「炎! 昨日の説明は聞いてたな、大丈夫だ今日は失敗しない、気楽にやれ」

いつもの場所、いつもの空間
いつもの実験室
何重にも重ねられた強化ガラスの向こうにいる炎に健二は開始の合図を送る
実験…
幾度も行われてきたベルトの起動実験
行方不明になっていたジェスターのファイルが手に入った事によりプロジェクトの進行スピードが上がった
同時に数本のベルトが作られ、先日に記念すべき一作目のベルトが完成した

「それじゃ、いきます…」

炎はアインスデバイスを装着し、デバイスキーとなるアインスクライシスを腕に装着する
ゆっくり、そして静かにデバイスに信号を送り届ける
キーとデバイスが互いに共鳴し、変身準備は整った

「変身!!」

ベルトとキーを共鳴させ、自分の姿を仮の姿『ライダー』へと変換させる最後の鍵
それを確かな意思で吐き出すと炎の体はベルトから発せられたノイズに包まれていく
そしてノイズがおさまると炎はアインスへの変身を遂げていた
健二のいる制御室の方のモニターには何ら異常は見られなかった
起動実験、初めての成功だった

「どうだ、何か変わったところはあるか?」

「特に何も、経過は良好です」

波形の乱れも今のところ何もない
通信を聞く限り炎の体にも何も異常はないようだ

「よーっし、よくやった炎。今日はいつも以上に早くあがれそうだな」

健二は普段見せる事のないような笑顔を見せた
ここに来るまで色々な事が起きていたし、失敗だって何度も経験した
ようやくプロジェクトも軌道に乗り始めた事は健二にとっても喜ばしい事だった

「よっし、それじゃさっさとデータ纏めて片付けて、飯でも食いにいくぞ!」




黒い色を帯びた街は華やかな光でライトアップされている
この街に住むほとんどの人間は今起きている惨状というものを知らないのであろう
去年起きたゼロインダストリィの爆発事件の事でさえ忘れ去られているくらいだ
あの爆発事故以上の事が今、この街に起きているというのに

「ったく、何だよ? こんな所に呼び出して」

夜の街の一角
大通りに位置するカフェへと入ってきた少年、水乃潤哉もその一人だ
『何も知らないごく普通の高校生』と位置付ける事が出来る

「何、妙な話を聞いたからな…雪の字は今日忙しいみたいだし俺が話を聞いてやろうと思ってな」

水乃は自分を呼び出した張本人、瀬戸和海の座るテーブル席の対面に座った
瀬戸はつけていたサングラスを外しながら水乃の顔を見た
水乃は店に入ってきた時と同様に、ずっとしかめっ面をしている

「雪の字の奴……どうしてよりにもよってこんな男に…」

「おいおい、担任の事を奴って呼ぶなよヤツって」

「別にいいだろ…」

水乃は瀬戸と目を合わせないように顔を背け運ばれてきたコーヒーを啜った
店内にはほとんど人がいない。水乃と瀬戸と従業員くらいしかいないだろう
とても静かだった。有線などのBGMすら流れていない

「いらっしゃいませー」

静かな店内に店員の声だけが響く
水乃はそれに反応して店の入り口へと視線を移した
入ってきた客がごく普通の男性二人組みだと確認すると、安心したような表情で視線を入り口から戻す
そんな水乃の態度や行動が普通じゃないと感付いた瀬戸は水乃を問い質す事にした

「何があった?」

瀬戸の問いかけに水乃は困惑したような表情を浮かべた
言うべきか言わないべきか水乃は迷っていたのだ
瀬戸に言ったところで解決するわけではないと考えている
だったら言っても言わなくても同じではないか、そう思っていた

「言ってもいいんじゃないか? これでも一応雪の字から頼まれてる訳だし」

「まぁ…雪の字から聞いてるなら話は早いだろ」

ついに観念したのか、瀬戸の事を信用したのか
それともただの気紛れか
水乃は少し前から自分の身の回りで起きている事を話し始めた

「最近さ、誰かに尾行されてるみたいでさ
ここの来る途中でも、変な奴ら数人が俺の後を着いてきてたんだよ」

「じゃあさっき店に入ってきた奴に過剰反応したのは…」

「そうだよ、上手く撒いたんだけど見付かったかと思ってさ」

「何か尾行されるような事に心当たりはあるのか?」

尾行されるくらいだから何か原因はあるだろう
だが、当の本人にはまったく身に覚えは無いようだ
記憶の糸を辿ってみても尾行される事、自分が狙われている事なんて検討もつかなかった
ただ普通に朝起きて、ただ普通に学校へ行き、ただ普通に生活している
ただそれだけなのだ。水乃自身、自分が特別な事をしているという自覚はなかった
また、水乃を傍から見ても特別な事をしているようにも見えなかった

