愛の向こう側

 

 

 体中をねっとりとした生暖かい泥のようなものに覆われている、茜はぼんやりとした意識のなかで確かにそれを自覚していた。

 決して不快感を覚えることのない、ぬるま湯につかった心地よさをできるだけ長く感じようと、彼女の意識が強く望む。

 しかしその感覚の正体を確かめようと、またそれがどこか不自然なことに気づいた時、急速に茜の意識が覚醒していった。とはいえ一般的な人間と比べれば緩やかであることは間違いないが。

「……えっ?」

 やがて目を覚ました茜が見たものは、頬を赤らめ酔ったようなとろんとした瞳の少女の顔と、そしてすぐ下の鎖骨のラインだった。同性の茜からみても蟲惑的な光景に、かけようとした言葉も忘れ呆然と見つめてしまう。

「あ、里村さん、目を覚ましたんだね」

 身じろぎに気がついたこの部屋の持ち主の幼なじみが茜に視線を向けてきた、のしかかって茜の胸に頬を擦り付けたままで。

「ちょ、ちょっとこれはいった……」

 状況を理解しようとして、パニックに陥った茜がばたばたと手足を動かそうとする。そんななか、目の前の少女が誰であるかだけは分かっていた。それが茜にとって望ましいことなのかどうかは判別はつかなかったが。

 長森瑞佳、人付き合いのよいとは言えない茜が彼女の名前をしっかりと覚えているのは、浩平との関係上仕方のないことだった。浩平と好ましい関係を結んでいると思った茜にとって、あまり干渉されたくはない存在のはずなのに。

「ここは浩平の部屋だよ、覚えていないの?」

 そう答える間も、瑞佳は茜の肌を撫でまわす手の動きをやめようとせず、茜の混乱に拍車をかける。そしてにっこりと微笑むと、今度は明らかに茜の視線を意識しながら、ねちっこく指を絡ませ始めた。さわさわと肌を撫でられるくすぐったさと、彼女の柔らかな重みに茜はすっかり言葉を失ってしまう。

「あ……ああ、だから」

 聞かなければいけないことは色々とあるのに声が出せない、それをいいことに瑞佳の手が大胆さを増していく。

「気持ちいいんだよね? ふふっ、このままわたしに全部任せてくれてもいいんだよ……大丈夫、同じ女の子の体なんだから心配いらないよ」

 すべすべした手のひらで茜の頬を撫でまわし、乳房の端に舌を這わせる。

「ひっ? そういうもん……だい、じゃ。だいいち長森さんがいるなんて」

 そう、確かに茜はここにいた。だがそれは浩平と一緒だったわけで、必死に記憶を呼び起こしてみても、そこに瑞佳の姿を見つけることはできない。

「うん、浩平に教えられたんだもん、里村さんを呼ぶって」

 意外なほどあっさりと瑞佳が答えた、でも。

「そんな……」

 なし崩しのうちに一緒に帰る約束をして、商店街に寄っていつものように山葉堂でワッフルを購入して。視界の端に紙袋が見えることから自分の辿っていく記憶に間違いはない。

「ど、どういうことですか?」

 だから話についていけない。

「里村さんも浩平のことが好きなんだよね、だから一緒にね、気持ち良くなれるように」

 瑞佳が身体をずらしたことによって、茜と瑞佳、ふたりの胸がお互いを潰しあうようにいやらしく絡み合う。

「私の質問に答え……」

 しかし、戸惑いではなく与えられる感覚に言葉が途切れてしまう。

「ほんとは嫌なんだよ、でも浩平に嫌われたくないもん」

 その時初めて瑞佳の瞳に暗い炎が灯った。それは明らかに嫉妬の色。いつも温和なクラスメートの見たことのない目つきに、思わず体が縮こまってしまう。でもそれは一瞬のことで、茜の体は瑞佳の愛撫に素直に反応を示していた。

