あの後、ドゥエガーの住処に戻ってきた
勿論、備前先生と瀬戸先生も一緒にやってきた
というのも、ドゥエガーの方が備前先生と瀬戸先生をここに招待したのだ

「まさかあのアディック相手にあそこまで戦えるとは…流石だな」

「そうかい」

備前先生は相変わらず普段はそっけない態度で他人に接している
だけどそれは表面上だけだって僕は知っている。本当はさっきの戦いで見せたような熱い人だって
昔結構暴れてたりした時期があったみたいだけど、いい先生には変わりない、そう思っている

「瀬戸っちー、何で瀬戸っちもこっちに来てるのー?」

静かに時が経過している部屋の中央とは違い、部屋の隅の方では梶原の声が響いていた
瀬戸先生の腕に抱きついて何やら騒がしく喋っていた

「何度も言うようだが、ベタベタくっ付くなよ…」

抱き付かれている瀬戸先生の方はどこかげんなりしていた
瀬戸先生は学校で英語の授業を教えている先生だ
授業中は厳しかったり甘かったり、その日の気分で授業を進めるような先生だった
でも教え方は上手で解りやすい
そしてその反面、性格の方はまったくもって解り難い人だ
どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出しており、気軽に話しかけるとかは躊躇してしまう
それは職員室でも同じ事なのか、簡単な引継ぎ報告以外では他の先生と話さないなんて事も耳にする
だけど備前先生とはその限りではないようだった
保健室に行くと結構な確率で瀬戸先生に遭遇する
どこか暗い面を持っている、僕はそう感じた

「マモル、俺は驚いたぜ、まさかアディックに向かって行くとはな
俺達の中でも真っ向から挑もうなんて思う奴は多くないんだぜ?」

「え? あ? そうなんですか…僕、あの時夢中で…備前先生が危ない、って思ったらつい…」

「先生? あぁ、何かお前そんな事言ってたな、へぇこいつ先生ね。何の先生やってるんだ?」

そう言ってドゥエガーは備前先生をまじまじと見ていた
先生らしくないって思っているのだろう。でも初対面の人はみんなそうだ、って先生自身が言っていた事だ

「プリーストやってんだからそっち系か、ふぅん…教師ってのはもっとこう、頭でっかちだと思ってたけどな」

「悪かったな、俺は人にものを教えるのは苦手なんだよ」

備前先生は懐からタバコを取り出して火を着ける
そして煙を吐き出すとドゥエガーの方に視線を移す

「で、あいつらは一体何者なんだ? この街を統治してるとか言ってたが」

「ふん、大方力で押さえつけてるんだろうよ。アイツならやりかねない」

備前先生の言葉に続いて瀬戸先生が言った
あいつら、アディックとカグラの事だろう
実際にこの目で見てこの街を取り巻く問題がとても大きいものだと知った
カグラという男はチラリとしか見れなかったが、問題なのはアディックという男だ
強大な魔力を持ったウィザードでありながら、その身のこなしはアサシン以上だとも思われる
そしてカグラに注がれる忠誠心。これが何よりも強い
そんな人達を相手にドゥエガー達は戦っているのだ

「まったくその通りだ。マモルには話したから知っているな」

「えと、恐怖政治とかってのですか?」

「あぁ、従うものには平穏を、従わないものには死を、それがあいつらのやり方だ」

ドゥエガーは両拳をテーブルに叩き付ける
ここまでカグラを憎む理由を僕は知っている
街の人達も本当はカグラの事を憎いのだと思う
だけど、この街でドゥエガー以上にカグラを憎んでいる人はいないだろう
この場にいる人間では僕以外に知らない事だけど、僕はその憎しみの訳を本人から聞いた
以前のリーダーの事もそうだが、また別の理由がそこにはあった

「で、それに反対してる人間が集まってる組織が、ここなんだな」

瀬戸先生は腕に絡み付いている梶原を引き剥がし、ドゥエガーの対面へと移動する
ドゥエガー達が恐怖政治に対する反組織というのは話していなかったが、瀬戸先生は気付いたようだった

