらいらむかむかでいっぱいなのです。
いつも後ろにいるリュークも心配そうに見ています。
声をかけることはありません。
何かを言って怒りの矛先が向けられ、リンゴがもらえなくなったら大変だからです。
(はやくきげんなおんね〜かな〜)
宙に浮いたまま、リュークはリンゴをかじりました。
いくら我儘で横暴な女王でもリュークが話すことが出来るのはライト様だけなのです。
ライト様と話せないと暇で暇でしょうがないのでした。
「Lはもう帰ってこないかもしれない」
鏡を見ながら、ライト様は誰にも聞こえない声でぽつりと呟きました。
春、満開の桜の下で、ライト様はLと初めて出会いました。
それを思い出して、急に桜が見たくなったのです。
もちろん、雪が降り続く真冬で桜が咲いているわけがないことくらいライト様も知っています。
ライト様はとにかく頭が良くて賢かったからです。
だからこそ、我儘を言ってでも桜が見たかったのです。
Lがいなくなってから2週間が過ぎました。
窓の外は猛吹雪で1メートル先も見えません。
がたがたと窓ガラスが揺れ、部屋の中はなかなかあたたかくならないほど寒い寒い夜でした
ライト様は暖炉の側でうたた寝をしています。
夢の中にLが出てきました。
「ライトくん」
耳元で懐かしい声がします。
「ライトくん、こんなところで寝ていると風邪をひきます」
ライト様はおそるおそる目を開けました。
夢ではいつもここでLの姿が消えていくのです。
「Lっ?!」
ライト様の目の前に雪だるまのように真っ白な雪をまとったLがいました。
そっと手を伸ばすとほおは氷のように冷たくなっています。
「お前こそ、風邪をひくじゃないか。早く暖炉の前に・・・」
驚くライト様の手を取り、Lはコートの中から一本の枝をとりだしました。
小さな桜の花が枝先に咲いています。
「ライトくんが見たがっていた桜です」
ライト様は目を丸くしたまま、声を出すことが出来ません。
「私はLです。できないことはありません」
ライト様の震える指に桜の枝を握らせ、Lは頭やコートについた雪を払い落としました。
「L・・・」
ライト様はLに抱きつきました。
見捨てられたわけではなかったのです。
Lはライト様のわがままをかなえるために南の国へと出かけていたのでした。
「ライトくんが濡れてしまいます」
Lの声が聞こえていないのか、ライト様は離れようとはしません。
「苦労したかいはあったようですね」
Lはライト様を抱き返しました。
猛吹雪の夜、そこだけが春でした。
おしまい。
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