――事件前日――
世界最強の仏教系退魔組織『闇高野』の総本山――字面だけなら怪しさ大爆発な“そこ”は、文字通り怪しく不気味で辛気臭い所だ。
まだ日本にこんな秘境があったのかと、誰もが目を疑うような、うっそうと森の木々が生い茂る山の奥――伸ばした手の先も見えないくらい濃い霧の向こうに、薄墨を溶かしたような神社仏閣の影が見え隠れしている。冷たいそよ風が枝葉を揺らす度に、香の匂いと共に読経が聞こえるのは幻聴だろうか。
そんな水墨画みてぇな世界の最深部に、その社はあった。
浮浪者でも住むのを躊躇いそうな、どう見てもあばら家にしか見えないそこが、この闇高野退魔師の頂点に位置する大僧正の御座だとは誰が信じられるだろうか。正直、俺もいまだに信じ難い。つーか清貧もここまで来るとイヤミだぞ。
「わざわざ呼び出して悪かったのぅ」
一応は、経文らしい文字が描かれた掛け軸や仏具が並んでいるが、それ以外は外観に相応しいボロボロな社の中で、大僧正はすまなそうに頭をかいた。
この枯れ枝を組み合わせて作った人形みたいな老人が、闇高野の最高指導者だとはねぇ……人間、外見で判断してはいけないと言うが、ここまで如実な例も珍しいぜ。
「まったくだ。こう見えても忙しいんだぞ俺は。老人介護ってのは何かと大変なんだ」
ひび割れた茶碗に注がれた白湯を飲みながら、俺は苛立ちを隠さずに言い返した。まったく、どうせなら般若湯でも出せってんだ。
「とっとと用件を言いな。どうせ俺に拒否権はないんだろ?」
「わかってるのなら話は早いのぅ。実はな――」
そこで聞いたのが、東京都心ビル街の外れで、宗教型のレッサーバンパイアの姿が目撃されたという話だった。
「……ちょっと待て、それを退魔しろっていうのか? この俺に!」
「相変わらず、飲み込みが早くて助かるのぅ」
ミイラみたいな大僧正の微笑みも、俺をイラつかせるだけだった。
「その辺をうろついてる退魔師を派遣すればいいだけの話じゃねーか! わざわざ引退した退魔師を呼び出すほどの事か!!」
「そうするつもりだったんじゃがのぅ……おぬし、例の“ツァトゥグア神”の『接触者』が出現したという話は知っておるじゃろ?」
「……一応はな」
どこのどいつの気紛れなのか、今年の冬に入ってから“クトゥルフ神”、“ハスター神”、“クトゥグア神”、“ツァトゥグア神”らの『邪神』達と接触し、その恩恵を受け取る者……いわゆる『接触者』が出現したというニュースは、世界中の政府と退魔組織を震撼させた。ただでさえ、邪神の力をほんの一部だが使いこなす者『資格者』が世界中で出現し始めたという事で、ここ最近パニック状態にあったこの業界は、この一件で世界の終わりが来たような大混乱状態にあるという。情報操作が上手くいって、一般世間にはこの件がほとんど流布してないのが不幸中の幸いだろう。
まぁ、引退した身分の俺にはどうでもいい話だが。
……いや、どうでもよかった筈だったんだが。
「“接触者こそ、退魔必滅すべき世界の脅威”――そう考える者が、ワシら退魔師の中でも日に日に数を増していたのじゃ」
「無理無茶無謀を通り越して無能、いや無脳だな、そいつら」
俺は欠伸を噛み殺した。
人間とその眷属が手に入れられる力、そして利用できる力を全て結集しても、邪神の中でも最下級の存在にすら傷1つ負わせる事ができない。それはこの世界の残酷な真実だ。もし奴等を少しでも怒らせれば、人類などナメクジを踏み潰すより簡単に滅ぼされるだろう。
「本物の邪神が言うと説得力があるのぅ」
「厭味言うな。どうせ俺は人間出身の邪神だよ……で、それがどうかしたのか」
唾を吐きたくなる衝動に駆られたが、流石にそれは遠慮して、代わりに白湯をすすった俺は、
「つい先日、そうした世界中のタカ派の連中が、ツァトゥグア神の接触者を襲撃したのじゃよ」
その瞬間、白湯を盛大に吹き出す事になった。
「汚いのぅ」
「げほっ! ごほっ! な、なんつー無茶な事しやがるんだそいつら!!」
「まったくじゃ。幸いにも襲撃は失敗に終わり、向こうからの報復行動も今の所は無いがの。寛大な邪神と接触者で助かったわい」
かっかっかと歯の無い口で笑う大僧正に、全然笑い事じゃねぇと心の中で毒づいた。
いや、マジでこれは笑い事じゃねぇ。これが理由で人類が滅亡しても不思議じゃない――いや滅亡しない方がおかしいほどの大失態だこれは。
「じゃが、代償として襲撃した者達は全滅。魂まで完全に破滅して復活や転生させる事もできぬ。この一件で世界中の退魔師や戦闘能力者の四割が失われた。しかもその大半が『上から数えて四割』の実力者だったというから困ったものでな」
ははは……こりゃ報復が無くても人類滅亡するかもな。退魔業界は事実上壊滅寸前じゃねーか。
「不幸中の幸いは、ここ最近の邪神達の降臨に畏れを覚えたのか、魔物達の活動が大人しくなった事かの。おかげでこの惨状でも何とかなっておるのじゃが……深刻な人手不足なのは隠しようのない事実じゃ」
「……それで、俺が担ぎ出されたっていうわけかよ」
「そんなわけじゃな。おぬしなら目を瞑ってもできる簡単な仕事じゃろ」
「そう言って、今まで一度でも簡単な仕事だった事があるか!」
「ほっほっほ……」
クソジジイはクソジジイらしく厭味に笑った。ちくしょうめ。
それから少し真面目な顔になって、俺の目をどこかすまなそうに見つめたが、どこが目なのかもわからないくらい皺だらけの顔なので、これは推測だ。
「……それで、やってくれるのかのぅ?」
「さっきも言ったが、俺に拒否権は無いんだろ」
俺は傍らの錫杖を乱雑に掴むと、
「俺と平太の生殺与奪は、お前等に握られているんだからな」
すくっと立ち上がり、これ以上話す事は何もないとばかりに背を向けた。小さな溜息が聞こえたが、知った事か。
「……まだ、“幻夢境”に行く気はないのかのぅ……それで全ての問題は解決するのじゃが」
まさに社から出ようとしたその時、大僧正がぽつりと呟いた一言に、俺がすぐ返事をしなかったのは、イラついていたからだけじゃない。
「……知った事か」
陳腐な捨て台詞は、自分の内心を誤魔化すためのものだった。
――そんなわけで、俺は数十年ぶりの退魔業を執行する羽目になったわけだが、まさかこんな事になるとは思わなかった。
ひょっとすると、あの大僧正のクソジジイは、この事を予期して俺を送り込んだのかもしれない。
はてさて、これからどうなるか……
「いよっ、メリーさん久しぶり! 相変わらず美人だねぇ! オマケするから何か買ってってよ!」
「あら、ありがと……じゃあ、このブリお願いできるかしら」
「まいどあり! この蜆(しじみ)もオマケしちゃうよ!」
夕暮れの商店街は、ここ最近珍しいくらい見事な夕日がオレンジ色に彩っていた。
枯れた下町の街並みも、こうして見ると趣が感じられる。何だか一句詠んでみたい気分だな。
……一度も詠んだ事ないけど。
ちなみに今の俺は、深い藍色の留袖に、髪は後れ毛を見せるように結い上げた純和風スタイルになっている。私生活ではいつもこんな格好だが、やはり外人がこの格好なのは珍しいのか、いつも通行人に注目される毎日だ。美人は辛いぜ。
「あの……Mさん」
半歩斜め後ろを歩くS君が、どこかオドオドした調子で着物の裾を引っ張った。いや、いつもオドオドしていたな、この子は。
「ん? 魚よりも肉の方が食べたかったかな」
「い、いえ……その、あの……ええと……」
「男の子なら、しゃんと話しなさい」
通行人の視線が気になるので、意識的に静かに嗜めたが、
「はいいぃ!!」
S君の反応は相変わらずだ。トホホ、周囲の視線が痛いぜ……
「その、メリーさんって……Mさんの名前なのでしょうか」
なんだ、そんな事を聞きたいのか。
「一応な。本名はもう少し長いんだけどな」
「それは――」
「内緒だ。退魔師が本名教えるのは国際条約違反なんでね」
機先を制して言い放つと、S君はたちまちしゅんとなった。わかりやすい子だ。
「そうだな、S君が故郷に帰る時にでも教えてやるよ」
「本当ですか!」
「忘れてなきゃな。ほら、自宅に着いたぜ」
螺子回し式の鍵をきゅるきゅると回して、格子造りのガラス戸をカラカラと横に開けると、懐かしい我が家の香りが鼻腔をくすぐった。
数十分後――
「はい、お待ちどうさま」
ちゃぶ台の上に並べたブリ大根、茄子の素揚げ、ほうれん草の御浸し、銀シャリに蜆の御御御付を、S君は異国の料理のような目で見つめていた。いや、星間宇宙出身の“星の精”にとっては、異国どころか異星の食べ物なんだが。
「あー、やっぱり口に合わないかな。血液銀行から輸血用血液でも用意すれば良かったか?」
「い、いえ……大丈夫だと思います」
おずおずといった感じで箸に手を付けるS君だったけど――
