それから、僕と“つぁとぅぐあ”さんの奇妙な生活が始まった。
生活と言っても、1日1回供物(食べ物)を持って、例の靄を通って彼女に会いに行くだけだけど。
謎に包まれっぱなしの“つぁとぅぐあ”さんの事も、彼女との交流で少しだけわかってきた。
彼女は『旧支配者』と呼ばれる、人間が神様と崇める概念の1つらしい。人間の歴史にも無いはるか古代には、“ヒューペルボリア”という大陸で、きちんとした神様として信仰されていたそうだ。彼女の尋常じゃない美しさも、神様なら納得がいく……かもしれない。
当時は“ヴーアミタドレス”という山の地下洞窟に住んでいたそうだが、今は“ン・カイ”という暗黒世界にいるという。どうやら、僕の部屋の押入れの奥と、その“ン・カイ”が、何らかの理由で繋がってしまったみたいだ。ちなみに、地球に来る以前は“サイクラノーシュ”(土星)に叔父さんと住んでいて、その前は人間の知らない外宇宙に存在していたらしい……さすが神様、スケールが大きい。
“つぁとぅぐあ”さんはよく眠る。あの長くて綺麗な髪に包まって、本当に幸せそうに眠っている。普段はただひたすら寝ていて、僕が供物を持って来た時だけ目を覚まし、どうでもいい事を雑談しながら――ほとんど僕が一方的に喋って、彼女は相槌を打つだけだけど――食事をして、食べ終わったらまた眠ってしまう。
“つぁとぅぐあ”さんはよく食べる。本当によく食べる。っていうか尋常じゃなく食べる。
彼女の食べる量は際限が無い。大の大人が1日がかりで食べられる量を、一口でぺろりと平らげてしまう。一度、半分冗談で米俵5俵ほど持っていった事があったけど、彼女は3秒も経たずに食べ尽くしてしまった。
幸いなのは、“つぁとぅぐあ”さんは食べ物の選り好みをしない事だ。どんな貧相な料理でも、1種類の料理が連続しても、嬉しそうに食べてくれる。どうやら完全に『質より量』主義らしい。
今では、米一升分のおにぎりを作って、それを供物に捧げるようにしている。ご飯のまま運んでもいいのだけど、一度電子ジャーとおひつごと食べられてしまい、やめる事にした。
しかし、ここで問題が浮上してきたんだ。
僕の仕事(売れないWebデザイナー)では、彼女の食費がとてもまかないきれないのだ。供物の量を減らしたくても、“つぁとぅぐあ”さんは食べ足りないと、何となく僕を美味しそうな目で見るのだからたまらない。
結果、ただでさえ火の車だった我が家の家計は、ニトロターボで赤字街道を突っ走る結果となった。
「ふうん……そうなんだぁ」
最後のおにぎりと食べ終わった“つぁとぅぐあ”さんは、例の『にへら〜』という何とも言えない笑みを浮かべると、
「そういえばぁ……供物を貰うばかりでぇ……“恩恵”を授けていませんでしたねぇ〜」
ずい、と僕の体に身を乗り出してきたんだ。
「え?……あの……何を……」
突然の事態に狼狽しながらも、僕は彼女から匂い立つ甘い体臭と、視界一杯に広がる反則的な爆乳の美しさに心を奪われていた。
大人の頭より大きな乳房は油を塗ったように艶やかで、やや大き目の乳首がツンと立っている。
「……う〜ん……これ、どうやって外すのでしょうかぁ……?」
ふと我に帰ると、何と“つぁとぅぐあ”さんは僕のズボンに手を当てて、カチャかチャとベルトを外そうとしているじゃないか。
「ちょちょちょっと! “つぁとぅぐあ”さん!!」
「……あぁ、外れましたねぇ〜」
困惑する僕を尻目に、魔法のようにズボンはパンツごと剥ぎ取られてしまった。
びん
僕のへそに激しく何かがぶつかる。
それは、はちきれそうなくらい勃起した、僕のペニスだった。とても見慣れた自分の物とは思えないくらい大きく、固く、膨張して、反りかえったソレを、
「うふふぅ……いただきまぁす」
“つぁとぅぐあ”さんは愛しそうに頬ずりすると、ぱくり、と咥えたんだ。
「――っ!?」
肛門から脳天まで氷の針が一気に通されたような快感に、僕の思考は一瞬で真っ白になった。
ピチャクチャと唾液の滴る音を立てながら、カリに軽く歯を立て、長い舌が蛇の様に竿を舐めまわす。喉の奥まで刺し入れたペニスを、熱い咥内が優しく包む。
あまりの快楽に、僕は声を漏らす事もできなかった。
ちゅぽん、と“つぁとぅぐあ”さんは口からペニスを抜いた。淫猥に笑う唇とペニスの先端に、唾液の橋が銀色に繋がっている。