「きゃっ、い……いやで……はぁん」

「だからね、浩平にお願いしたんだよ、初めはわたしからだって……里村さんの体に触れるのはわたしからだって」

 喋るうちに興奮してきたのか、瑞佳が自分の秘部を茜のふとももに押しつけ、微妙な振動を繰り返し始める。

「そうすれば、浩平が触れてもそれは、わたしの肌を通して感じるということになるからね」

 熱い吐息を茜の顔に吹きかけながら、瑞佳はそう告白した。

「え?」

 思わず言葉が漏れる。彼女が股間を押しつけてきた時に、ふくよかなはずの場所からありえない硬い異質な感触があることに気づき、茜は戸惑いの表情を浮かべた。茜の視線の動きに気がづいたのか、瑞佳が今までずっと茜の体に触れていた手を、初めて自分自身に触れさせる。

「あはぁっ……おもちゃが入っているから……後で里村さんにも入れてあげるからね」

「おもちゃ?」

 言葉の意味が分からず茜が眉を寄せた。瑞佳は下半身をまさぐると、熱い吐息を漏らしながらそれを取り出して解答を示す。そのピンク色をしたサインペンほどの長さの物体はすでに彼女が分泌した液体でぬらぬらと光っている。初めて見る、あまりにも露骨に性を感じさせるモノに茜の顔にさっと朱が走った。

「……いりませんっ」

「でもね、今は動いてないけど、ぶるぶると震えるとすっごく気持ちよくなれるんだよ。浩平がしてくれない時には代わりにこれで慰めるの、だってこれは浩平からのプレゼントだから」

「長森さん……」 

 瑞佳の淫らな姿の連続にもはや言葉もない。

「今は浩平がリモコンを持っているから動いていないけどね……大丈夫だよ、初めはわたしもいやだったけど、きっと里村さんも気に入ると思うよ。よく分からないけど、コードが必要ない優れものなんだって」

 茜の目からは瑞佳の手が邪魔で見えなかったが元に戻したのだろう。飲みこむ際の生々しい粘膜の音が聞こえたような気がした。

「わたしのことはいいから……ふふ、里村さんも準備が整ってきたようだね」

「え?」

 いつのまにか茜自身の秘裂からも愛液が滲んできていた。自覚がなかっただけに、瑞佳に指摘されたことで茜の羞恥心が倍増する。

「ほらぁ」

「きゃふっ……や、やめてくださいっ」

 自分の花びらに触れて愛液が纏わりついたままの瑞佳の指が、今度は茜の花びらに触れる。交じり合う液体が淫猥な儀式のように茜の精神を侵していく。

「里村さんってこんなふうにしたことあるのかな?」

「知らないっ」

 知らず知らず瑞佳に委ねようとする自分の体に戸惑いを覚えながらも、茜は肯定だけはしたくはないと思った。その時はきっと何かが変わってしまう、その得体の知れないものに対して茜は恐れを抱いた。何より、それが同性の手であることが許せない。

 その時、余裕の表情を浮かべていた瑞佳が表情を一変させた。

「あっ、そんな……早いよ」

 表情からも笑みがなくなり、体を突っ張らせこらえるように唇を噛む。理由を聞く必要もなく、それは太股に伝わってくる振動のせいだと分かった。

「あんっ、これじゃあ、わたしの方が先にイっちゃうよぉ」

 舌をもつれさせながら瑞佳の指が先程よりもねちっこく茜の体を這いまわる。初めは遠慮がちに花びらを撫でていた指が、遠慮なしに敏感な突起を挟み捏ね始めた。

「あああっ……やめてっ!」

 いくら茜でも何度か自分を慰めていたことはある。が、それとは比べ物にならない他人の、それも同性の与えてくる激しすぎる愛撫に、どうしようもなく翻弄されるままに声をあげるしかなかった。

「里村さんイッちゃうんだあ」

 その姿を見た瑞佳の言葉に余裕が再び生まれてくる。そして、もたらされる快感を分け与える行為に彼女は没頭した。

「ふふっ」

 その与えられる感覚に対して茜はあまりにも無防備だった。

「ち、ちがいま、あああっ」

 否定の言葉が快楽の証明となり、拒絶のまなざしが期待に打ち震える。

「わたしの指で感じてくれるんだね……可愛いよぉ」

 反応に勇気付けられたように、自らも快感で顔を赤く染めながら瑞佳が指を動かす。

「あっ、あっ、ああっ」

「ふふ、ここかな? ここかなぁ?」

 指の一本一本が茜の望まない感覚を無理やり引き出していく。

「だめっ! やあっ、あああぁぁっ……」

 抵抗することもできず、茜はついに瑞佳の見ている前で、何度も体をのた打たせながら果てた。

 