「いや、箸は二本一緒に同じ手で持つんだ。持ち方はこうね……こら、食べ物は突き刺すんじゃない。あと左手をそえて。肘はちゃぶ台についちゃ駄目」
案の定、異文化コミュニケーションは大変だったぜ。幸いにも食事は美味しいといってくれたけど、半分はお世辞だろうな。やはり吸血鬼は生き血を糧にしないと調子が出ないだろう。かといって御近所さんを生贄に捧げるわけにもいかないし、無事に帰郷するまで我慢してもらうしかないか。
「…………」
夕食後、台所で食器を洗う俺の背中に、例のオドオドした微妙な視線を感じる。さっき夕食を作っている間も、テレビでも見ててくれと言ったのだが、ずっとS君は着物の上に割烹着を着た俺の背中を見つめていた。ケツでも視姦されてるのかと思ったが、どうもそんな色気のある話じゃなさそうだ。
後片付けも終わって、緑茶と塩羊羹の置かれたちゃぶ台を挟んで向かい合い、さあこれからどうするかと考えた矢先に、
「あ、あのぅ……」
S君の方から話しかけてきた。これは意外だ。
「Mさんって……その……あの……ですから……」
「男だったら――!!」
「ひゃあぁい!! え、Mさんっていつもそんな服装なんですか?」
「……は?」
「いえ、その……何だか町の人と違うような気がしまして……」
やれやれ、そんな話か。
「仕事中――S君と会った時の黒袈裟は闇高野退魔師の制服だが、今着てる着物は普段着だ。こう見えても100年前から日本暮らしなんでな」
帯をぽんぽんと軽く叩いて、俺はS君に笑いかけた。
まぁ、バリバリの西洋人で、自慢じゃないが乳もでかい俺じゃあ、正直和服はミスマッチなんだろうが、一度身についた習慣はなかなか忘れられない。
それに、あいつがこの格好を気に入ってくれてるからな……
「え、えーと、Mさんって“食屍鬼”さんですよね。それなのに、なぜ人間に変身してるのですか? 自分の意思で“食屍鬼”には戻れないみたいですし……」
「人間と魂を共有した代償さ。よく熟した人間の死肉を一人分食べて、やっと小一時間“食屍鬼”に戻る事ができる。他の生き物の死肉でも戻れるが、せいぜい数秒が限度だ。不便な話だぜ、まったく」
「人間と魂を共有した……?」
「詳しく話すと長くなる」
何だか急に聞きたがりになったねぇ、S君。
「そ、それじゃあ……なぜ“食屍鬼”さんがこの国で退魔師さんをやっているのですか? ぼくの記憶では地球の“食屍鬼”はみんなドリームランドへ――」
「言い難い事をはっきり聞いてくれるじゃねぇか」
「あ、え、その、ごめんなさい……」
「別にいいさ。さっきの人間と魂を共有した話とも絡めて教えてやるよ」
お茶を一口啜ってから、俺は子供に夜伽話を聞かせるように語り始めた――
――俺も始めから退魔師なんてヤクザな商売やってるわけじゃない。これでも昔は純情可憐な花も恥らう乙女だったんだぜ。
「ははは」
そーこーはーわーらーうーとーこーろーじゃーなーいーだーろー!!
「いひゃひゃひゃひゃひゃ!! ごふぇんなふぁあい!!」
ゴホン……で、昔から月夜の墓場とかが大好きだった俺は、気が付いたら人間から“食屍鬼”になっていたわけだが――
「い、意外にいいかげんな理由で邪神の仲間入りしたんですね……」
それを言うな!!(ごつん!)で、地元の墓場で運動会したり、試験もなんにもない“食屍鬼”生活をエンジョイしていたんだが、その頃、手痛い失恋って奴をしてな……
「痛たたた……え、Mさんにも、失恋するような時代があったんですね」
どういう意味だそれは!!(がつん!)心に傷を負った俺は、傷心旅行も兼ねて世界中を旅していた。だが、100年前にここ日本でドジこいてな。ひょんな事から“平太”って人間の男と魂を共有する羽目になっちまったんだ」
「あうあう……な、何だか肝心な所を説明していないような気が……」
(ぽかっ!)意外にツッコミ体質だなS君……魂を共有した者同士は、どちらかが死ねばもう片方も同時に死んでしまう。どんなに無敵の力を振るおうとも、片割れを殺されたらその場で御陀仏だ。おまけに共有化の副作用で、死体を食べない限り人間の肉体に変身してしまう体となった。俺は世界で唯一、人間にも普通に殺せる邪神になっちまったのさ。」
「…………」
ごちん!
「はうっ! ぼ、ぼく、何も言ってないのにぃ……」
いや、その目が『何てマヌケな邪神なんだろう』って言ってた。絶対。
とにかく、それがバレた俺と平太は、世界中の組織から命を狙われた。本来、人間は邪神の脅威の前では身を震わせるだけしかできないんだが、相手が『人間にも殺せる邪神』なら話は別だ。そんな半端者が堂々と地上を闊歩するのを見逃してくれるほど、世の中は甘くないって事だな。俺自身はどんな刺客が来ても平気だが、平太は普通の人間だ。守りきるのも限界が来て、いよいよ二人揃ってあの世逝き……って所で、手を差し伸べてくれたのがクソジジ――闇高野最高指導者の大僧正だった。自分達の退魔業を手伝う代わりに、平太の身の安全を保障してやるって話を持ちかけてきたんだ。何の事はねぇ。要約すれば『平太の命が惜しかったら奴隷になれ』ってわけだな。だが、選択の余地はなかった。哀れ、魂の片割れを人質に取られた俺は、他の“食屍鬼”のようにドリームランドに移住する事もできず、許可が無い限りは人間の姿でいる事を強制され、人間どもの奴隷という境遇に堕ちたのでありました。
「…………」
今度こそ、S君は無言だった。その瞳には同情と哀れみが入り混じった光が宿っていたけど、それを厭味に感じさせない何かがあった。やはり美少年は得だな。
「まぁ、闇高野の使いっぱしりの立場は、数十年前に退魔師を引退する形で解消されたんだが……例によって今回こうして担ぎ出されたわけだ。後はS君の知る通りさ」
「で、でもそれじゃあ……その平太さんが闇高野の人に殺されちゃったら、Mさんも……」
「そういう事だ。今、この瞬間にポックリ逝っても不思議じゃないんだぜ。そうなったら、まぁ、勘弁してくれ」
「そ、そんなぁ……!!」
S君は本気で泣きそうな顔をした。俺の身を案じているのか、その後の自分を心配してるのかは微妙なところだが。
「そんな顔をするなよ。たぶん大丈夫だから」
「え、しかし、それは……」
大丈夫と断言するのにはそれなりの根拠があるんだが、それをS君に説明するのは躊躇われた。余計な心配をさせる事が見え見えだからだ。
「大丈夫といったら大丈夫なんだよ!(ごつん!)はい、この話はおしまい!!」
「はいぃ!!」
だから、この話は多少強引にでも終わらせる事にする。うん。
「……それなら別にゲンコツは必要無いじゃないですかぁ……ううぅ」
やっぱりツッコミ体質だな、この子は。
《明日の深夜2時に日本上空を通過する破棄された実験用宇宙ステーションについて、合衆国政府は『落下地点は太平洋の無人海域であり、環境に及ぼす影響は皆無』との見解を示しています。それについて落下地点周辺の島国は――》
「…………」
「…………」
それからしばらく無言でお茶を啜り、塩羊羹を頬張る時が流れた。最近ガタが来たテレビにはつまらないニュース番組が映っているが、当然俺は見てないし、S君も番組を見るふりをしながら、ちらちらとこちらに話しかけるタイミングを伺っているのが良くわかる。
俺は軽く溜息を吐くと、塩羊羹の刺さった爪楊枝をぷらぷらと振って見せた。
「それで、次は何を聞きたいんだ? スリーサイズなら上から105・59・91だぞ」
本当はウエスト62なのはナイショだ。
最初から薄々分かっていたんだが、この子がさっきから俺にやたら質問しようとしているのは、何でもいいから、とにかく俺とコミュニケーションを取りたいからだ。ただ見た目通りの気の弱さから、こうして中途半端に様子を伺う段階で終わってしまうのだろう。やはり、記憶を失ったまま一人異郷の地に放り出されるというシチュエーションは、お子様には荷が重過ぎるらしい。
それなら、こちらから歩み寄ってやるのが大人ってものだろう。
S君はしばらく例によってオドオドしていたが、やがて意を決したように口を開いた。
「あ、あのぅ……聞きたい事とは違うのですが……その、お願いしたい事が……」
「何でもいいから言ってみな。言うだけならタダだぜ」
「ええと……それが……その、あの、実は……」
「男だったら一度決めたら貫き通せ!!」
「はぁいっ!! え、え、Mさん! その『俺』っていうの止めてもらえないでしょうか!?」
「……は?」
ぽかんと口を開く俺とは対照的に、S君は黙り込むように俯いてしまった。
「だって……Mさんみたいな綺麗な女の人は……俺なんて言わなければ……その……もっと魅力的だと……」
ぎゅむっ
「うひゃあ!?」
光の早さでS君の背後に回った自分は、力いっぱい彼の身体を抱きしめた。
あ〜〜〜!!! も〜〜〜!!! 可愛い事言ってくれちゃうなぁこの子はぁ〜〜〜!!!
