| 立ち上る炎と辺りを埋め尽くすような黒煙 アディックの放った炎は建物や資材などに乗り移り、徐々にその大きさを増していった 戦闘の開始は突然だった 俺達が鳥車で移動していると、行く手を阻むようにして数人の男達が鳥車の行く手を遮ってきた 俺達を乗せた鳥車には護衛と呼べる奴がアディックしか乗っておらず襲撃するには持って来いと思ったのだろう 「お命頂戴」とかどこの国の人間だよ、と突っ込める台詞を大声で言ったと思うと鳥車に衝撃が走った まず車を引っ張っていた鳥が矢で射られ、そして車輪が破壊される 「テロリストどもかっ!」 アディックは咄嗟に備えてあった杖を握り締め外へと飛び出していく 1対4の戦いだったがアディックの力は凄まじいものであり、襲ってきた奴等を圧倒していった モロクの街の一角が一瞬で炎に包まれた瞬間だった りあらぐ 第8話 アディックの暴れっぷりは相当なもので、文字通り一旦火がついたら止められないという感じだった アディックの犠牲になった人は鳥車を襲ってきた奴等だけだったが その後、アディックは目に付くもの全てを焼き払おうとした ただの破壊者になってしまったアディックの目に映ったのは一人の少女 このままの勢いだとその少女も殺しかねない 俺が飛び出したのはほとんど衝動的だった アディックの武器を奪い、何とかその少女と仲間であると思われる奴等の前に飛び出る 間に合わないと思ったが少女は連れの少年に助けられ、間一髪で消し炭になるのは逃れていた 「善人の仮面を被った破壊者め」 俺はアディックから奪った杖を両手で構えてジリジリと距離を詰めていった アディックの炎はかなりの有効射程距離を持っており、離れて戦うのは危険だ だからと言ってアディックが簡単に俺の射程内に入ってくるとは思えない 少々の火傷は覚悟して突っ込むしかないだろう 「私はカグラ様の為なら何でもする。邪魔をするようならば女子供でも容赦はしない」 完全なる狂信者。カグラという男の圧倒的なカリスマに惹かれているのだろう アディックの態度から今言った台詞に偽りはないと感じさせる 厄介な相手だ 必要以上の忠誠心を持った人間というのは相手にするのは得策ではない 最後の手段で玉砕を使うくらいまで主人を慕っているからだ 「ビゼン、貴様も邪魔をするならば消し炭にしてくれる!」 アディックは身に纏ったマントを翻しながら俺へと突っ込んでくる これは少々の計算違いだ。まさか接近戦を挑んでくるとは思ってもいなかった 今までの戦い…アディックはどちらかと言えば遠距離からの炎攻撃主体の戦い方だった だから俺は距離を詰めれば何とかなると思っていた 「ちぃっ!!」 アディックは一瞬だけ体を低く沈めた 俺はアディックを迎え撃つようにして手にした杖を構える 地面に手の平を擦り付けそうな程の低姿勢でアディックは右手の平を俺の胸目掛けて繰り出してくる 俺はその一撃を紙一重で避ける アディックの手が掠めた部分がジッと音を鳴らした。俺の着ていた服の胸の辺りが焦げている 「うおらぁ!!」 アディックの攻撃を避けた動作の勢いを殺さずに、その力の流れに任せて体を一回転させる そしてそのままアディックの後頭部に杖の一撃を叩き込もうとした しかし、杖の先端はアディックの左手の平に掴まれてしまう そしてアディックが笑ったかと思うとアディックの左手に掴まれていた部分が爆発する 「くっ!」 ボン、と鈍い音を響かせて杖は俺の手の中から吹き飛んでいく そのまま間髪を入れずにアディックの右手が俺の鳩尾に添えられる マズイ、アディックはその手で触れた部分を爆発させる事が出来るのはたった今証明済みだ 爆発の規模がどれくらいの大きさなのか解らないが、下手すれば風穴が開いてしまう 「備前先生!!」 