 

「あ〜あ、浩平のベッド汚しちゃって……どうするの?」

 涙を浮かべ荒い息をつく茜に、濡れた指を舐めながら瑞佳が笑う。

 シーツのしみはあきらかに茜ひとりのせいではなかったが、自分の淫らな姿に混乱する今では反論もままならない。

「え……そ、それは……その」

 瑞佳の中で動いていたものは、いつのまにか動きを止めていたみたいだった。

「匂い嗅いでごらんよ、里村さんの匂いがするよ」

「や、やめてください」

 それをいいことにシーツをなぞった指を茜の鼻先に付きつけてくる。茜は反射的に顔を背けるが、瑞佳はそれを咎めだてするかのように、わざわざ背けた方の頬にそれを塗りつけた。

「いやっ」

「なめてみる?」

 くすりと瑞佳が微笑む、その表情が強ばった。

「っ!?」

 どこかぼんやりとしていた茜もきっと表情を変える。

「どうだ、茜はよかったか?」

 ふたりの見ている前でドアが開き、声とともに部屋の主が姿を現した。最後まで信じたくなかった現実をつきつけられ、茜はすがるものを失ってしまう。

 茜の落胆を知ってか知らずか、にやにやとだらしない笑みを浮かべながら、浩平はふたりに近づいていく。

「こ、浩平……どうして?」

「浩平……ねえ、ほんとに里村さんと……」

 ふたりから同時に質問が寄せられた。その表情に悲しみという感情を共ににじませながら。ただし茜は怒りを、瑞佳は諦めを混ぜていたが。

「不満か?」

 浩平はまずは瑞佳からの質問に答えたようだった。ポケットの中に手を入れるのを見て瑞佳がはっと眉を跳ねあげる。

「ああああっ?!」

 次の瞬間、瑞佳の体が仰け反った。同時に瑞佳のなかに埋められていた機械がこれまでにない振動を繰り返すのを、彼女にくっついている茜にも伝えてくる。

「ううううう、やめ……」

「不満なのか?」

 そんな瑞佳の様子をそ知らぬふりで問いかける。

「いえっ、そんなことないよ、だから止めてっ、止めてくださいっ!」

「一旦決めたことは守らないとな?」

 その問いに答える余裕はなく、いよいよ切羽詰った声に変わる。存分に瑞佳に声をあげさせると、浩平はようやくスイッチを切った。

 自分の上で脱力する瑞佳の、半ば泣き出しそうな悲しげな表情に我知らず同情の心を寄せてしまう。瑞佳の体の下から、茜はきつい眼差しを浩平にぶつけていた。

「どうして……」

 何に対してのことなのか自分でも分からない。裏切られたことに対してなのか、それとも瑞佳に対する態度なのか。

「茜は俺が嫌いか?」

 それに対する答えがこの一言だった。

「えっ?」

 質問を質問で返されるとは予想だにできず、茜は呆然とした顔を浩平の前に晒す。

「瑞佳の気持ちに気がついた俺はどっちかを選ぶなんてできなかった……それに」

「それに?」

 思わず聞き返した茜の声にはすっかり刺が消えていた。

「いや、余計なことだな……まあ、茜に喜んでもらえたようでうれしいよ」

「誰がですかっ!」

「そうか? まんざらでもないって感じに見えるが」

 浩平の視線がシーツに注がれていることに気づき、かあっと頬を赤く染める。身を隠そうにも、茜の上には力を失った瑞佳が横たわったままだった。

「瑞佳はよかっただろ?」

「馬鹿なことは言わないでください」

「馬鹿なこと?」

 ふんと鼻で笑うと、身を乗り出してさっと手を伸ばす。

「ひっ?!」

 茜からはいまだに脱力したままの瑞佳が邪魔で、浩平の手を跳ね除けることができない。逆に浩平は容易く、隙間から覗く茜の肌をいいように弄ぶことができる。まずは仰向けになっても形の崩れない乳房がターゲットとなった。