うん、了解。それじゃ今後俺――じゃないあたしは、一人称を『あたし』に変えます。ほら、あたしはあたしだよ。うむうむ。
うふふふふ……それじゃあ一人称変更記念に、もっと積極的にS君と『コミュニケーション』を取ってみようかなぁ……ふふふのふ。
「S君、そろそろお風呂に入ろうか?」
「え?」
「ふひゃああん……あああっ…あっ……」
「うふふ、ここも気持ち良いのかなぁ?」
白い湯気の充満する風呂場のタイル床の上で、あたしはS君と絡み合っていた。
全身石鹸の泡だらけになったあたしの裸身を使って、S君の身体を隅々まで『洗って』あげると、S君は泣きそうな顔で悶え、嬌声を漏らし、全身で喘いで、快楽に打ち震えてくれた。白くて艶やかな首筋に舌を這わせて、薄い胸板を掌で撫で回し、自慢の巨乳で背中を洗い、太もも同士を絡め合って、ペニスというには可愛らし過ぎるおちんちんを玉袋ごとマッサージしてあげると、
「え…Mさぁん……ぼく…ぼく……あああぅん!」
うるうるした瞳で見つめながら、こんな可愛い声で鳴いてくれるんだよこれが! あー!! もうたまらないぜぇ!!
「ぼくぅ…あうぅ……ぼくぅ……何だか…変に……ひゃうっ!…なっちゃいますぅ……」
「うんうん、それじゃあ、もっと変になっちゃおうねぇ♪」
あたしはS君の両足を広げると、ぴくぴく震えるおちんちんと御対面した。痛そうなぐらい勃起していても、あたしの人差し指ほどの長さもないおちんちんは、先端までしっかり包皮で隠されている。ふっと軽く息を吹きかけるだけで、ピクンっと生き物みたいに跳ねた。可愛い♪
「ああぁぁ……ぼ、ぼくのそれを……どうしちゃうんですかぁ……」
「ふっふっふ、ここはおねーさんに任せなさい」
S君のおちんちんを指先でそっと摘み、十分に勃起しているのを確認したあたしは、十分に唾液を溜めた口の中にそれを導いた。
「きゃうん!」
たまらず甘い声を漏らすS君の腰をしっかり押さえて、舌先で器用に包皮を剥いでいく。ある程度緩んだところで、唇を使って一気にカリ首まで包皮を剥いた。
「痛っ!!」
「ゴメン、痛かった? 大丈夫?」
「だ、大丈夫です……ああうぅ……」
涙ぐんだ声で傾く健気な姿に感動したあたしは、カリに溜まった痴垢を綺麗に舐め取り、
「でも、これで大人のペニスになったね。このまま精通も迎えてみようか」
勝手にS君を未精通だと決めつけて、いよいよ本格的にイジメてあげる事にした。
ほらほら、こんなのはどうかな〜?
ふにゅっ
「ひゃわぁん!!」
悲鳴を上げて身体を仰け反らせるS君。
ふふふのふ。初めてのS君に、あたしの超ボリューム満点のオッパイを使ったパイズリは刺激が強過ぎたかな?
勃起しても小さなS君のおちんちんは、あたしの胸の谷間に完全に隠れてしまっている。それにしても、ただ挟んだだけでここまで反応してくれるなんて、ああ、ホントに可愛いねぇ〜♪
「ほらほら、まだまだこれからだぜ〜」
「あああっ! あうぅん! き、気持ち…良いです……ぅぅううっ!!」
左右の乳房を揉み解すように刺激を与えてやると、S君はより大きく喘いで見せた。
……ううぅ……とはいっても、乳が性感帯なあたしにとって、パイズリは諸刃の剣なんだよなぁ……普通、乳のでかい女は胸の感度が悪いって言うのに、あたしの場合は身体中で一番感じるのはなぜなんだろう……ああっ……もう乳首が痛いくらい立って、乳輪が膨らんじゃって……ひゃうっ! ……ああ……また母乳が出ちゃった……S君のお腹がミルク塗れだ……あふぅ!!
自分がイキそうになるのを必死に我慢して、あたしはより淫猥に乳房を擦り上げた。
「くふうぅぅ……な、何だか変ですぅ……出ちゃう…何か出ちゃいますぅぅ!!」
「……んっ……ほら、出しちゃいなさい♪」
「んぁあああああっ!!!」
S君があたしの頭をぎゅっと抱き締めると同時に、乳房の間から純白の熱液が溢れ出て、あたしの顔をたっぷりと汚してくれた……ああっ……ちょっと自分もイっちゃったかも……
「うふふ、精通おめでとう……たっぷり出したわね」
頬を伝う精液をぺろりと舐め取って、あたしは妖艶に微笑んだ。
「……ああぁ……ご、ごめんなさい……」
「謝る必要はないわよ。それにしても……まだまだ元気そうだね」
出したばかりだというのに、S君のおちんちんはピクピク震えながらも立派にそそり立っている。うんうん、若いっていいなぁ。
「どう? このまま童貞も卒業してみようかな?」
S君は顔を真っ赤にして喘ぎながらも、こくりと頷いて見せた。
ううう……こんな可愛い男の子の精通だけじゃなく、童貞までいただけるなんて……もぅお姉さん感動のあまり、考えただけでイキそうだよぉ♪
歓喜に打ち震えながらも、優しくS君を仰向けに寝かせたあたしは、天を向く小さな可愛いペニスの上に腰を落として、ヴァギナへと導こうと――んっと、あれ? 小さ過ぎて上手く入れられな……よし。
「じゃあ、いくわよ?」
「ああぅ……お、お願いします」
息を荒く吐きながら、怯えるように小さく震えるS君の表情に満足したあたしは、そのまますとんと、腰を落とした。
「きゃうん!!」
「ん……」
たちまちS君が歓喜の悲鳴を漏らす。根元まで一気に突き刺さってるペニスを膣口できゅきゅっと絞めてあげると、あたしの身体を持ち上げそうな勢いで腰を浮かし、快楽のサインを教えてくれた。
まぁ、正直言ってS君のおちんちんはあたしには小さ過ぎて、ただ入れてるだけじゃあまり気持ち良くないんだけど、こうして極上の美少年を“犯す”というシチュエーションは、何よりも背徳的な喜びをあたしに与えてくれる。ちなみに、決してあたしのアソコがガバガバってわけじゃないからな!! 物理的にS君のおちんちんが小さいだけだぞ、コラ!!