「元気ですねぇ……これはどうですかぁ?」
“つぁとぅぐあ”さんは自分の爆乳をよいしょっと抱えると、それで僕のペニスを挟んだ。
ふにょん
さっきの熱い咥内とは違う種の感覚が走り、僕の体は仰け反った。
柔らかく、暖かく、優しく、綿毛のように繊細で、それでいて圧倒的な圧迫感。
彼女が自分の爆乳を揉みしだく度に、微妙な波がペニスに伝わり、それを蹂躙する。
ぱくり
その上、胸の間から飛び出したペニスの先端を咥えてくれるのだから堪らない。
熱く這う舌の感覚と、優しく包む乳房の感覚。2つの快感が同時に襲い、
「ううっ!!」
僕はたまらず射精した。
「きゃあん……ん……んん〜」
自分でも信じられないくらい出た精液を、彼女は躊躇いなくすすり飲んだ。飲みきれない分が唇の端から糸を引いてこぼれ落ちる。最後に、舌先でペニスの先端をこじ開けて、尿道に残った精子まで吸い取ってから、やっと彼女は僕のペニスを開放してくれた。
「んふぅ……ごちそうさまでしたぁ」
白い粘液のついた指先をぺろりと舐め取りながら、“つぁとぅぐあ”さんは微笑んだ。あの『にへら〜』とした間の抜けた笑みではない。あまりに妖艶な笑み。
その微笑みを見た瞬間、僕の理性は完全に消滅した。
「ひゃぁん」
僕は“つぁとぅぐあ”さんを押し倒し、その爆乳にむしゃぶりついた。飢え切った獣のように乳首をしゃぶり、柔肉に噛み付き、握り潰さんばかりに揉みまくる。
最高の乳だ。食べれば食べるほど美味くなる。
「ふひゃあん……やぁん……あはぁあ……」
唾液と歯型が乳房全体を埋めた頃、やっと爆乳を開放した僕は、汗に濡れた髪を掻き分けながら、彼女の身体中を――耳を、首筋を、腋を、二の腕を、指を、脇腹を、へそを、お尻を、太腿を、ふくらはぎを、足の指を――あらゆる個所に舌を這わせ、しゃぶり尽くし、歯型を残した。
「あふぅん……ひでぼんさぁん……あうっ……御上手ぅ……うんっ……ですねぇ……」
身体中を食べ尽くされながらも、“つぁとぅぐあ”さんは全然抵抗しなかった。それどころか嬌声を漏らしながら身をよじり、お返しとばかりに僕の身体に舌を這わせてくれる。
僕はいつのまにか全裸になっていた。頭の中は真っ白で、彼女の身体を食べ尽くす事以外、何も考えていない。
そして、僕は最後のメインディッシュ――仰向けに股を開いた“つぁとぅぐあ”さんの秘所を舌でねぶっていた。
「ううぁあ……あはぁ……ひゃうっ……」
黒く濃い目の茂みに隠された、親指の先端ほどもあるクリトリスを指で磨き、押し潰す。赤く熟れた秘所に舌を刺し入れる度に、ぴゅっぴゅと愛液を噴出しながら、彼女が嬌声を歌う。
思う存分秘所を味わい尽くした僕は、彼女を獣のように四つん這いにさせた。誘うように揺れるお尻を両手で差さえ、もう爆発寸前に膨張しているペニスを押し当てる。そして――
「んんっ!!」
「――っ!!」
挿入した瞬間、僕は射精した。そのまま1番奥まで刺し込んで射精した。
ペニスから全身に凄まじい快楽が走り、頭の中が爆発しそうだった。
信じられないだろうけど、あまりの気持ち良さに、1回のピストンで正確に1回射精してしまうんだ。明らかな異常事態なのに、僕の腰の動きは止まらなかった。
人知を超えた人外の快楽に、薄れる意識のどこかで、僕は確かに恐怖を覚えた。
「ひゃああん! やぁん! ふわぁ! 気持ち……いいですぅ!!」
腰を叩きつける度に、彼女は涎と嬌声を漏らし、爆乳を揺らして、喘ぎ、悶えた。はちきれそうに揺れるお尻に目をつけた僕は、激しいピストンを続行しながら、爪を立て、揉みしだく。その度に、あそこの締まりがどんどん良くなっていく。
「はひゃあん!! イク! いっちゃいますぅ!!」
最後に、僕はひくひく口を開けるアヌスに親指を突き立てた――瞬間、
「ひゃああああああ――!!!」
キュっと膣全体が締まって、僕は今までで最大の射精を放ち……そのまま意識も光の中に溶け消えた……
ふと、僕は目を覚ました。
頭の中に霧がかかったみたいだ。ぼうっとして何も考えられない。
何か温かくて、柔らかくて、いい匂いがする……
「……お目覚めですかぁ?」
のんびりおっとりした美しい声に、僕の意識は覚醒した。
そして、僕は裸のまま、“つぁとぅぐあ”さんと添い寝している事に気付いた。
今までの記憶が、一気に蘇る。
「うわぁ!」