「イッたばかりとあって敏感じゃないか」

 感覚が残る肌は反論もできず、異性の指を歓喜の表情で受け入れてしまう。つんと勃ったままの乳首を摘まれ、転がされ、嬲られ、そのたびに頤を突き上げて喘ぐ。

「ふっ」

 茜の身体の反応に含み笑いを浮かべると、浩平は瑞佳の身体に手を伸ばした。背中の上を滑っていく指が羽のように感覚を刺激する。

「ひぅっ」

 瑞佳が小さく声をあげた。

「すごいなあ」

 浩平の手が太股の付け根に到達する。そしていまだに瑞佳の中に埋められていたバイブを取り出すと、躊躇いもなく茜の秘部に近づけた。

「ひっ?」

「心配するなよ」

 恐怖で身体を強ばらせる茜の反応に、喉の奥で笑い声をあげながらスイッチを入れる。

「はうっ?」

 間接的にしか知らなかった機械の猛威に、快感の波が激しく押し寄せ、身体の芯を揺さぶられる。

「それだめっ! だめですっ、おかしく……おかしくなるぅ」

 髪を振り乱して声をあげる茜を、面白そうに眺めていた浩平が一旦指を離した。途切れて薄目を開けると、ちょうど瑞佳が体を動かすところだった。その瑞佳はまるで自分の食べていた好きなおかずを取られたかのように、不満気に茜の弄るおもちゃに目を向ける。

「俺は見てみたいぞ、おかしくなった茜を」

 そして浩平は茜の脚の間に位置を変えると、再びバイブを押し当てた。

「いやぁ、いやです」

 上から見下ろしている浩平の顔がぼやけていく。引き剥がそうとする浩平の手は震える茜の両の手ではびくともしない。茜の秘芯から溢れ出す愛液で指がふやけそうになるころ、ようやくバイブが秘裂から離れてくれた。

「瑞佳」

 しかしほっと息つく間もなく、さらなる恥辱が茜を襲う。

「え」

 浩平は声をかけるとさんざん茜をいたぶったものを口元につきつけた。瑞佳も心得たもので、舌を伸ばして茜にも聞こえるように、わざと音を立てて舐めあげる。

「どんな味がする?」

「里村さんの、いやらしい味がするよ」

 ぐったりとしていた茜の身体がぴくんと反応する。

「大人しい人だと思ってたんだけどね。里村さんってエッチだね」

 愉しげになじる瑞佳の刺のある一言に、茜は思わず顔を覆ってしまった。

「本性がそうだってことなんだろ」

「ひどいっ……」

「だって、ねえ」

 瑞佳が頷いて、楽しげに手を伸ばす。

「ひあっ!?」

 不意打ち気味にクリトリスを摘まれて、茜が悲鳴をあげる。

「もうとろとろだよ」

 茜の声を心地よさそうに聴きながら瑞佳が敏感な突起を軽く弾いた。

「ふあっ!」

 脳の奥まで到達する痺れに身体が何度か痙攣する。

「あんまりいじめてやるなよ」

 瑞佳のサディステックな行動に思わず浩平が苦笑していた。

「まあ、そんな茜を見て、俺のここは凄いことになってしまったわけなんだが」

「うわあ、ほんとだ」

 そう答える瑞佳はうっとりとした表情で、まるで舌なめずりをしているように見える。

「責任取ってくれるよな」

「責任……?」

 その言葉の行き先は瑞佳ではなかった。

「ひっ?!」

 擦り付けられる熱い強張りにようやく事態を理解する。怯えたように見下ろす茜の目にまともに浩平の分身が飛び込んできた。

「これだけ濡れていれば大丈夫だろ」

 自分の分身にまとわりつく愛液に浩平は満足そうな表情を見せる。

「そうそう、大丈夫だよ、すぐに痛くなくなるから。里村さんはえっちだからね」

「なっ……」

「まあでも、わたしも痛くないように協力してあげるよ」

「優しいじゃないか」

 茶化す浩平に答えずに、瑞佳は強引に茜の唇を塞いだ。そして先ほどまで自分がしていたように、浩平の邪魔にならないよう茜の上半身を愛撫し始める。

「んん〜〜っ?!!」

 片方の手で自らを慰めながら決して浩平と目を合わせようとしない、そんな瑞佳の微妙な心情を知ってか知らずか浩平が茜の膝の裏を持ち上げた。すべてが晒されるこの上もなく恥ずかしい姿に、顔だけでなく全身が赤みを帯びる。