「んはぁああああっ!! あああ……ぁああっ!!」
「うふふ……どんな感じかな?」
「なんだか…ああう……気持ち良過ぎて……っはあ! 頭の中が…真っ白にぃぃ……」
騎乗位とはいえ、下手に腰を動かすとペニスが抜けそうなので、三段絞めなどヴァギナの動きでS君のペニスを苛めてあげる。ほんの数秒大人のテクニックを見せてやるだけで、たちまちS君は再び昇り詰めようとしていた。
「ああああぁぁぁ……Mさんっ! えむさぁあん……!!」
「いいわよ、ほら、イっちゃいなさい」
「出るっ……出ちゃうっ!!……あふぅうううううん!!!」
ビクビクっとペニスが痙攣すると同時に、あたしの中に熱いザーメンが解き放たれた……
精魂尽き果てたようにぐったりとするS君の頬を、あたしは愛しそうに撫でた。
「はぁ……はぁ……はあぁ……」
「ふふふ、どうだった? 童貞卒業の感想は?」
「はくしゅん!」
返事は可愛いくしゃみだった。
そういえば、風呂場で裸のままもう数十分経っているんだった。このままじゃ湯冷めしちゃうな。よし、場所を変えて第二ラウンドといこうか♪
あたしはS君をお姫様抱っこすると、意気揚揚と寝室へ足を向けた。
……何だか立場が逆のような気もするけどな……
「……Mさん……んはぁああ……Mさぁん…えむさぁぁん……」
「うふふふふ……」
それしか言葉を知らないように名前を呟きながら、乳房にキスの雨を降らせるS君の背中を、あたしは優しく撫でた。
古臭い裸電球が照らす殺風景な畳敷きの寝室も、こうして布団の上で正面から繋がりながら抱き合っていると、淫靡で蠱惑な快楽の園に見えてくるから不思議だ。
「ふわぁあああ……Mさぁん……おっぱい飲んでいいですか……」
「甘えん坊さんだなS君は」
あたしとS君の身長差だと、正乗位のまま抱き合うと丁度S君の顔の正面にあたしの胸が当たる。まるで赤ん坊に授乳するような気分で、S君に乳首を捧げた。
ふっふっふっふっふ、これで完全にS君は堕ちたな。
別にS君を快楽で虜にして利用しようとか考えてるわけじゃないけど、何せ相手は『邪神』だ。気は許しても完全に油断するわけにはいかない。こうして心理的に主導権を握る立場になれば、今後も何かと便利になるだろう。
「んはぁ…ぴちゃ…んんぅ……」
「……んんっ……」
あっ……ううっ、ちょ、ちょっとおっぱい飲み過ぎだよS君……あたし、胸が弱いんだから……くうっ!
やばい、ちょっと本気で感じてきちゃったかも……ああっ! 空いてる方の乳を……揉むなぁ……っ!
「ああっ……あふぅ…ん……こ、こらぁ…Sくぅん……」
抵抗の声は自分の耳にも届かないくらい小さかった。
今やS君は明確な態度で乳肉を愛撫し、舌で乳首を舐め絡めている。そのツボを押さえた巧みな愛撫に、あたしは本気で感じ始めていた。
「ちょっと…ああっ!……え、S君ってばぁ……っ!!」
「どうかしましたか?」
その声を聞いて、頭を上げたS君の顔を見て、正直あたしは息を飲んだ。
S君は……こんなに明朗に話す子だった? あんな顔で笑う子だった?
見る者全てを血と快楽で縛り、魂の奴隷とする邪眼――そう、それは『吸血鬼』の瞳だった。
「S君……だよね?」
「ああ、ごめんなさい。さっきからぼくばかり気持ち良くなってばかりですね。Mさんにも満足してもらわなくては、ね」
あのオドオドビクビクしていたS君は夢であったかのように、このS君は自信と活力に満ち溢れていた。
「Mさん、ちょっとだけ縛っていいですか?」
……はい?
「ななななな、何を言ってるのかにゃあああっ!!」
「いえ、Mさんの白い肌って荒縄が良く栄えると思うんです。ねぇ、お願いですからぁ〜」
そ、そ、そんな台詞を言いながら胸を揉むなぁ!! ち、乳首をコリコリ弄るなぁ……っ!!
もちろん断るつもりだったのに、思わず頷いてしまったじゃないか……バカぁ……
一体どこでそんなワルイコトを覚えたのかとツッコミ入れたくなるほど、S君の拘束術は巧みだった。亀甲縛りの変形だろうか。全身を蜘蛛の巣のように荒縄が縛り付けているものの、胸元は強調するように強く搾って、股間も剥き出しになっている。足は自由に動くが、腕は後ろ手に縛られて全く動かせない。少しでも身体を動かすと荒縄が肌に食い込み、適度な苦痛と圧倒的な拘束感を与えてくれた。
自分の体から『自由』が無くなる不安と苦痛、そして屈辱――
――あれ? な、何だか身体の奥がじんじんと熱くなってきたような……
ただこれだけで、自分の息が自然に荒くなっていくのがわかる。まるで風邪を引いたように、全身が熱く火照ってきた……
そんなあたしの様子をニヤニヤしながら見ていたS君は、
「ぼくの小さな性器では、Mさんは満足できなかったでしょう。申し訳ありませんでした。お詫びに、これでたっぷり満足させてあげますね」
そう言ってあたしの前に見せ付けたのは、大量のローターにバイブの数々……って、オイコラ!!
「ど、どこからそんなもん持ってきたんだー!?」
混沌と不条理の化身、ぶっちゃけ『何でも有り』な邪神の一族に対して、そんな無粋なツッコミを入れてしまったのは、あたしが所詮は人間出身の邪神である証拠かもしれない。
S君は邪気たっぷりに無邪気な笑みを浮かべると、あたしの両足をM字開脚に開いて、遠慮無しに覗き込んだ。
「うわぁ、よく見てなかったんですけど、女の人ってこんな形をしているんですねぇ」
「あああ、あんまり見るなコラ! 触るな! 息を吹きかけるなぁ……!!」
「今更何を言ってるんですか。いきますよ」
くちゅ
「やぁん!」
くそっ、うっかり可愛い声出しちまった……
さっきまでのS君とのままごとみたいなセックスで、すっかり熟したアソコには、もう愛撫は不用と見たのか、いきなりS君はローターをヴァギナの中に挿入してくれた。それも一個や二個じゃない……って、そんなに入れちゃダメだってばぁ!! ひゃうっ!! あ、アナルにまで入れちゃやだぁ!!
「……こ、こらぁSく…ぅん!! だめ…ああうっ!!」
「ははは、ずいぶん沢山入るんですね……じゃあ、次はちょっとキツいですよ」
え? ななな、何を……ひぐっ!!
激痛――しかし決して苦痛ではない痺れるような痛み――オシッコの感覚を数百倍にしたような刺激の正体は、尿道の奥まで一気に挿入されたスティックバイブだった……
声も出せずにぱくぱく口を開くあたしを尻目に、S君の『お詫び』は着実に進行していく。
ずにゅ!!
「きゃあああんっ!!」
バイブが、おっきなバイブが、ろ、ローターをかき分けながらアソコの中に……ふ、深いよぉ……ぅぐう…アナルにも入れるのぉ……く、苦しい……あああっ……
もう髪の毛一本も入らないくらい、あたしのヴァギナとアヌスはローターとバイブで埋め尽されちゃった……
最後に、飾付けのように余ったローターを陰唇やクリトリスの上下左右に貼りつけて、ようやくあたしを苛める凶悪な淫具の数々は在庫切れになった……みたい。
まだスイッチも入れてないのに、下半身がドロドロに蕩けるような刺激が止まらない……もし、スイッチが入ったら……あたし、狂っちゃうかも……
しかし、それでもまだ終わりじゃなかった。
S君は残酷に飾り付けられたあたしの股間に顔を埋めると、もうビンビンに立ってるクリトリスの包皮を剥いてくれた。そのまま舌先でチロチロと愛撫されちゃって……
「あふぅん……」
頭の中が蕩けそうな甘い刺激……でも、それは、
ぐぢっ!
「ひきゃぁあああああああっっっっっ!!!」
一瞬で凄まじい激痛に変わった。
痛い、痛い、いたい、いたい、いたいよぉ……ひっく……なにをしたんですかぁ……Sくぅん……
「すみません、ちょっとクリトリスに穴を開けさせてもらいました。僕の歯で、ね」
にんまりと笑うS君の唇から、あたしの鮮血が滴った。
「動かないで下さいね。ちょっとリングピアスを付けるだけですから」
いやぁ……そんなの嫌ぁ……そんな事されたら、あたし、もう戻れなくなっちゃう……
すんすんすすり泣くあたしを尻目に、銀色のリングピアスはしっかりと装着された。
「ひっく…ひっく……いやぁ……」
「あああ、そんな泣いちゃダメですよ。ほら、すぐに痛み止めしてあげますから」
笑顔でそう言ってくれたS君は――一気に全てのローターとバイブのスイッチを入れた。
「んぁはああああああああ―――!!! ダメっっ!! し、刺激が強過ぎ……止めてぇぇぇぇぇ!!!」
下半身が爆発したかと思った。全てのローターとバイブがあらゆる種類の快楽で、あたしの身体と精神を蹂躙する。何が痛みで何が気持ちいいのかもわからなくなったあたしは、絶叫しながらガクガクと痙攣する事しかできなかった……
ぷしゃああああああ……
あああぅん……おしっこ……出ちゃった……S君笑ってる……あんな子供に笑われてる……でも、気持ちいい……気持ちイイんです……あああ、イっちゃう、またイっちゃう!! ひゃああああああああん!!!