「だとしたら人違いか……向こうさんが何か知っているかってところか」

「いらっしゃいませー」

瀬戸と話をしていながらも水乃は店に入ってきた客を確認してしまう
そんな自分自身に苦笑しながらも水乃はまた視線を戻した
その直後に響き渡るガラス製品や食器類の割れる音

「…っ! あいつらだ!!」

従業員を殴り飛ばした男が水乃達の方へと向かってくる
黒い上着に黒いズボン、中に着ているワイシャツでさえ黒い色だ
そんな全身黒尽くめの男は、店内に置かれている椅子やテーブルを避けていくのも面倒なのか
次々に蹴り飛ばしながら近付いて来た

「水乃…潤哉…」

「あぁそうだ、だからどうした、っつーかむしろ帰れ。ついでに今掴んでる手も離せよ! ったく」

「一緒に来てもらう。拒否する事は出来ない」

男のその鬼気迫るような雰囲気と共に、水乃の腕に痛みが走る
男は水乃の腕を掴んでいる手に力を込め始めた
水乃はそれを引き剥がそうとするが何をしても男は腕を放そうとしなかった

「っだぁ! 離せよ!」

「しつこい男は嫌われるぜ?」

最早口で言っても解決しないと思った水乃と瀬戸は実力行使に出ることにした
ほぼ同時に水乃の拳と瀬戸の拳が男の顔面に突き刺さる
男は呻き声ひとつ上げずに後方へと吹っ飛んでいた

「ちっくょう、痣になっちまってるじゃねぇか…」

水乃は男に掴まれた部分を抑えながら仰向けになって倒れている男を見下ろした

「…こ、こいつは…」

そこで異変に気がついた。男の体が歪んで見えたのだ
テレビ画面に発生する砂嵐のような現象が男の体に起きていた
男の体の変化に合わせて水乃の耳にノイズのようなものが聞こえてくる
男はノイズを体に纏わせたまま立ち上がり、何事もなかったかのようにまた水乃達に近付いてきた
一歩一歩、男が足を進める毎に体を覆うノイズの面積が少なくなっていく
そして完全にノイズが晴れた時、人間のそれとは違う化け物の姿に変化していた

「単なる都市伝説かと思ってたぜ…」

最近街の噂になっている事があった
ここ最近、正体不明の未確認生物が街中に出没しているというものだった
そんな噂が広まったのは全身の血を抜かれた死体が見つかってからだ
謎の吸血鬼現る、なんて見出しで週刊誌やスポーツ紙を賑わせていた
しかしこの事件は異常者による猟奇殺人という事でかたが付いていた
真相は闇の中だ
だが、事件後出てきた謎の化け物の噂だけはどんどんと広まっていた
そしてその化け物の正体が水乃達の目の前にいる
今いるコイツこそがブラッディトランスと呼ばれる『謎の化け物』『吸血鬼』の正体だ
人間のような体の作りをしているが、狼のような頭が二つあり、体の色も青緑に近い
トランスウィルスに感染し魔獣オルトロスの力を得ており、非常に凶暴で好戦的になっていた

「フン!!」

オルトロストランスが振り下ろした腕の一撃を何とか水乃と瀬戸はかわした
そして素早くオルトロストランスの横を通り抜け、店の出口へと駆け出す

「おい、お前らも早く逃げろ!」

「いや、その必要はない」

水乃の後に入店していた二人組みの男のうちの一人が立ち上がる
立ち上がった男の対面に座っている男は立ち上がろうともしない
逃げる必要はない、と言った男は何もしようとせず、代わりにもう一人の男がオルトロストランスの前に立ち塞がった

「炎、これは実戦だ。気ぃ抜くなよ」

「はい、解ってるっす」

これは何かの偶然か
その場に居合わせたのは起動実験を終え、夕食を食べる為に来店していた炎と健二だった

「おいおい、あんな化け物相手に何しようっていうんだよ」

水乃は炎の後姿を見ながら言った
炎とオルトロストランスの体格差はそれ程あるわけではない
だが、オルトロストランスの攻撃力は相当なものだ。店の床を簡単に抉るだけの力はある
人間の体だった簡単に引き千切られてしまいそうだ

「あんなトランス如き…」

炎はアインスデバイスを展開させ、アインスデバイスを腕に装着する
すでに慣れた手付きで一連の動作に無駄は無かった

「変身!」

炎の声を認識し、キーとデバイスが作動する
光り輝く赤いノイズが炎の体を取り巻き、仮面ライダーアインスが現れる
トランスに対抗する為にネオファクトリーが作り上げたライダーデバイス
それが今ここに秘めたる力を発現させた


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