「行くぞ」

 短く吐き捨てると、浩平は腰を押しつけた。未知の恐怖に無意識に体を強ばらせる。茜の想像では本当はこんな迎え方をするはずではなかった。愛の言葉を囁いて、もっと優しく自分を抱きしめてくれるはずだった。

「んんんっ!!!」

 瑞佳が唇を塞いでいなかったらどこまで大きな悲鳴をあげたか分からない。悲しみ怒り嫌悪、あらゆる感情をすべて吹き飛ばして浩平のものが侵入してくる。

「んぐっ、ふーっ……ううーっ」

「んふっ……」

 瑞佳の舌が食いしばった歯を撫でる、歯茎をくすぐる。指が胸をさする。しかし、そんなものでは茜の体を襲う激痛は和らぎはしない。

「くふっ」

 ついに頭の奥でなにかが破れる音を聴いた。はらはらと涙を流す茜を、浩平が口元を歪めながら見つめる。

「きついな……」

 すべてが収まるのを見届けたように瑞佳が体を離すと、その行動に茜が疑問を感じる間もなく浩平が動いた。

「いやっ、いやあっ……ああっ!」

 茜の細腰をしっかりと掴んで抜き差しを繰り返す。受け入れるためにだけに分泌される潤滑油がそれに絡んで卑猥な効果音をもたらし、破瓜の血が彩りを添える。

 あまりの激しさに茜の目尻から涙の粒がシーツに零れ落ちていた。

「と、しまった……」

 ようやく浩平は自分が快感に溺れ、余裕を失っていたことに気づき、さすがに速度を落とした。それにより負担は減ったが、逆にそれだけ長く耐えなければならない。解放された両足のつま先に変な力がかかる。

「こんなことをするなんて……ゆ、許せない……」

 少し余裕を取り戻した茜は、手酷い裏切りに憎しみのこもった視線を投げつけた。

「そうか、許せないか」

 茜の言葉に、浩平は確かに笑った。

「な……んっ……ん……」

 訝しげに思う間もなく、また突き上げられる。初めて受け入れる痛みに、食いしばる歯からうめき声が漏れる。突き上げに合わせて揺れる茜のおさげを手に取ると、浩平は茜の肌に這わせ始めた。

「きゃふっ」

 新たな刺激と、自分の髪を淫らな用途に使われる屈辱感に、茜の眉根が寄せられる。

「俺の証を茜に刻み付けてやる」

 しばらくの間、茜の中の感触を味わっていた浩平は、自分の限界を感じると額に汗をにじませながらそう宣言した。

「それはっ……」

 力の入らない腕を再び突っ張らせて逃れようとする。その目が何かを構える瑞佳の姿を捕らえる。

「やっ、やめてっ! 許してえっ!」

 何度目か分からない許しを乞う悲痛な叫びが迸った。

「せっかくの記念だよ」

 しかし瑞佳はのんびりと答えるとインスタントカメラのシャッターを切った。絶望を知らせる音に、顔を隠そうと反射的に動いた手も浩平によって押さえられる。茜にできることは目を閉じて顔を背けることだけだった。しかしどんなに目を閉じても、瞼の裏にストロボの光が焼きつけられる。

「くうっ、出るっ」

 浩平のその言葉にも、もはや茜は反応することはなく、なすがままに受け入れた。身体の奥に放たれる迸りにも小さくうめくだけで、取りたてて反応することはなかった。

 

 

「撮ったか?」

 満足げな表情で体を離すと、浩平は瑞佳の顔を見上げた。

「うん」

 答える瑞佳の視線は、たった今まで結合していた茜の秘部に注がれている。瑞佳は複雑な表情を浮かべたまま浩平の傍に腰かけた。

「どうだった、里村さんは……?」

「ん、よかったぞ」

 整わない息をそのままに浩平がにやりと笑う。そんな顔をみたくはないとばかりに瑞佳はその体にしなだれかかった。

「ねえ、いいでしょ?」

 互いの胸と胸が密着して、瑞佳のふくらみが形を変える。

「無茶言うなよ、俺は出したばっかりだぜ」

「だって」

 すぐ側で重なりゆくふたりの姿を茜はぼんやりと眺める。力なく投げ出された両足の間から、破瓜の血で朱の混じった精液が名残を惜しむかのようにどろりと滴り落ちていった。

 

 

 

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