「よく出来てるもんだぜ、そこかしこに武器が隠してあらぁ」

そう言って瀬戸先生は足で軽く床を鳴らす

「こいつは驚いたな、何で解った」

「簡単だ。まぁ今の床の音のように、他の場所と音が違うってのがひとつ
…一番の判断材料はお前自身だな。明らかにそういう人間だ、真っ向から全てを叩き壊そうとする人間だからな」

「何で解ったんだ?」

驚いているドゥエガーの質問に瀬戸先生は答えない
いや、言っていいか悪いか悩んでいるようにも見える
瀬戸先生は備前先生の顔をチラっと見ると口を開いた

「似たような奴を知っている」

「俺かよ」

…別に悩んでいたわけじゃないようだった
どこか含みを持たせた演出、というのが妥当なところだろう

「で、そんな話を聞いちまった以上、お前はどうにかしたいんだろ? 備前」

「……さあな」

瀬戸先生の問いかけに備前先生はタバコの煙を吐いて答えた
どうにかしたいって事はモロクの街をカグラの手から解放したい、そう思っているんだろうか

「えー? 備前先生も? やっぱり悪い人は許しといちゃ駄目だよねぇ」

「え、梶原も!?」

「村瀬、お前もかよ…」

驚いた
僕も備前先生も梶原も
モロクの街をカグラの恐怖政治から救いたい、そう思ってたのだ
そもそも僕達は元の世界に戻る手立てを探してモロクに来たのだ
奇跡の業を持った人物がカグラだとなるとカグラを打ち倒すのは得策でないと思う
だけど逆に言えばこれがチャンス
カグラに近付くチャンスでもある
モロクの街を救いつつカグラに接近出来るかもしれない
…街を救うなんて後付けの理由かもしれないけど

「何だよ、お前らも俺達の組織に入るのか?」

「いや、そこは相談なんだが…」

「何だ?」

「組織に入るってのじゃなく、組織に入らない個別の団体、みたいに出来ないか?
勿論お前達の練っている作戦には乗ろう、しかしだ、俺達は俺達で別行動をする。広い意味でな」

「つまり、俺達の組織には入らないが、俺達と一緒に行動はする。だが個人行動もさせろって事か?」

瀬戸先生とドゥエガーの交渉が始まった
どうやら瀬戸先生もモロクの街をカグラから解放するのに賛成なようだ
だけど話している内容が気になる
簡単に言えば組織の枠に捉われない一個小隊とでも言うのだろうか

「権限があるんだろ? お前達の組織にしか使えない権限。
モグリの情報屋やら裏の業界の人間やらに接触出来るってのが」

「あぁなるほどそういう事か…さてどうしたものか」

ドゥエガーは天井を見上げて何やら考えている
裏の業界の人間とかはやっぱりいるんだ
でもそれって、組織に属さないで権限だけを寄越せと言っているようなものだ
そういう情報とか人の繋がりだって立派な武器になる
それを寄越せって言うんだ、きっと無理だと思う

「なあマモル。お前は本気か?」

そんな事を聞かれたって答えはひとつなんだ
0じゃない可能性なら僕は何でもしようと思っている
ドゥエガーの問いかけなんて考える理由もない

「僕は本気です。…これしか、無いんです」

「そうか、解った…そっちの条件、飲もう」

「感謝する」

「なに、お前達は何か違う。何が違うかって言われればどうとも言えないが
お前達がいればきっとモロクをカグラの手から救えるんじゃないか、そう思っちまうんだよ」

ドゥエガーは瀬戸先生の提案に賛成してくれた
これからの目標は決まった
カグラの手からモロクを救う事。そしてカグラに接近する事
上手く行けば元の世界に戻る手立てを見つける事が出来るかもしれない
一歩、前進したような気がした


〜次回へ続く〜

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