俺とアディックに向かって突っ込んでくる影があった そいつは剣を高々と掲げながら俺たちへと近づいて来る 「マグナァム! ブレイク!!」 そいつは剣を勢いよく地面へと突き立てる 突き立てられた剣を中心に爆発が起こり、俺とアディックはそれぞれ逆の方向へと吹き飛ばされた その直後だ、アディックの手の平の中で小規模な爆発が起こったのは 「大丈夫ですか!?」 「お、お前、村瀬か?」 俺を助けてくれたのは、俺が勤務している学校に通う村瀬守という少年だった それほど体が強い訳でもなく、結構保健室を利用している奴なので名前は覚えていた しかし何で村瀬がここに… 「って、村瀬がいるのを驚いてる場合じゃないな… さっきのはナイスタイミングだ、助かったぜ。助けてくれたついでに…アイツを追い返すぞ」 「えぇ、下手をすれば梶原も殺されていました…絶対に許せません」 「オーケィ、気ぃ抜くなよ」 今は一人でも戦力が多い方がいい 村瀬の加勢が入っただけで結構の戦力差になるだろう どうやらあの杖が炎の力を増大させているようだ。少し前程の圧倒的な火力はない それならば俺と村瀬で攻めても十分に勝機はある 「貴様…らぁ…」 アディックはゆっくりと起き上がり俺と村瀬を睨み付ける 主を守るという忠誠心の濃さがアディックの瞳の奥にある憎悪の暗闇を増していった 底なし沼のようにアディックの瞳の奥は黒く、暗く、冷たく光っていた それでいて燃え盛る炎よりも熱い憎悪の炎を滾らせている 憎悪に火がついたアディックは退くという行為をする事が出来ず、傷ついた体を無理矢理立ち上がらせようとした 「その辺にしとけよ…」 しかし立ち上がろうとしたアディックを瀬戸が制止する どこからか持ってきたナイフをアディックの背後から首筋に当てていた 「セト…お前もっ!」 「人の話は最後まで聞けよ。お前はトチ狂って自分の主人まで火葬する気か?」 「何ぃ!」 「一旦ブチ切れると歯止めが利かないようだな… フン、目の前で黒焦げになられるのも嫌なもんだからな、一応助けておいたぞ」 そう言うと肩に担いでいたカグラを乱暴にアディックの前へと放り投げた 衣服の所々は焦げているが、命に別状はないようだ 「どうだ、これで一旦退かないか? 俺達だって無駄に戦いたいわけじゃない、お前が退くなら俺達もこれ以上今日はお前に関わらん」 「…ちっ!」 アディックは瀬戸の申し出に答えを出さなかった だがカグラを背負い、無言でその場を去ろうとする 多勢に無勢と思ったのか、それともカグラを危険に晒してまで戦うのは止めようと思ったのか どちらにせよ助かった、と言うべきなのか… 「備前、お前は協力するか敵対するか、そんなんしか出来ないのかよ」 「っせーよ…たった一人の人間を守る為だけに大勢の人間を黒焦げにする奴と話し合いなんて出来るかよ」 「あー瀬戸っちだー!」 俺と瀬戸が毎回恒例のいがみ合いをしている所で何とも間の抜けた声が聞こえてくる 「梶原…砂果!?」 瀬戸はその声の主の名前を発すると、何とも微妙な顔つきに変化した やれやれ、といった感じの表情だ 俺が瀬戸のこんな表情を見るのは初めてだった 「あぁそうだった、村瀬は何でこんな所にいるんだ?」 「え?」 ってそんな事言えたもんじゃないのか よく考えれば俺もどうしてこんな場所にいるのか解らないんだからな 「えーっと…話せば長くなるって言うか」 「そうか、ま、その内戻れるだろ」 「…備前先生、馴染むの早いですね…」 〜次のページへ〜 |