あるところにお城がありました。
お城にはライト様と呼ばれる女王様が住んでいました。
まぎれもない男性ですが、まぎれもない女王様なのです。
その女王ライト様はとてもとても美しい人でした。
外見だけは振り返らない者が居ないという伝説を持つほどです。
ところが、その美しい容姿以外に褒められるところがひとつもありません。
けれども、その麗しい外見のおかげでライト様は全てのわがままが許されているのです。
なんとも羨ましい話です。
もちろん、ライト様のわがままがあらゆる人々に許されている理由はそれだけではありませんが、間違いでもありません。
ライト様は、美点がひとつしかないかわりにたくさんの欠点を持っています。
そのひとつが、ものすごくダサいセンスです。
素敵なお城の内装が言葉では言い表すことが出来ないほど、ダサい装飾で彩られています。
ライト様は今日もまたダサい壁紙の部屋をひとつふたつと増やしては満足しています。
高台に立っているお城から見下ろす景色が黄金色や紅色に染まる頃。
実りの秋はお城の食事にも反映されています。
さつまいものスープ。
栗とまいたけご飯。
秋なすのみそいため。
銀杏と春雨のサラダ。
鶏ささみとキノコのホイル焼き。
秋刀魚。
梨。
柿。
無花果。
松茸。
毎日のように、ライト様が暮らすお城にとりたての新鮮な食材が届きます。
専属の料理人がライト様のご機嫌をそこねないように、工夫を凝らして調理をしています。
「ライトくん」
ある晴れた日の早朝。
何度か体をゆすられて、ライト様は目を覚ましました。
「・・・」
うっすらと目を開けると、目の前にLの顔がありました。
ライト様は穏やかに微笑んで、再び眠ってしまいました。
「・・・」
めったに見ることの出来ないものを見てしまったLが、一瞬その目的を忘れてしまうほどの、魅力的な笑顔でした。
ライト様は寝ぼけていたようです。
「ライトくん、起きてください」
Lがもう一度ライト様の体をゆすります。
「・・・、なんだよ」
ライト様は目も開けず、さっきの笑顔からは想像もつかないほど不機嫌な低い声で答えました。
「デートしましょう」
「やだ」
ライト様は布団を頭からかぶってしまいました。
「川辺の紅葉が見事だそうですよ。一緒に見に行きましょう」
「どうしてそんなに行動的なんだ」
布団をかぶったまま、ライト様はLに背を向けました。
Lの誘いに応じる気が無いようです。
「ライトくんこそどうしてそんなに引きこもりなんですか」
ライト様から返事がありません。
どうやら、また眠ってしまったようです。
「仕方ないですね」
Lは小さく肩を落とし、部屋を出て行きました。
その後、Lは朝食はもちろんのこと昼食もおやつも夕食も部屋から出てきませんでした。
ライト様にデートを断られたことで、拗ねているのかもしれません。
さすがに鬱陶しくなったライト様はおやつだったさつまいものケーキを持ってLの部屋に向かいました。
「L?」
軽くノックをしてライト様は声をかけます。
返事はありません。
「L?」
もう一度声をかけました。
返事はありません。
寝ているのかもしれないと、ライト様はドアを開けるのをやめました。
いつものようにわがままを言う気にはなれませんでした。
(まるで僕が悪いことをしたみたいじゃないか)
ライト様はドアに背を向けました。
すると、Lの部屋のドアが開きました。
「ライトくん、まってください」
ドアの隙間から顔を出したLが手招きをしています。
少しだけ喜んでいる気持ちを抑えて、ライト様は振り返ります。
「思ったより準備に時間がかかってしまいました」
そう言って、Lがライト様を部屋の中へ誘いました。
最初に目に飛び込んできたのは鮮やかな朱色でした。
ライト様は、何度か瞬きをしました。
すると、ようやく部屋の中が見えてきました。
紅葉です。
いったいどこから持ってきたのか、真っ赤な紅葉が部屋中を埋め尽くしています。
「きれいですか?」
驚きのあまり声が出なくなったライト様の隣りに並んだLが尋ねます。
「・・・」
「気に入りませんか?」
Lが心配そうに見えない表情でライト様を見ました。
ライト様は深い深い溜息を吐きました。
「L・・・」
「はい?」
「お前って、本当にばかだろう?」
「どうしてですか?」
「じゃあ、これはなんなんだよ?」
ライト様は部屋中の紅葉を指差します。
「今朝お前からのデートの誘いを断ったからって、いやがらせのつもりか?」
「違います」
「じゃあなんだよ」
「とてもきれいでしたので、ライトくんにもお見せしようと思ったのです」
相変わらず感情の読めない無表情でLはさらっと言い放ちます。
ライト様はもう一度深い深い溜息を吐きました。
いつもどうでもいいことを簡単にやってのけるLの正体がわかりません。
都会の豪商なのかもしれません。
地方の豪農なのかもしれません。
もしかしたらアラブの石油商なのかもしれません。
もちろんLの正体などライト様は気にもなりません。
なぜなら、ライト様は自分以外の人間に興味が無いからです。
それでも、Lはライト様にとって少しだけ特別のようです。
ライト様は部屋の真ん中に用意されていた椅子に座りました。
「ケーキ、持ってきたんだ。食べるよね」
テーブルの上に持ってきたさつまいものケーキを置きました。
Lの目が輝きました。
Lは甘いたべものが大好きなのです。
「紅茶でいいですか?」
Lはいそいそとワタリが用意したティーポットから紅茶を注ぎ、ライト様に差し出します。
ライト様の目の前に紅葉が一枚、舞い降りました。
紅葉を手に取り、ライト様はようやく笑いました。
「きれいだね」
Lにはそれだけで充分でした。
もちろん甘い甘いさつまいものケーキも今まで食べたどのケーキよりもおいしかったようです。
おしまい☆
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