出張

 
     
 




「本当に本当に本当に、気をつけてくださいね」

それは、Lが現在手がけている事件の都合上、どうしても現地へ赴かなければならなくなったことが、二日前に決まった。

「わかってる。そもそも、この部屋から出られないことは、僕が一番良く理解しているんだ。そんなに念を押さなくても大丈夫だよ」

この二日間、ことあるごとにLがしつこくしつこくしつこく、繰り返す言葉にライトはいいかげん、辟易していた。
それでも、無視もせず、根気よく、ライトがLに合わせているのは、ちょっとでも否定的な対応すれば、今よりもっとうるさくなることがわかっていたからだ。
Lが出かけるのは、明日だ。
あと一日我慢すれば、この嵐はおさまる。
そう自分に言い聞かせたライトは、一呼吸置いて、笑顔を作ってみせた。

「インターホンが鳴ってもすぐに出ない。知らない人だったら居留守を使う。Lの電話には必ず出る。・・・ちゃんと、覚えたよ」

Lの目を見て、繰り返された約束事を一言一句違わずに答えると、Lが少し困ったような表情になる。

「・・・。ライトくんが、大丈夫なことはわかっているんです」

向かい合って座るライトの手をそっと掴んで、Lが言う。

「大丈夫じゃないのは、私の方です。それもわかっているんです」

自分を見つめる真黒い瞳に自分の姿が映る。

「バカだな。大丈夫に決まってるだろ。仮にも僕の・・・」

言いかけて、ライトは、はっとする。
現在おかれているこの状況をそのまま受け入れて、慣れつつあることに気が付いて、なんだかとても恥ずかしくなってしまったのだ。

「・・・ライトくん?」

言葉を途中で切ったライトを真っ直ぐに見つめて、Lがその先を待っている。

(僕は・・・、本当にバカだな)

Lを見つめ返して、ライトは黙って微笑んだ。
それを言うことで、何かが変わるのかもしれないが、何かを変えてはいけないような気がした。

「僕の、なんですか?」
「なんだと思う?」
「私に考えろということですか?」

ライトの表情でその意図を読み取って、Lが小さく息を吐く。

「ちょうどいい宿題になるだろ」
「遊びに行くのではないのですが」
「息抜きにすればいい。土産はそれでいいよ」
「安上がりですが、難問ですね」

Lが諦めたように頷いて、その話はそこで終わった。

「明日の朝は早いんだろ?もう寝よう」

ライトは先に立ち上がって、寝室に向かった。
何かを考え込んでいるように、黙ったままのLは、リビングのソファから動こうとしなかった。
しかたなく、ライトはLのことを気にしないように、先に眠ることにした。
ライトが眠りに落ち始めた頃、ようやくLが寝室へやってきたので、声をかけることができなかった。
ただ、背中に触れた体温が心地好くて、そのままかすかに残っていた意識を手放した。


お互いに言うことのできない複雑な気持ちを抱いたまま、その日の朝を迎えた。

「いってらっしゃい。気をつけて」

出張の予定は、五日間。
現場での状況によっては、長引く可能性もある。
玄関先で見送るライトにLは触れるだけのキスをした。

「いってきます」

離れた瞬間だけ、ライトが少し頼りない表情になっていたので、Lは後ろ髪をひかれる思いをむりやり振りほどいて、玄関を出た。

(やっぱり、大丈夫じゃないです)

見上げた空が、嫌味なくらい青かった。
気持ちを切り替える為にLは一度目を閉じてから、ゆっくりと歩き出した。










 
 

2008/1/23

 
     
 

団地妻で10のお題。
拍手のお礼です。
ようやくその6。
年間一本ペースをなんとかキープ中。
しつこいLがけっこう好きなんです。

 
     
   
 

 
   
     
     
     
     
     
     
     
     
     

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