まるで男の人の射精みたいに、あたしのおっぱいから母乳が吹き出ちゃいました……
「おやおや……じゃあ、次はおっぱいを苛めてみます。いいですよね、Mさん?」
「は、はいぃ……お願いしますぅ」
まだ止まらない下半身の激流に、あたしは夢うつつのまま答えた。答えてしまいました。
ぴとっ
「きゃん!」
突然、母乳で濡れた乳首に走った刺激――熱い!!……いえ、冷たい!?
それは白い氷の塊でした。
「さっきはすみませんでした。今度はちゃんと冷やしてからやりますね」
今まで体験した事のない刺激に、あたしはその言葉の意味を測り損ねていました。
づぶっ!
「ひゃぐぅううう……!!」
だから、さっきのクリトリスと同じように、S君の牙で乳首に穴を開けられても、あたしは悶絶する事しかできません……
ひゃううぅ……気持ちいいよぉ……痛いのに気持ちいいよぉ……さっきはあんなに痛かったのに、おっぱいだとどうしてこんなに気持ちいいのぉ?
頭の中が真っ白になっている間に、あたしの両乳首には銀色のリングピアスが輝いていました。滲む血が母乳と混ざり合って、乳房を赤と白のマーブルに染めていきます。
「ううぅ……酷いよぉ、Sくぅん……ひゃあああん」
「嫌ですか? それならいつもの様に、ぼくをゲンコツで黙らせればいいじゃないですか。なぜそうしないのですか?」
血と母乳が滲み出る乳首に、ねっとりと舌を絡めながら、逆にS君は聞き返しました。
「……え? あの、その、それは……」
「大人だったら、はっきり言うッ!!」
ぐいぃ!
「きゃああああああぁん!!!」
今までで最大級の痛みと快感があたしを襲いました。いつのまにか乳首とクリトリスのリングピアスに糸を結んでいて、それを思いっきり上に引っ張ったんです。限界以上に引き伸ばされた乳首とクリトリスは今にも千切れそうで、あたしは力の限り腰と背中を浮かして抵抗する事しかできません。
「ひぎぃぃぃ……いひゃい…あはぁぁ!! だめ、ダメよSくふぅん……!!」
「それでは、はっきり答えてくれるまで、この大きなおっぱいを苛めてみましょうね」
S君はそのまま糸を天井に繋げてしまいました……あぐぅぅ……痛いよぉ……
「えす……くぅん! んぁああうううっ!! 止めてぇ……苦しぃのぉ……」
「うるさいなぁ、これでもしゃぶってて下さいよ」
むぐぅ……口の中にS君のおちんちんが入ってきます。あたしは言われた通りに、頑張ってフェラチオを始めました……あたし、良い子でしょ? だからお願いします……もっと優しくしてぇぐうぅ!!
ぱぁん!
打たれた! おっぱいを打たれた! S君が容赦なく引き伸ばされたおっぱいに平手打ちをします。その度におっぱいが左右にぶるぶる揺れて、乳首が千切れそうになって、乳房に赤い掌の痕が次から次へと――!!
ぱぁん! ぱぁん! ぱぁん! ぱぁん!
「ふぐぅ!! ふひゃああんっ!! いひゃい!! いひゃあああ!!!」
「ははははは、打楽器みたいで面白いですね」
おっぱいへのスパンキングは、たっぷり一時間は続きましたぁ……
「……ひぐっ……うううっ……えぐ……ひっく……」
「大人なんだから泣いちゃダメですよ」
真っ赤になったおっぱいは、いつもの倍くらい腫れ上がっちゃいました……あうううぅ……もうダメぇ……おかしくなっちゃうよぉ……
「こんなに赤くなっちゃって……それでは、もっと赤くしてみましょうか」
いやぁ……やめてぇ……お願いしますぅ……
涙を流しながらの懇願も、S君のおちんちんで言葉になりませんです……あがぁ!?
ぼたぼたぼたぼた……
熱い!! 熱い!! 熱い!! 熱いぃぃ!!!
「ほらほら、全体に満遍なく真っ赤にしてあげますからねぇ」
S君が赤い蝋燭に火をつけて、熱く溶けた蝋をあたしのおっぱいに雨みたいに降り注いでいきます!! 真っ赤なしずくがおっぱいに当たるとじゅっと広がって、すぐに固まっておっぱいを覆っていくのぉ……
「いひゃああぅうううう……あふい! あふいれふぅぅぅ!! んぐぅぅぅぅ……!!」
「あんまり暴れると、乳首とクリトリスが本当に千切れちゃいますよ……あはは、何だか真っ赤な塔みたいですね。どれくらい高くなるかな?」
「……取って…とってぇぇぇ!!……あつぃのほぉぉぉ!!」
「仕方ないなぁ、じゃあ取ってあげますよ」
ぴしぃ!!
「――ッ!?」
あまりの痛さに言葉もでませんでした。
ぴしっ!! ぴしぃ!! びしっ!! ぴしぃ!!
鋭い刃物で切られるような、閃光的な激痛――
「はぐぅうううううう!!!」
「なんですか、せっかくお望み通りに蝋を取ってあげてるのに」
S君は少し唇を尖らせると、また乗馬鞭を振りかざしました。
ぴしっ!! ぴしぃ!! びしっ!! ぴしぃ!!
「ひぎぃ!! あひゃぅ!! いひゃあ!! あはぁああっ!!」
おっぱいから真っ赤な蝋が弾け飛ぶと、その下から赤い筋の走った赤く腫れた乳房が顔を出します……どこまでも真っ赤に染まっていくあたしのおっぱい……あたしの頭の中も真っ赤っ赤になっちゃって、胸の痛みとバイブで責められるアソコの気持ち良さがぐちゃぐちゃに混ざって、何が痛くて何が気持ち良いのかもわからなくなっちゃって――
ぼたぼたぼたぼた……
「熱ぁあああッッッ――!!!」
「蝋は全部取れましたよ。それじゃあ、また蝋燭の続きから――」
「いやぁああああ……」
おっぱいを灼熱の蝋が覆い隠して、それを乗馬鞭が叩き落す――その繰り返しが延々続きましたぁ……
「――どうですか? そろそろあの質問に答えてくれてもいいと思いますが」
数時間後……あれから有刺鉄線で縛られたり、唐辛子の絞り汁を塗られたり、乳首に電流を流されたり……たくさん、たくさんおっぱいを苛められたあたしは、もう返事をする事もできませんでしたぁ……
ぷるぷる痙攣しながら乳首から断続的に母乳を吹き出す事しかできないあたしに、S君は冷たく輝く“それ”を見せてくれたの……
長さ30cmを超える、十数本の鋭い針を……
「いやぁああ……やめてぇ……いやぁ……」
S君が何を考えているのかよくわかります……やめてぇ……こわい、こわいよぉ……
「今更何を怯えているのです? さっきまでおっぱいを散々苛められながら、あんなに何十回もイってたのに」
「……違うのぉ……それは……アソコの…バイブが……気持ち良くってぇ……」
「何言ってるんですか。もうとっくの昔にバイブもローターも抜いてありますよ」
……え?
「気がつかなかったんですか? Mさんは乳首とクリトリスを吊られたまま、ずっとおっぱいを拷問されるだけでイキまくっていたんですよ」
「あああ……ぁあああ……ああぁぁ……」
……ぁぁあああ……あ……あはぁ♪
やっぱりそうだったんだぁ♪
「もう一度聞きます」
S君はあたしのおっぱいを針で突付きながらぁ、にっこりと笑いましたぁ。
生き血を啜る悪鬼の笑みで――
「どうして、こんな酷い事をされてるのに抵抗しないのですか?」
「……気持ち良いから……苛められるのが、痛いのが気持ち良いからなのぉ……!!!」
あたしも、それに負けないくらい一生懸命笑いましたぁ。
歓喜の涙を流しながら笑いましたぁ……
「はい、正直に言えましたね……では、次の質問……この針をどうしてほしいですか?」
「刺してぇ!! その針であたしのおっぱいを貫いてくださいぃぃ!!!」
S君はとってもいい子です。すぐにあたしの言う通りにしてくれましたぁ……
「あぎゃあああああああ――!!!……ぁ♪」
「――さて、そろそろとどめを刺して上げましょう」
1めーとるくらいの高さに、一本のロープが水平にはられましたぁ……ろーぷにはこぶがたくさんあって、とってもとってもきもち良さそうです♪
あたしはそれをまたぐように言われましたぁ……おまたにロープがくいんで、とってもとってもきもちいですぅ……爪先立ちでたたないと、足が床にとどかないのでぇ、すっごく食いこむんですよぉ……
「それじゃあ、出発進行!」
Sくんはぁ、クリちゃんとちくびちゃんに繋いだ糸をひっぱりながら歩きだしましたぁ……ひゃあん♪ くりちゃんと乳首ちゃんをひっぱられてぇ、あたしはあわててあるきましたぁ……うぅん…ぁはあぁ……つまさきだちなので早くあるけませぇん……歩くとロープがこすれてぇ、コブがアソコをひっかいてぇ、とってもとってもきもちいいのぉ♪ でもぉ、いちばん気持ちいいのはひっぱられてるクリちゃんとちくびちゃん! ちくびちゃんが引き裂かれそうになっちゃってぇ、血とおっぱいがだらだらぽたぽたきもちいいのぉ♪ あああっだんだんあるくのがはやくなってきたぁ……あるくのが追いつけないよぉ……クリちゃんがぁ…ちくびがひっぱられてぇ……もう…もうおいつけないよぉ……おまたが気持ちよくってちくびがきもちよくって倒れちゃいそう…ああっあっもうだめいたいいたいきもちいいきもちいいいたいきもちいい良いイイイイよぉ!!!