慌てて飛び起きた僕に、“つぁとぅぐあ”さんは『にへら〜』と笑ってくれた。
「ええと……あの……すみません! あんなに乱暴にしちゃって……」
「気にしないでくださぁい。ボクって鈍いからぁ、少し乱暴にされた方が感じるんですねぇ……よくイホウンデーちゃんやアトラック=ナチャちゃんにぃ、お前は鈍過ぎるって怒られてますよぉ」
「は、はぁ……」
よくわからないけど、神様の間にも複雑な関係があるらしい。
「久しぶりだったのでぇ……少し疲れましたぁ……おやすみなさ……ぁい……くー」
そう言って“つぁとぅぐあ”さんは、ピロートークもそこそこに、いつもの眠りについてしまった……
1週間後、僕はようやくベットから起き上がる事ができた。
“ン・カイ”から自室に戻った僕は、そのままベットにぶっ倒れて、1週間もの間眠り続けたんだ。神様との――人外のSEXは、やはり生身の体にはキツ過ぎたらしい。
不思議な事が起こったのは、それからだった。
売れないWebデザイナーだった僕の仕事には、美味しくて楽な注文ばかりが次々と依頼された。町を歩けば3歩ごとに札束やら宝石やらを拾い、5歩ごとに美女から告白された。病院に行けば持病が全て全快したと肩を叩かれ、ゲームをやれば初プレイで全国1位のスコアを叩き出す。イベント会場に行けば、入場一万人目だとか十万人目だとかで、全て無料&特等席。パチンコは出した玉が全て入賞。競馬は全て大穴的中。買った宝くじは1枚の例外も無く一等賞。マイク○ソフトを買収できるくらいの冨を手に入れてしまった。新聞を見るたびに顔をしかめて読んでいた国際紛争も、全て円満解決。戦場には花が咲き乱れ、兵士達は皆握手。小○とブッ○ュとビン○ディンと金○日が笑顔で肩を組んで歌う姿が、新聞の一面に載った。etc、etc……
1ヶ月もの間、まさに人知を超えた『幸運』が、僕の身に降りかかってきたんだ。
これが、“つぁとぅぐあ”さんのいう『恩恵』なのだろうか。
タイム誌の表紙を飾ってくれという依頼に丁寧な断りの電話を入れた後、僕は溜息を吐いた。
国を買えるほどの財産は、“つぁとぅぐあ”さんの食費を除いて全て慈善団体に寄付してしまった。1ヶ月過ぎてようやく『幸運』も時間切れになったらしく、僕は人並みの生活を取り戻そうとしている。
この『幸運』の出血大サービスには、さすがに少々辟易してしまった。贅沢するのも目立つのも苦手だし、何より対応に忙しくて“つぁとぅぐあ”さんに会えなくなるのが辛い……そう考えてる自分に僕は苦笑した。
……まぁ、これで懸念していた“つぁとぅぐあ”さんの供物代が解消されたのだから、よしとしようか。
ちなみに、あれから“つぁとぅぐあ”さんを抱いてはいない。抱く度に1週間気絶するのもたまらないし、あの『幸運』が振りかかるのもちょっと考え物だから……
……でも、あの快楽は僕の体にしっかりと刻まれて忘れられないから、そろそろ抱かせてもらおうと思っているけどね……
……実は、会うたびに胸で抜いてもらっているし。
いつもおにぎりばかりじゃ申し訳ないから、少しは贅沢な料理でも供物にしようかな。そういえば、近所の公民館で『悪魔のお料理教室』とかいう物騒な料理教室をやっていたっけ……
そんな事を考えていた、ある冬の夜の事だった。
外は深々と雪が降り続いている。この地方に伝わるという雪女伝説も、今なら信じられそうな気がした。
「……おっす……」
そんな声が聞こえたのは、Webデザインの締め切りが近くてモニターの前で悪戦苦闘していた時だ。
声の方に振り向いてみると、そこは窓だった。
窓の外のベランダ――そこに“いる”光景に、僕はぽかんと口を開けた。
ベランダの手摺りの上に正座するその少女は、戦慄するくらい美しかった。人形のように無表情な顔立ちは、神に愛された芸術家にも再現できないだろう。
長く真っ直ぐな絹髪。死装束を連想させるシンプルな着物姿――周囲の雪景色も手伝って、まるで伝説の雪女みたいだ……そのシルエットだけは。
彼女は決して雪女ではない。髪は闇より暗い漆黒。着物も喪服のように黒一色だ。雪のように白そうな肌も、灰色だった。
そして、爛々と輝く真紅の邪眼――
「……君は?」
僕はようやく声を絞り出せた。そして、彼女の名前を聞いて、また奇妙な世界に巻き込まれた事を知ったんだ。
彼女はこう名乗った。
「……“いたくぁ”……」