「あああああ―――ッ!!!」
ぶちん!!
「――さん! Mさぁん!! しっかりして下さい!!」
脳内麻薬に快楽物質バリバリな時間は、唐突に終わった。
どうやら気絶していたらしいあたしは、S君に揺り動かされて目を覚ましたものの、
「……あはぁ…Sさまぁ……もっと苛めてくださ――って、うおわぁ!?」
自分の状況に気付いて慌てて飛び起き――飛び起きようとして、思いっきりずっこけた。
「だ、大丈夫ですか!?」
いてて……縛られているのを忘れてた。
どうやら快楽のあまり気絶した事が、逆に理性を取り戻す目覚しになったらしい。
それにしても……あんなプレイまでしちまうとは……さ、流石に照れくさいというか穴があったら入りたいというか……
「ごごごごめんなさい!! ごめんなさい!! ぼ、ぼ、ぼく、どうしてあんなに酷い事をしちゃったんでしょうか!?」
S君はまだ取り乱したままだけど、どうやら普段の気弱なS君に戻ったようだ。
――これは後でわかった事だが、母乳と血液は成分的にはほとんど同じという事を忘れて、うっかり母乳を飲ませたのが、あのS君の性格変貌の元凶らしい。生き血がS君の吸血鬼としての本性を増大させて、あのサディスティックな人格を生み出したわけだ。うーん、食事に血を出さなくてよかった……とにかく、これからS君に生き血(と、それに該当する物)は厳禁だな。うん。
……まぁ、ほんのちょっとなら、また苛めて欲しい気もするけど……
「ごめんなさい!! ごめんなさい!! ごめんなさい!! ごめんなうごぁ!?」
両手が使えないので、とりあえず踵落としでS君を黙らせる。
「いいから、早く縄をほどく!!」
「あうあう……は、はいぃ!!」
慌ててあたしのロープを解こうとするS君を見て、ベッドの上ならともかく、日常生活ではとりあえず主導権は奪われていない事を知り、あたしは安堵の溜息を吐いた。
――からんからん……
「…………」
――からんからん……
「……Mさん、お客様みたいですよ」
「ううぅ……誰だこんな時間に……」
布団から身体を起こし、目を擦り擦り柱時計を見ると、午前二時を指していた。
あれから自分の身体を治療して、荒れ放題の部屋を片付けて、やっと寝付いたばかりだというのに……睡眠の概念が無いS君はともかく、人間としての習慣が身に付いたあたしは、ちゃんと夜に睡眠を取るんだぞ。ふざけやがって……
とにかく、こんな時間に呼び鈴鳴らすなんざ、ろくな奴じゃない事は確かだ。
「S君、あたしの背中から離れないようにな」
「は、はい」
寝巻の襟を整えながら、あたしは玄関に足を運んだ。
――からんからん……
「どちらさまですか?」
酔っ払いだったら一発かましてやると心に誓いながら、あたしは物静かに玄関の向こうへ声をかけた。
「山田平太さんのお宅ですか。こちら退魔機関の者ですが」
普通なら何の躊躇いもなく110番するだろう返事に、あたしはガラス戸を蹴り開ける事で応じた。同時に発射した針は、狙い違わず向いの人影に――
……ふっ
「!?」
――命中する直前、針は空中に溶けるように消滅した!?
「酷いわねン、敵対するつもりが無いから、奇襲もせずにこうして正面から来たんじゃない」
巨大な腹が――じゃない、巨大な人影が野太い声を放った。どんな狂暴なヤクザも尻尾を巻いて逃げ出しそうな迫力のある声なのに、どんな泣き虫の子供も笑いかけるだろう愛嬌のある声だ。
巨大な筋肉の塊を、より膨大な脂肪の塊で包み、無理矢理人間の形に押し込めたような巨人だった。身長は2mを軽くクリアし、体重は300kgを超えかねない。一目でイスラム圏の人間とわかる民族衣装は、今にも内側から弾け飛びそうだ。ターバンを巻いた頭の下には、子供が見たら絶対トラウマ間違いなしの狂暴な髭面が鎮座している。
でも、その瞳には限りない優しさと確かな理性があった。
「Mちゃん久しぶりねン♪ 元気してた?」
ばっちんと音が聞こえるくらい濃厚なウインクを送った相手には、確かに見覚えがある――最悪な事に。
イスラム圏最大の退魔組織『アズラエル・アイ』所属の最上級戦闘退魔師――
世界最高位の『砂使い』――
その実力は組織でも三本の指に入るという、世界最強の退魔師の一人――
「……アルタン・ボブロフ中尉……ッ!!」
あたしは戦闘用装備を封印していた魔法針を発動させて、一瞬で黒袈裟に錫杖という退魔師スタイルに変身した。間髪入れずに、錫杖の突きを叩き込む。狙い違わず、先端の尖った錫杖の穂先は深々とボブロフ中尉の心臓に突き刺さり――それだけだった。
押し込めない!?
抜けない!?
「もう、乱暴ねン。アタシは戦う気はないって最初から言ってるでしょ?」
思わずずっこけそうなくらい緊張感の無いオネエ言葉で、髭モジャの大男は口を尖らせた。
「口先だけで信用する馬鹿だと思ったか?」
「だったら呪いの針でも何でも刺してみたら? アタシが敵対したらすぐにでも殺していいわよン」
言ってくれるぜ。ならお望み通りにしてやろうじゃねぇか。
すぐに吹き出した呪い針は、真っ直ぐにボブロフ中尉の額に突き刺さり、ずぶずぶと埋没して消えた。これで奴が敵対した瞬間、その魂は跡形も無く消え去るだろう。
「なぜお前がここにいるんだ? お前の縄張りは西アジアだろうが」
「最近は退魔師も人手不足なのヨ。アタシもこんな極東の地に召集されるとは思わなかったわン」
大僧正の言葉が頭に思い浮かんだ。
だが、単なる人手不足なだけで、こいつほどの大物を呼ぶとは思えねぇ。
「ツァトゥグア神の『接触者』の話は知ってるでしょ? アタシはそれ絡みでこの国に来たわけヨ。でも、その前にちょっと闇高野の大僧正サマにお願いされちゃって。モテる男はつらいわねン♪」
だーかーらーウインクやめい!!
「あ、あのぅ……お客様ですか?」
その時、トンチンカンな事言いながらS君が恐る恐る背中から顔を出したが、ボブロフ中尉が笑顔で手を振ったら、すぐにまた背中の陰に消えてしまった。
「あれが例の“星の精”くんね? なかなかカワイイ子じゃなイ♪」
陽気な口調とは裏腹に、奴の瞳に今までと違う種類の光が宿った。
「もう、ダメじゃない。迷子の邪神さんを保護したら、ちゃんと上に連絡しなくっちゃン」
「断る。あたしはもう御山に戻れる立場じゃねぇんだよ」
「ワガママなんだから、もう……それとも、それも邪神特有の人間には理解できない異次元の思考ってやつかしらン?」
「てめぇ……」
思いっきり睨みつけてやると、ボブロフの野郎は慌てた調子で両手を振った。バナナかグローブみてぇな手の平だ。
「気を悪くしたらごめんなさい。でも信じてン。アタシは邪神さんに対しては穏健派なんだから。別にMちゃんや“星の精”君と敵対しようとなんて思ってな――」
ぴたり、と両手の動きが止まった。
あの福笑いみたいな笑い顔も消えた。
そこにいるのは、あらゆる魔物を『狩られるもの』の立場とする、世界最強の退魔師――
「……なるほど、そういう事だったのネ」
すっとグローブのような拳がこちらに伸びた。
「前言を撤回するワ。Mちゃんと敵対する事になっても、その子を強制的に保護しなくちゃいけないみたいネ……」
その手が開くと、さっき俺が確かに射ち込んだ呪い針が、半分にへし折れていて――!?
「場所を変えましょ。ここでは御近所迷惑だワ」
――『砂使い』――
そう呼ばれる術師が存在する。
しかし、砂使いといっても、奴等が行使するのは普通の砂じゃない。
SFが好きな者なら、ナノマシンという言葉は御存知だろう。ナノ=十億分の一という単位が頭に付く事からわかるように、分子レベルの超小型な機械の事だ。ブロック遊びのように物体の分子構造を直接組み替える事で、土くれを金に変え、山々を砂塵と化し、空気から命を作り出す――まぁ、これは極端な例だが、理論上は物質的に不可能な事は何も無い、夢の機械だという。
砂使いが行使する砂とは、いわば魔法的なナノマシンだ。
“砂蟲”と呼ばれる原子核よりも小さな魔法生物は、どんなナノマシンよりも精密な原子変換を可能とする。しかし何より恐ろしいのは、単なる物質だけではなく、魔法や超常能力のような非実体的な存在の構造までも、自由自在に変質させる事ができる点だ。
物理的にも魔法的にもあらゆる存在を自在に操る――それが砂使い。
そうした砂使いの中でも、世界最高の実力を持つ使い手が、あの男――
「いい月ね、故郷を思い出すワ」
――アルタン・ボブロフ中尉だ。
満月が見下ろす夜の波打ち際――塩気の混じった闇色の風は身を切るように冷たく、月光は万物を青白く染め上げる。淡々と続く細波の音は、海の子守唄を連想させる。そして足元に広がる砂の波線――
砂使いとの戦いだと考えれば、なかなか洒落たシチュエーションかもしれない。全然嬉しくねぇが。
それにしても……まさかこんなに早く、しかもボブロフ中尉ほどの大物が来るとは見通しが甘かったぜ。やはりブランクがあると甘い考えになっちまうのか?
その辺に魚の死骸でも転がっていれば、それを食って一瞬でも“食屍鬼”に戻って瞬殺できるんだが、どこを見渡しても魚どころかフナムシ一匹いなかった。どうやらあらかじめあのデブが排除しているらしい。くそったれめ。
「な、な、何だかよくわかりませんけど……とにかく頑張って下さい〜」
思わず力が抜けそうなS君の応援が、後方の岩陰から聞こえたのを合図に、あたしは10mほど前方に対峙するボブロフ中尉に錫杖を向けた。
万物の構造を自在に制御する砂使いの能力は確かに厄介だが、弱点が無い訳ではない。砂蟲で物質や魔法の構造体を一つずつ操作するという性質上、どうしても発動から効果が出るまで時間がかかるのだ。
つまり、砂使いを相手にした時は――
(速攻が定石!!)
ヨーイドンの合図も無しで、あたしはいきなり針を放った。御近所の目が無かったら、こうして対峙する前に奇襲を仕掛けていただろう。
音速を遥かに超えるスピードで、ボブロフ中尉に数千本もの針が迫る。この距離でこのスピードなら、砂蟲を使う余裕も無――
ふっ……
――無い筈だった。
まるで焼け石の上に置いた雪片のように、数千本の針はボブロフ中尉の目の前で溶け消えた……って、マジかよ!?
ちっちっちっと、わざわざ声に出してボブロフ中尉の人差し指が振られた。
「無駄無駄よン。アタシの可愛い砂蟲ちゃんの前では、核ミサイルを落とされようが大陸消滅級の魔法をかけられようが、専用の呪的防御を施さない限り、どんな飛び道具も遠距離魔法も無効化されちゃうんだから♪」
ふ、ふざけんなコラ!! なんつー無茶苦茶な砂蟲の高速制御力だ。世界最高位の称号は伊達じゃねぇって事か……様々な呪的兵装で防御してある、あたしの肉体そのものを操られる事は今の所無いようだが、それも時間の問題だろう。
こうなったら奴を倒す方法はただ一つ。直接ぶん殴るしかない。闇高野式退魔剣法ならば、砂蟲による防御効果を無視してダメージを与えられる……と思う。
他に手があるとしたら、対ナノマシン用の術を付与してある針ぐらいのものだ。これは三本しか無いが、相手に直接刺しても、三本の針を刺した個所を結んだ三角形の結界に相手を入れても効果を発揮する。だがその効果は、砂蟲の動きを遅くする程度のものしかない。
……やはり、ここはぶん殴る方で行くか。その方が性に合ってるしな。
あたしの瞳が金色に濁る。“影踏み”の発動だ。まずは相手の様子を見る為に、設定時間は『一秒後』にする。ボブロフ中尉ほどの実力者を相手にする場合、あまり離れた時間を見ると、現在からのタイムラグ中に攻撃される危険性が増すからだ。
すぐに視界が灰色に転じて――
「!!」
そこに映し出された一秒後の光景は、目の前に迫るボブロフ中尉の巨体だった……
……って、ちょっとまて、一秒後!?
強烈なぶちかましを食らったと気付いたのは、軽く数十mは吹っ飛ばされて、波頭の中に頭から落下してからだった。
ぐおおおおおおおお……
全身の骨がバラバラになったような衝撃――これは形容表現じゃねぇ。水死体みたいにプカプカ浮かんでいたあたしは、しかし次の瞬間、追撃されたらやばいとばかりに、死に物狂いで起き上がった。慌てて錫杖をデブ野郎に構えるが――
(いない!?)
砂浜に、ボブロフ中尉の姿は影も形も無かった。
「こっちよン」
ありえない方向からの陽気な声。愕然と上空を見上げると、満月を背に夜空に浮かぶ巨大なデブという、シュール過ぎる光景があった。
いや、空中浮遊の術など珍しくも無いんだが、今のボブロフ中尉の動きに、そんな無粋な術の存在はまるで感じられなかったのだ。普通なら、空中浮遊の術を使えば、魔力の発動やその痕跡が感じられる筈なんだが……
ばん!!
ボブロフ中尉があのでかい手を拍手するように叩いた――刹那、猛烈な風圧と砂塵が顔を激しく叩き、反射的にあたしは目を逸らした。くそっ、奇襲せずにわざわざ声をかけたのは、これを狙ったのか。
目を逸らした時間は半瞬にも満たなかったが、ボブロフ中尉には十分だろう。腰を掴まれた――そう感じた瞬間にはあたしの身体は凄まじい勢いで上空に引き摺り上げられ、一瞬の浮遊感の直後、上手投げの要領で眼下の海に放り投げられた。
どこをどうすればこんな投げ方ができるのか。水平に吹っ飛んだあたしは水面を2・3回バウンドして、モーゼよろしく体で20mは海を割り、最後に砂浜に頭からめり込んでようやく停止してくれた。
「…………」
悲鳴が声にならない……全身がミンチどころかスープにでもなった気分だ……仰向けのまま半分砂に埋まったあたしは、瞼を開くのにも渾身の力を込めなければならなかった――
――って、足? 巨大な足の裏が目の前に迫
ぐしゃ
……相撲の四股をイスラム圏の人間が知ってるとは思わなかったぜ……そしてそれはダウン攻撃としては実に有効だった。食らった者が言うんだから間違いない。
「ッ!!」
しかし、グシャグシャになったのはあたしのキュートな顔面じゃなかった。
「……流石ね、アタシの利き足殺されちゃったワ」
しかめっ面で引っ込めたボブロフ中尉の右足の甲は、あたしの針でグズグズにされていた。
ざまぁみろ、あたしの美貌に足蹴だなんて失礼な事するからだぜ。
その隙に飛び上がり、間合いを離して再び錫杖を構え直す。くそっ、ダメージで足が踊ってやがる……
……思い出した。アフガンだかアフガニスタン地方には、“航空相撲”と呼ばれる特殊な空中格闘技が存在するという。あのデブは、その航空相撲で現役時代は大関の位まで行ったとか……
ちくしょう、奴の本領は接近戦だったのか。あの『アタシに遠距離攻撃は効かないよ』とわざわざ口に出して言ってたのは、自分の得意な間合いへ持ち込む為の誘いかよ!
「正解よン。でも、そういう事はあまり相手の目の前で言わない方がいいと思うけど……」
うるせぇ、野暮なツッコミするんじゃねぇ。
だが、これで接近戦での直接打撃攻撃は有効である事が証明された。ナノマシン使いならお約束の超高速再生能力でも、退魔剣法の力を宿した針の傷はなかなか癒せないようだしな。
奴を倒すには……あえて敵の得意な間合いでやりあうしかない!!
肝を据えたあたしは、震える足に渇を入れて、あえて堂々とボブロフ中尉の元に歩み寄った。瞳は金色に濁らせたままだ。影踏みを使って未来予知しながら戦わないと、とてもあの化け物とは正面から殴り合えない。かといって、奴の『過去』を攻撃するほどの猶予は与えてくれないだろう。この方法でいくしかない。
あたしの意図に気付いたのか、ボブロフ中尉の体がぐっと沈んだ。相撲の立会いを想像すればいい。あのぶちかましを二度も食うのは御免だと、右に回り込むように足を運び――
巨体が旋回した!!
爆発するように砂塵が舞い上がる。
あの巨体でどうやったのか不思議なくらい低い姿勢からの前掃腿。
咄嗟に錫杖を突き立てて防御する。
腕が芯まで痺れる衝撃。
錫杖がへし曲がった!?
よろけた所にアッパー気味の掌底が鳩尾に深々と入る。
血反吐を吐きながら空中に浮くあたしに張り手の追撃が。
そこで針を放った。
例の砂蟲の活動を鈍らせる針を超至近距離で。
張り手が円を描くように旋回する。
針は明後日の方向に弾かれた。
出鱈目な反応速度だ。
その隙に錫杖を叩きつける。
狙いは左足。
命中。
錫杖は左足の脛に食い込んだ。
骨にひびくらいは入っただろう。
しかしその代償は大きかった。
巨大な両手があたしの両脇を捕らえた。
万力以上の圧搾感。
全ての肋骨がへし折られた。
まだ手は離れない。
絶体絶命。
でも好機。
今度こそ目の前のごつい顔に吹き針を食らわせてやる。
発射。
同時にごつい顔が消えた。
針は虚空に飛んでいく。
首から上を仰け反らせて避けたのか。
そう気付いた時には頭突きを食らっていた。
女の顔に酷い事をする。
お返しに思いっきり金的を蹴り上げた。
両手の拘束が緩む。
するりと鰻のように抜け出した。
抜け出した筈だった。
しっかり掴まれた右足首が握り潰される。
激痛。
それもまだ序の口だった。
視界が大回転する。
ジャイアントスイング。
片手であたしの体を振り回している。
どこまで放り投げられるのか。
放り投げられなかった。
その場に叩きつけられた。
今度こそ体中の骨が粉々になったと思う。
指一本動かせない。
無理矢理動かす。
顔を覗き込むボブロフ中尉のでかい顔にお返しの頭突き。
命中。
ほんの僅かボブロフ中尉の動きが止まる。
チャンス。
あたしの体のダメージでは最後のチャンス。
最後の対砂蟲用の針。
最後の一本。
それに全てをかける。
置き上がりざまに針を撃つ――
え?
体が……動かな――
最後の希望の針は、無情にもボブロフ中尉の体をかすめて飛んで行った……
な、何が起こった? 今度こそ本当に、指一本動かせない!?
「はい、タイムリミットよン♪」
金縛り状態のあたしを、ボブロフ中尉の不敵な笑顔が迎えた。
「……な……こ…れ……は……」
「アタシの可愛い砂蟲ちゃんが、ようやくMちゃんの体の支配を完了したのヨ。ずいぶん強力な呪的防御だったわね。かなり手間取ったわ」
砂使いとの戦いは速攻勝負――それが定石だ。それに失敗すると、こんなザマになる……
「さすがMちゃんネ、十八番の接近戦でここまで遅れを取るなんて初めてだワ」
本気で感心したように傾いてくれたが、それは勝者の余裕というものだ。確かに誰もが勝敗は決したと判断するだろう。
だが――
「……ま……だ……終……わ…っ……ちゃ……い……ね…ぇ…ぜ」
「諦めが悪い子ねン。もうMちゃんの肉体は原子核の一つまで完全に主導権を奪って――」
びゅうっ
渾身の力を込めて放った長針は、ボブロフ中尉の顔をかすめて夜空の彼方に消えた。
「……まだそこまで動けるとは、さすがは『邪神』……でも、今度こそ本当におしまいヨ」
ボブロフ中尉の笑顔が消えると同時に、今度こそあたしの全身は凍り付いた。あたしの時間だけが停止したと表現するのが的確かもしれない。本当に、今度こそ、あたしは何もできない。
「あなたは後で大僧正様の元へ送ってあげる。クール宅急便で良いわよネ?」
ふざけんな、せめて貴重品割れ物注意にしろ。
もう全てが終わったとばかりに背を向けるボブロフ中尉に、心の中でそんな悪態を吐く事しかできない……それは残酷な真実だった。
「……右足は針でズタズタだし、左足にもヒビが入ってるわネ。砂蟲ちゃんでも回復できないなんて、退魔剣法って厄介ねン」
むしろ楽しそうに呟くと、ボブロフ中尉はびっこを引きつつゆっくりと歩き始めた。
S君が隠れている岩場の方へ!
しかし、そんな絶体絶命の状況に、あたしは何もできない。
本当に、何もできない。
――いや。
何もする必要がない――
「そんな所に隠れても無駄よン。隠れん坊は子供の頃から得意――!?」
ボブロフ中尉の歩みが止まった。その福笑いみてぇな笑みも止まった。
砂浜のあちこちに刺さった三本の針同士が光の線で繋がり、その中心にボブロフ中尉がいる――そう、あの格闘戦の最中にあたしが放った『砂蟲の活動を低下させる術』を付与した針だ。それは直接刺さなくても、三本の針で囲んだ結界に相手を入れても効果を発揮するって、さっき言ったろ?
「これは……まさか!?」
慌ててデブ野郎は結界の外に出ようとするが、足を負傷した奴は素早く動けない。
そして、最後のとどめは――
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
夜の大気が脈動する。
「あれは!!」
「え? ええ? えええっ!?」
ボブロフ中尉が闇色の空を見上げた。何処からかS君の悲鳴も聞こえる。
満月が二つに増えていた。
いや、満月に匹敵する巨大な光源が。
夕方のニュースを覚えているかい?
丁度この時間、上空を破棄された実験用宇宙ステーションが通過すると……それを最後のとどめに使わせてもらった。
“影踏み”の力で、今、この瞬間、あの場所にボブロフ中尉がいる事を知り、そこに結界を展開する。そして、さっき最後に発射した長針で、上空の宇宙ステーションを打ち落とす――この瞬間、結界の中のボブロフ中尉へ落下するように!!
今や夜空は真昼以上に明るくなった。天上から迫るは、大気との摩擦熱で赤熱化した宇宙ステーション――巨大な真紅の流れ星。
「くっ!!」
ボブロフ中尉が両手を上空へ突き出した。おそらく砂蟲で宇宙ステーションを消滅させようとするつもりか。普段のボブロフ中尉なら、それも可能だろう。しかし、結界の力のよって砂蟲の動きは封じられていた。この場から逃げようにも、両足は満足に動かせない――
砂の魔人が灼熱の空へ吠えた。
「うぉおおおおおおお―――!!!」
「黙って逝け」
《本日未明、○○海岸に落下した実験用宇宙ステーションについて、政府は『人的被害は無かったものの、落下地点半径数百mが壊滅し、周辺環境に与えた損害は極めて深刻である』と合衆国政府に対して正式な抗議を――》
「……おーい、S君生きてるか〜? 死んでても返事だけはしろ〜」
全てが黒焦げになった灰燼の砂浜を見回して、あたしは軽く肩をすくめた。
やれやれ、我ながらひでぇ戦い方をしたもんだ。こういう派手なやり方は性に合わないんだがな。
「……え、Mさぁん……何が一体どうなったんですかぁぁ……」
「おや、無事だったか」
もう砂なのか砂利なのか岩だったのかよくわからん黒焦げの残骸の中から、S君が這い出てきたのを見て、あたしは安堵の溜息を吐いた。こっそりと。
「……まぁ、当面の危機は脱したぜ。とりあえずそういう事にしといてくれ」
「は、はぁ……ところで、あの太った男の人は――」
「さぁな」
俺は軽く首を振った。
その辺の黒焦げの残骸のどれかなのか、跡形も無く消滅したのか、どちらにしても無事じゃ済まないだろう。とりあえずはリタイアの筈だ。
それにしても……ボブロフ中尉がいきなり俺に喧嘩を売ってまで、S君を保護しようとした理由は何だったんだ? とても穏健派とは思えない行動だぜ。言動も何かと不自然だったし……
まぁ、今は考えるよりも先に、この場を逃げ出すのが正解だろう。野次馬どもも集まってくるし、ボブロフ中尉クラスの追っ手が追撃に来るかもしれない。すぐにでもS君と共に身を隠さなければならない。
だがしかし――それ以上に最優先しなければいけない事がある。
あたしはS君の肩をがっしり掴んだ。
「S君」
「は、はい」
「犯らせろ」
「……はい?」
「今の戦いで“影踏み”を使いまくっちゃって……副作用で……身体が疼いて……もう我慢できないのぉぉぉぉぉ!!!」
「はぃいいいいいいい――!?!?」
夜空に響く悲鳴混じりの嬌声を、満月だけが聞いていた――